第55話 老ドワーフの意地。


 腐敗竜が復活した状況を真っ先に探知したのは、やはり近くにあるドワーフの居住地だった。封印が解けることを予知して、若い者たちは開拓村へと逃がして、自分たちだけで監視していたが、まさか嫌な予感が完全に当たるとは、と長老は半地下都市の居住地で思わず天を仰ぐ。


「覚悟はしていたが、腐敗竜がワシらの世代で復活してしまうとはな……。

 シュオール様に対して申し訳がたたんわい……。」


「長老!!ワシらも早く逃げんと!!このままでは腐敗竜に飲み込まれるだけじゃぞ!!」


「いや、腐敗竜を復活させたなどワシらは面目がたたん。シュオール様へとお詫びとして、ワシらはここで腐敗竜の生贄になろう。安心せい。最後の最後まで腐敗竜を抑えこむための殿となろう。おぬしたちはシュオール様の息子にこれを知らせろ。それこそが最も重要な事じゃ。」


 そう言いながら、長老は自分の斧を手にすると、半地下都市を要塞にして腐敗竜を迎え撃つための準備に入る。

 元々、ここは腐敗竜復活のために作られた要塞であり前線基地である。

 それなりの大型武器やら何やらも揃っている。

 だが、問題は人数である。たった一人だけで巨大要塞を動かせるほど甘くはない。

 さて、どうしたものか、と考えている長老に対して、ドワーフの老人たちは次々と声を放つ。


「長老!水臭いぜ!どうせ俺たちは老骨の老いぼれなんだ!!せいぜい一旗上げてやろうぜ!!」


「おい!緊急用の狼煙を上げろ!!ここ出身のドワーフなら緊急事態が分かるはずだ!!伝書鳩なども開拓村へと飛ばせ!!」


「地下居住区に籠る準備を行え!!空気清浄用の魔導エンジンを全開にしろ!!腐敗の空気が地下部に入らないようにするんだ!!空気浄化の魔術を使える奴らを集めろ!!」


 腐敗竜と戦う際に問題になるのが、そこから放たれる害毒、つまり疫病である。

 疫病は空気から汚染されるという知識を得た彼らは、毒の空気を吸い込まないためのマスクや地下施設が毒気によって汚染されないための空気浄化用の魔導機械などを導入して腐敗竜との闘いに備えていたのだ。

 地下施設に籠り、最上部にあるドワーフたちが作り出した巨大な攻城兵器などで腐敗竜と戦う。これが彼らの編み出した戦術である。


「すまんな……。皆、最後まで付き合ってくれ。少しでもヤツの足止めをするぞ!!」


おー!とドワーフたちは歓声を上げて、腐敗竜迎撃の準備のために走り回っていた。

開拓村やエルに、狼煙で腐敗竜復活を知らせ、足止めを行い時間を稼ぐ。それが決死隊となった彼らの目的であった。そのために、彼らは全滅覚悟で腐敗竜に立ち向かうのだった。


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