第62話 風と大地の力
エルに師匠呼ばわりされて、上機嫌にぶんぶんと尻尾を振っているティフォーネは、懐から一枚の鱗を取り出す。
彼女が指に挟んだその漆黒の鱗は、たった一枚ながら凄まじい力を放たれているのがここからでも理解できる。膨大な魔力を秘めていて、エルと極めて親和性の高い魔力を発するその鱗は、エルの母親、シュオールの鱗そのものだった。
「と、いうわけでこれは貴方の母親シュオールからもらってきたものです。
今回はレベルアップというよりも極めて強力な『防毒』の力が込められた鱗ですね。
これがあれば、少なくとも貴方は腐敗竜の毒気は平気になるでしょう。
「泥遊びはしてもいいが、病気にかかられては困る」ということでしょうね。
本当に過保護ですよねぇあの女……。まあ、これは貴方の物です。受け取りなさい。」
あ、ありがてぇ!マジでありがてぇ!!とエルはその言葉に本気で感謝する。
バイオハザード待ったなしの病気の塊との格闘戦など絶対に行いたくないが、この状況ではするしかないか……!と覚悟を決めていたが、その心配がなくなる事は彼にとって大きい。
いかに竜であろうと、未知の病気には勝てない。エボラ出血熱のように全身から血を吹き出しながら死亡するなどゾッとしない。
その可能性が大幅になくなったのは本気で感謝である。
さらに、それだけではなく、ティフォーネは純白に輝く竜の鱗……すなわち、自らの鱗を同時にエルへと差し出す。
「あとは、これは私を気分よくしてくれたご褒美です。この鱗を貴方に差し上げましょう。この鱗には強大な風と天空の力を持つ私……じゃなかった空帝ティフォーネの力が秘められています。もっとも大地を司るシュオールの息子である貴方は相性が悪いのでレベルは……そうですね。5程度上がればいい感じですかね?」
確かに彼女の言う通り、風を司るティフォーネと、大地を司るシュオールの魔術的相性はかなり悪い。これは性格的な問題ではなく、自然の魔力の流れ的、相性的な問題なので仕方ない。
それでも、エルは二体のエンシェントドラゴンロードの力を得る存在になるのだ。(ティフォーネがエンシェントドラゴンロードだとは知らないが)
その力を発揮できれば超越的存在になれる……かもしれないが、今の彼にはそんなことは夢のまた夢である。
「ともあれ、これを使いこなせれば、貴方は土と風の背反する力を制御できることになるでしょう。……まあ、使いこなせれば、の話ですが。
受け取りなさい。風のエンシェントドラゴンロードたる力の一部を。」
その瞬間、エルの肉体に純白の鱗と漆黒の鱗が入り込み、エル自身に力を与える。
母親であるシュオールの力はエルにとって最も親しい力だ。強大な力であるとはいえ、それは実にすんなりとエルと一体化して彼の力になる。
問題はもう一方の力、空帝ティフォーネの力である。
そこに封じ込まれた強大な風の力は、暴風のような魔力乱流となって彼の内部を荒れ狂っていた。囚われる事なく自由自在に吹き荒れる暴風神の力、それこそが彼女の力の本質である。
(ぐぇえええ!!体の内部で風が荒れ狂ってるみたいだ!!き、気持ち悪いぃいい!!)
(だったら……。抑え込むしかない!!行くぞぉおお!!)
エルは新しく得たシュオールの力も発動させ、シュオールの鱗の力と自分自身の力でその風の力を抑えにかかる。
元より土と風は対極の力。相性はよくないが、必死になって抑え込み、耐えるしかない。荒れ狂う風に対して地面に伏せる……もとい必死で耐え、その魔力が弱まった所で一気に抑え込む作戦である。荒れ狂う風の魔力が収まった瞬間、一気にティフォーネの鱗に対して、魔力を放出して無理矢理抑え込む。
その力の抑え込みによって、次第に弱まっていったティフォーネの鱗は、大人しくエルの力へと融合していった。
『ぐぁあああ!!き、きつい!!きつすぎるよ~!!』
思わず寝転がったエルを見ながら、ティフォーネはふむ、と顎に手を当てて言葉を放つ。
「ふむ……。なるほど。解毒効果のある《浄化の風》の術式を覚えたようですね。風も大地も同様に浄化の概念が存在します。お互いに共通する概念の述式を覚えるのも道理ですか。」
「ともあれ、今回は手助けしましたが、あくまで腐敗竜本体と戦うのは貴方自身です。私が出張ってケリをつけるのでは面白くないでしょう?こういう時は後方腕組みをしながら弟子の働きを見守るのが師匠の役目と聞きました。せいぜい楽しませてもらいましょう。」
そんなドヤ顔しながら後方腕組み師匠ムーブ決める気満々のティフォーネに対して、エルは思わずため息をついた。
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