第56話 腐敗竜とドワーフたちの最後
「撃てーーッ!!」
カタパルトに改良を加えた巨大投石器トレビュシェットやマンゴネルが次々と岩を投げつけて腐敗竜へと攻撃を仕掛ける。
この前線基地には、対腐敗竜用に大量の攻城兵器が存在している。
それがついに火を吹く日がやってきたのである。
トレビュシェットやマンゴネルだけではなく、バリスタなども巨大な矢が次々と放たれて腐敗竜へと突き刺さっていく。
さらに、巨大な石が腐敗竜に命中すると、そのまま腐った肉がずるりと地面に落ち、次々とそぎ落とされていく。
腐敗竜はその名の通り肉が腐敗しているため、頑丈極まりない竜鱗も存在しない。
強力な物理攻撃でその腐った肉をいとも容易く削ぎ落すことができるのだ。
つまり、遠距離からの質量攻撃こそが最も有効的なのである。
「よし!石だ!!次々と石を持ってこい!」
「ゴーレムたちを前に出せ!奴を押しとめるんだ!!」
ドワーフたちは腐敗竜から発生する毒の空気対策に魔術による浄化用マスクを身に着けながら活動している。何せ今は若者たちがいなくなってしまったので、手が足りない。そのため、ウッドゴーレムたちやストーンゴーレムたちに弾である岩を持ってきたり、バリスタの再装填を行っているが、それよりも前線に立たせて腐敗竜の進軍を防いだ方がいいとの判断である。
だが、その指示は実現されることはなかった。遠距離から攻撃されている事に切れた腐敗竜は、息を吸い込むとそこから猛烈な腐敗のブレスを吐き出して攻撃を仕掛ける。その腐敗の吐息は、攻城兵器の準備を行っているドワーフたちへと直撃する。
「ぐぁあああああああ!!」
「ぎゃあああ!!ひ、皮膚がぁああ!!」
その瞬間、服の隙間から入り込んだ腐敗の吐息が、ドワーフたちの皮膚を腐らせあっという間に肉体を腐敗させ、毒気が体の中へと回って死亡していく。
毒の空気を防ぐためにマスクはしているが、服の中にまで入り込む毒気までの対策はしていなかったのである。
腐敗した皮膚から全身に回る毒気による敗血症性ショック。それにより頑丈なドワーフたちですら容易く死亡してしまったのだ。
空気によって流れてくる毒気、毒ガスというのは非常に厄介である。
例え、塹壕に隠れていたとしても空気の流れによって入り込んでくるのだ。
しかも、そのブレスは呼吸だけで皮膚だけでも触れてはアウトというのは厳しすぎる。何とか地下にとっさに避難した彼らは、空気浄化用装置を全開にしてブレスが地下に入り込まないように努力する。
毒気は塹壕に籠った敵を殲滅するのに最適な兵器である。まさかこんなところでそれが実証されるとは思わなかっただろう。
腐敗竜は、自分の邪魔をした邪魔者を許さんと言わんばかりに前線基地の上にのしかかり、その地面を掘って地下居住地へと入り込もうとする。
それを見ながら村長はもはやこれまで、と決断する。
「もはやこれまでか……。皆すまなかったな。ワシのわがままに付き合ってくれて。ここまでやればシュオール様にも顔向けできようというもの。
腐敗竜よ!!我らドワーフたちの意地を見るがいい!!」
腐敗竜は気がつかなかったが、その地下居住区には多数の樽に込められた大量の黒色火薬が存在していた。これらは、魔術で保管され、いざという時の自爆用として大量に地下に保存されていたのである。
そして、ついにそれに対して火をつける時が来たのだ。
(シュオール様……。ワシらはシュオール様のご意思に従えたかのぅ……。)
そして、次の瞬間全てが爆炎に飲み込まれた。
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