第57話 満足する最後

「ぐ……う……。」


 猛烈な爆炎の中、長老は「運悪く」生き残ってしまったらしい。

 他の皆は爆発で死亡している。腐敗竜もダメージを受けたかは不明だが、とりあえずここには存在しない。

 恐らく、ここにはもう用がない、と捨てて立ち去ったのだろう。

 瓦礫で下半身が潰れているのがはっきりわかる。もう長くはもつまい、と長老は考えている中、先ほどと同じ疑問を抱いてしまう。

 同胞を道連れにする必要があったのか?本当にこれで良かったのか?自分の役目はこれで果たせたのか?そんな風に苦痛と共に悩んでいる彼の元に、とある声が聞こえてくる。幻聴か?と思ったが、それは彼が使えるシュオールの言葉そのものだった。

 脳内に響き渡る声は、長老に向かってこう言葉を放つ。


(よく我が命じた役目を果たした。お前は立派にやるべきことを成したのだ。

 ……もし、お主が望むのなら傷を癒すこともできるが?)


 その言葉に、もはや首を振る力ですらない長老は心の中で拒否を行う。


(いいえ。我が竜よ。ワシたちは成すべきことを行った。それに同胞の命を巻き添えにしておいて、ワシだけ生き延びるわけにはいかん。どうか静かに最後を迎えさせてくだされ。)


 その心の声と共に、シュオールからの声は消える。それが幻聴なのかは分からない。だが、自らの神とも言える存在からのその言葉を聞けて、長老は満足げにほほ笑んだ。


(ああ―――。良かった。満足した。ワシらの人生は無意味ではなかったのだ。)


 それが自分自身の心が生み出した幻でも構わない。その言葉は、長老に満足感と幸福感を与えていた。そして、その満足感に包まれたまま、長老は崩壊した岩の下敷きとなっていった。


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ドワーフたちの居住地から少し離れた場所。

居住地が吹き飛んでいるのを見ている二人の竜人の女性が存在した。

すらりとした銀髪に加えて全身白でコーデされた杖を持った美人。そして、もう一人は茶髪で小柄だが、


「……。あれで良かったのですか?貴女の力であればあの傷を癒す事も瞬間転移で避難させることもできたでしょう?それを見殺しとは随分いい趣味をしていますね?……まあ、ドワーフたちの命などどうでもいいといえばそれまでですが。」


 彼女たちは人間ではない。大自然の化身に人間の命の尊さや道徳・倫理を説いても無意味である。何人死のうが「だからどうした?我々には関係ない」ですませる人でなし(文字通りの意味で)が彼女たちである。

 だが、それが自分たちの命令で行ったことには流石に別である。


「……あやつらは満足して逝った。ワシらの言葉を拒んだ。それが全てじゃ。拒んでいるものに無理矢理強制はできん。」


「そうですか。ですが一言だけ言っておきましょうシュオール。これは全て貴女の責任です。全て貴女が背負うべきことです。

 貴女が腐敗竜を滅ぼしていればこんなことにはならなかった。貴女がドワーフたちにこんな事を命じなければこんな事にはならなかった。封印が解けた時に真っ先に貴女が駆けつけていればこんな事にはならなかった。全て全て貴女の責任であり、彼らは貴女のために犠牲になったのです。それだけは忘れないように。」


 その言葉に、シュオールはこくりと頷く。比較的優しいシュオールに比べて、ティフォーネは心の髄から文字通りの『人でなし』である。何千人死のうが国が滅ぼうがドワーフたちが死のうが別段どうでもいい、と答えるのが天空そのものである空帝ティフォーネという存在の本質である。

 実際、長老たちが死んだのは彼女にも責任はあるが、彼女は別に何も感じてはいない。いないのではあるが……。


「ですが……。『面白くない』ことは事実ですね。ちょっと強めに干渉した方がよさそうですね。」


 彼女たちは凄まじい力はあるが、別段全知全能という存在でもない。予想外のこともあれば、裏をかかれることもある。だが、超然としている彼女たちでも裏をかかれたら「面白くない」という感情を抱くのは当然である。

 ともあれ、こうしたこともあってティフォーネは今回の出来事にさらにある程度干渉することを決意した。


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