第64話 憎悪と侵攻。
腐敗竜ルトナの意識は激痛と苦痛に悶えていた。痛い、痛い、痛い、苦しい、苦しい、苦しい。何せ生きながら体が全身が腐っているのだ。その苦しみは誰も知るはずもない。
皮膚はとっくの昔に存在せず、筋肉や内臓組織も腐れ果て、それらの苦しみ、猛烈な不快感は常に彼を苦しめている。誰からも嫌われるおぞましいこの体。自分自身ですら忌み嫌い狂気へと落ちているこの肉体。
これならばきちんと死んでいるドラゴンゾンビの方が遥かにマシである。
何もかもが腐り果てていく中、彼の意識は完全に発狂していた。
なぜこんなことになったのか。そうだ。悪いのはシュオールだ。全て何もかもシュオールが悪い。我を長年封印して苦しめたあの諸悪の化身!!大地を支配すると公言して憚らないあの高慢の化身!!奴さえ倒せば何もかも全てうまくいく!!
奴を倒し、大地の力を奪い取ればこの腐敗も治療できるはずだ!!
否!それより許しがたい!人間や亜人などという虫けらどもが痛みも苦しみもなく、なぜ我が苦しまなければならない!!誰もかれも生きるもの全て生きながら腐らせてやる!!皆が我と同じ苦しみを味わえば皆公平になる!大地も人々も皆全て生きながら腐れ果てればいい!皆公平に苦しめ!!と狂気に満ちた彼は、ふととある魔術の波動を感じる。
それは、彼がもっとも憎む竜の魔力波動。大地のエンシェントドラゴンロード、シュオール。シュオール!シュオール!シュオール!!
呪わしきその名前!この我が殲滅してこの封印された屈辱!肉体の腐った果てしのない苦痛!!全て貴様にたたき返してやる!!我々が撃退するべき混沌の力を手にして何が悪い!その力で貴様を倒そうとして何が悪い!封印されてしばらく反省しろ?肉体が腐ったのはお前が得た混沌の力のせいだ?ふざけるな!!滅ぼしてくれる!!
その考えに侵された腐敗竜ルトナはシュオールの魔力は同を感じたその方面へと侵攻を開始した。
「―――腐敗竜がこちらに侵攻しました!!まっすぐこちらを目指しています!!」
使い魔で動きを監視していたアヴリルはその急激な動きに驚いた。
今までは目的なくウロウロしていた腐敗竜が目的を見つけたように急激にこちらに動き出したからである。
「あー、やっぱり来ましたか……。全くエルダー級の分際で我々に逆らおうなどと……。我々が撃退すべき混沌の力を手に入れて下剋上を起こそうなどとは全く身の程知らずが……。」
それに対して、エルは思わず慌ててしまう。強大な敵に対して何の備えもなしでぶつかるなどたまったものではない。何らかの罠や戦術など備えている事は当然である。
だが、こんな短時間ではそんな備える時間などない。あわわわわ、と慌てるエルに対して、ティフォーネは激しく一喝する。
「慌てるな!それでもエンシェントドラゴンロードの息子か!!戦場で万全の態勢を整えるなど無理!在る物、できる物で戦わなければならない!!罠がないのならそれなりの戦いをするしかないだろう!!覚悟を決めろ!!」
ティフォーネのその一喝により、エルは慌てた状態から落ち着く事に成功した。
確かに彼女の言う通りである。戦場で自分の思い通りになることなどあるはずがない。今ある情報や戦力を元に何とか戦わなければならないのである。
『よし!やるしかねぇ!!戦う準備だ!!ドワーフたちは避難して後方に陣地を作ってくれ!!絶対に接近戦は行わないように!』
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