第63話 腐敗竜動く。

(ふむ……。やはり師匠というからには師匠っぽい事をするべきなのでしょうか……?とりあえず適当に叩きのめせば戦闘技術やら向上するのでは?)


 師匠呼ばわりされたティフォーネは、エルを見ながら何やら不穏なことを考えていた。なお、彼女には当然のことながら他人に物事を教える指導スキルなどあるはずもない。とりあえず適当に叩きのめせば強くなるのでは?的にどこぞの自分の子供を谷に突き落とすライオン風味の鍛え方を行ってみようか?と思うが、人間……もとい竜でも適当に殴ればレベルが上がるというものではない。下手に殴ったらシュオールがうるさいしなぁ……とティフォーネが思っている中、思わずエルの背筋に寒気が走る。

 まあそれはともかく、アヴリルはティフォーネを見て、どこからどう見ても人間では不可能なその膨大な魔力に、彼女が人間……亜人ですらない上位存在であることをあっさりと見抜く。


(あれはどこからどう見ても空帝ティフォーネですよね……。まあ、こちらに敵対的ではない……というか好意的なので黙っておくべきでしょう。彼女が切れたらここら辺一体は文字通りの意味で消滅しますからね……。)


 あれだけガバガバでバレバレな態度を取っていれば、ある程度の知識の人間ならあっ(察し)となるのが普通である。

 だが、ティフォーネ的には別にバレてもバレなくてもどっちでもいいだろうし、そんな事で態度を変えるつもりはないだろう。

 彼女がこちらに対して好意的なのは、彼女からしてみたら、親友の息子というポジションだからだろう。

 人間には無関心な彼女でも、自分の仲間であるシュオールを敵に回すのは、絶対に避けたいと考えるのが普通である。


「……という訳で、なんだかんだで竜様がパワーアップしましたが、何か策はありますか?」


「ともあれ、開拓村近辺に引き付けて倒すのは最終手段にしたほうがいいでしょうね。開拓村まで引き寄せれば大砲や退城兵器など大型の武器が使用できて攻撃の地点では有利ではありますが、その点村の近くで腐敗竜の瘴気や死体が存在すれば、疫病が流行して村を放棄しなければなりません。それは誰にとっても不利益でしょう。」


 それはエルにとっても最悪の選択である。なんだかんだで彼の力もあってあそこまで大きくなった村を放棄するなどやりたくないのが本音だ。

となれば村以外の場所でどこかで決戦場を整える必要がある。できれば罠が多くて敵を消耗させる場所がいい。だがそんなところがどこにあるんだ……?と、そんな風に皆が考えていた所でどこかの遠くで咆哮が響き渡った。

 それを聞いたアヴリルは慌てて上空の使い魔から腐敗竜本体を確認する。


「腐敗竜本体が動き出しています!!これは……明らかにこちらを目指しています!!」


今まで無目的にうろうろしていた腐敗竜本体は、何らかの魔力波動を感知したのか、今までは異なり明らかに目的を持って歩みを進めた。

それは、明らかにこちらに向けての侵攻を行っていたのだ。それに慌てて、彼らは迎撃する準備を行い始めた。



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