第41話 コボルトとドワーフ
そんな風にガチガチに魔術で縛り付けられたコボルトだったが、彼らは極めて優秀な鉱夫としての能力を持っている。
注意すべきは、銀やミスリルを腐らせてしまい、腐銀……コバルトを作り出してしまう点であるが、その点さえ気を付ければ彼らは極めて優秀だった。
初めは元はゴブリンという事で人を襲うのではないか、と恐る恐る扱っていた彼らだったが、少しずつ受けられていったのだ。
(とは言うもののやはり恐ろしいので、少数だけではあるが)
ともあれ、少数のコボルトを試験運用するという形で話が纏まり、コボルトも鉱山夫として活躍するようになった。
それからしばらく後、エルは冒険者ギルドなどのコネを使い、開拓村からさらに離れたドワーフの村へと訪れていた。
このドワーフは、ドワーフ特有の鍛冶の神を崇めるだけでなく、大地を象徴する地帝シュオールを信仰する竜信仰も同時に行っている珍しい種族らしい。
彼らの特色としては、他のドワーフたちと異なり、髪の毛と肌の色素が抜け落ちてほとんど白髪・白い肌というドワーフたちが多いことだ。
これは、一説には、シュオールと契約と結んだからという説もあるが定かではない。
以前シュオールと一緒に暮らしていたドワーフたちが分かれたものらしいが、まあそれはそうでもいい。
シュオール直系の我なら彼らも言うことを聞いてくれるやろ!勝ったなわはは!!とエルはそう思いながら、ドワーフたちと交渉する。
「何?開拓村に来てくれないか?いや、断る。」
ガーン!とその言葉にショックを受けるエル。そんなエルに呆れたようにドワーフたちは言葉を続ける。
「あのなぁ……。聞いてないのか?俺たちはアンタの母親である地帝シュオールから『腐敗竜』の封印を監視するためにこの地にいるんだけど?
まあ、聞いてないのなら、シュオールに何かの考えがあったのかもしれないが……。」
《草生えますわこんなん。》
《報告・連絡・相談はしっかりとね!!》
聞いてないんだけど!?我聞いてないんだけど!?そんな風に、ユリアに抱きかかえられた小型化して手足をジタバタさせるエルを呆れたように見ながら、彼は、はぁとため息をつく。
「まあ、聞いてないのなら仕方ないか。ともあれ、そういう訳で我々は動けない。
だから……。」
それでも、問答無用ではなく、丁寧に説得しているのは、彼らの大地の神であるシュオールの息子ということが大きいのだろう。
閉鎖的な彼らにとって、これだけ話を聞いているだけでも驚異的なのだ。他の人々ならばたちまち追い返されてしまうだろう。だが、それでも話を聞いてもらえるだけでもシュオールの息子という権威は効果的を及ぼしていた。
「まあまあ、話ぐらいは聞いてやるべきではないかね?」
「そ、村長!!」
そんな中、さらに奥から現れたのは禿頭で見事な白髭のドワーフ族、恐らくはこの村の長老であろうドワーフ族の男性だった。
「監視はしろ、と言われたが別にそれ以外はしてはいけない、とは言われていない。
鉱山発掘だったかの?この村のドワーフたちが数人程度この地を離れても別段問題はない?そうではないかね?何なら、若い者たち全てそちらの村に移住させてもいい。こんな片隅にいてばかりでは、ドワーフとしての技術も退化するだけじゃろ?」
ドワーフは皆天性の職人たちであり、そのたくましい腕は、きわめて質の高い武器や鎧、太い指に似合わないような装飾品を作り出したりもする。だが、こんな奥深くでどことも交流がない状況では、せっかくのその職人技も披露できずに衰えてしまう可能性が高い。
村長はそれを危惧して自分の技を披露できる開拓村に行ったほうがいい、と働きかけてくれているのである。
彼らも、村長がそういうのならばまぁ……と渋々ながら受け入れた。
《村長ナイス。》
《さすが年の功やで。》
《閉鎖的な村のトップなのにここまで頭が柔らかいのは珍しいなぁ。》
ええい、やかましいわお前ら。
「正直、いい時に来てくれた、と言おうか。地帝シュオールの息子よ。こちらに来るがいい。そちらの女性たちには遠慮してもらおう。これは我らだけの話ゆえな。」
そういいながら、村長は半地下のドワーフの居住地のさらに奥地へとひょいひょいと歩いていく。エルもそれについていくが、その先から次第に腐敗臭が鼻についてくるのが感じられる。
「気を付けられよ。鼻ではなく、口で息をすることじゃ。近づきすぎると危険すぎるため、一定以上には近づかぬことだ。」
その先にあるのは、巨大な結界に封じられているゴボゴボと溶岩のように毒が脈動する全てを腐らせる腐敗の沼である。
一面に広がる腐敗の沼は、腐敗臭と有毒ガスを発生させているが、何とか封印によって抑え込まれ、同時に毒ガスなどを浄化しているのだが、
「これが腐敗竜が封印された場所じゃ。シュオールがこの地から離れた影響か、封印が弱まったり強まったりで安定せぬ。
正直、封印がいつ解けるかワシらにもいつ分からぬ状況じゃ。シュオール様もどこかに行ってしまい途方に暮れていましたが……。」
マミィィイイイ!!そういう大事なことはしっかり伝えてくれよぉおおお!!と思わず叫びたくなったが、言ってもどうしようもないだろう。
ともあれ、長老の言いたいことは、いつ封印が解けても不思議ではないため、ドワーフ族の若い連中を二つの開拓村に避難させてほしいとのことだ。
今のうちから避難しておけば、最悪の状況であるドワーフ族の壊滅だけは防げるだろう、という考えらしい。
「監視はワシら老人たちであたることにしよう。これならシュオール様との盟約にも反しまい。ワシら老体の最後のご奉公じゃよ。ほっほっ。」
その村長の決意は固く、そうそう決意を揺るがすことができないだろう、と判断したエルは彼の要望を聞き入れることにした。
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