第42話 スプリガン
しばらく開拓村ガリアにいたエルは、村長に連絡用の自分の鱗を渡し、辺境伯や隣の村長にも連絡用の鱗を送っておいてくれ、と伝えておく。
そして、再び大迷宮へと戻って攻略を再開を行ったのだ。最上階は、エルの住処であると同時に、冒険者たち用の食糧用の店やらアイテムショップやらで賑わっている。
それだけでなく、ついに宿屋や酒場まで建築された、いわゆる最前線基地としての様相を呈してきたのである。
もっと大規模な宿屋や酒場は後方の開拓村ガリアや開拓村アトラルに存在するが、それでも最前線の迷宮内部で安全に休めるということは、冒険者たちにとって極めて重要である。
『うーん大分発展してきたね。良き良き。こちらとしてもありがたいしね。羊肉をそちらに売り払えば、こちらとしても金が儲かるし、旨いものも食べらえる。』
「でも竜様、元は竜様の住処なのに、バンバン建物を建てられてもいいんですか?」
『まーそれはそれでいいでしょ。こちらの居住地に入り込まなければいいよ。さて、また探索再開といこうか。』
さらに、エルは再び大迷宮内部へと探索していく。
次の階層は、今までとは異なりただ広い石作りの広間に多数の金銀財宝が存在している異様な空間だった。ゲームでいえばボーナスステージと言っても過言ではないだろうが、この世界でこんな上手い話があるはずもない。
『な、何だこりゃ!宝物庫か!?い、いやでも怪しすぎる。ここはきちんと調べていこう。部屋自体に罠があるかもしれないしな。よろしくなレイア。』
その彼の言葉に頷き、レイアは棒などを使い、部屋のあちこちを調べて罠がないかと確認する。こんなあからさまな場所に罠がないはずがない。
これで宝物に入っていればミミックなどを疑ったのだが、宝箱がない以上、そういったこともなさそうである。あとはあるとすれば魔術的な罠であるが、そこまで彼女には感知はできない。
「むぅ……。てっきり部屋自体に大規模な罠があったり、宝箱全てミミックかと思っていましたがそんなこともないですね……。」
そして、宝物を手にした瞬間、その中央部の床が変化し、次々と石が盛り上がってきて、それは円形の姿へと姿を変える。
つまり、環状列石、ストーンサークルである。そして、そのストーンサークルに光が灯り、そこから醜い姿の異形の小鬼が姿を現す。小鬼とは言っているが、それはゴブリンではない。その正体に気づいたユリアは思わず叫ぶ。
「こ、これは……スプリガン!?宝物の守護者ですか!?」
石造りにも見える巨大な人型。それこそ妖精族の一種類『スプリガン』である。
そして、そのスプリガンは宝物を盗んだ存在である彼らを見て、怒りにみるみる肉体を巨大化させていき、瞬時に人間より巨大化していく。
《ちっちゃ……いやでっか!!》
《おい!どんどん巨大化しているぞ!!人間より巨大化しとるやん!!》
宝物を盗もうとした存在に対して、スプリガンはその怒りによって大型化し、ドラゴンと互角に戦えるほどの巨大化したのだ。
スプリガンは拳を振り上げながら、エルの体を殴りつけていく。
竜鱗を貫通するほどの攻撃力はないが、それでもその打撃力は竜鱗を通して彼の内部の肉体へとダメージを与えていく。
それも連発されれば、さらにダメージは蓄積されてしまう。
『このぉ!ならばこれでどうだ!!』
エルは爪を振るうが、その爪は今までの目標とは全く異なり、カン高い音を立ててはじき返される。それはあまりに強靭なスプリガンの体表面だった。
スプリガンの表面は、まさに石と言っても過言ではないほどの硬さを誇っているのである。それでいて柔軟性もあり平然と動くのだから、全く超自然の存在は恐ろしいものではある。
『か、かったぁ……!なんだコイツ!!まさに石なのか!!?』
《竜の爪を弾くとか怪物かよ!!》
《いや怪物だよ!どっちも怪物だよ!!》
そんな風な視聴者のコメントを他所に、エルはレイアに叫びをあげる。
『レイア!宝物を元に戻してみろ!それで怒りが治まる……かもしれない!!』
レイアはエルの言う通り宝物を戻してみるが、全くスプリガンの怒りが治まる様子はなく、ますます巨大化していく。
『宝物をきちんと返したのにまだ怒ってるとか器がちっちゃいな!!このクソは!!《石壁作成》ッ!!』
竜であろうと遠慮なく打撃を加えてくるスプリガンに対して、さすがのエルも近接戦闘を嫌がったのか、石壁作成を使って一度仕切り直しを行う。
スプリガンは醜い妖精ではあるが、非常に強靭な肉体を有しており、怒りに呼応して肉体を巨大化させる力を有している。人間にとって危険な妖精だとは聞いているが、まさか竜に対しても対抗できるほどの力を有しているとは。
スプリガンは宝物を返した後でも、さらに怒りを膨らませているのか、どんどん巨大化させ、エルとほぼ同じ大きさにまで膨れ上がっている。
《うおでっか……♡》
《デカすぎぃ!!》
スプリガンは石壁を回避しながら。なおも拳を振り回し、エルへと打撃を与えてくる。
二足歩行のままのエルは、何とかそれを回避しながら爪の一撃を叩き込もうとするが、竜の力でも固い表面をガリガリ削り取るだけだった。
硬すぎィ!!と思わず彼は心の中で悲鳴を上げながら、今度は自分の体を振り回し、その太い尻尾の横凪の一撃を叩き込む。
まるで巨木ともいえるほどの尻尾が巨大な鞭のような打撃武器となってスプリガンへと襲い掛かる。
さすがのスプリガンも、これには堪らなかったのか、轟音と共にたたらを踏んでそれでも耐え切れずに地面に尻もちをつく。
『クソが!食らえ《重力魔術》ッ!!』
その倒れたスプリガンに対して、エルは重力魔術を仕掛けて、重力でスプリガンを縛り付ける。その大きさもあって、巨人と化したスプリガンは重力魔術に対してはより強く影響を受けてしまうのだ。
べきべきとスプリガンの肉体のあちこちから悲鳴が聞こえるが、さすがに押しつぶせるほどの力はない。
『今だ!!ユリア!ストーンサークルを何とかしてくれ!!』
何とかといわれても……と思いつつも、ユリアは剣の柄を必死で叩きつけながら、何とかストーンサークルの一本をへし折る。それと同時に、魔術式が乱れ、スプリガンもそれに従い消滅、いや、妖精界へと帰還していく。
それを見ながら、エルはぷへーと思わずがっくり肩を落とした。
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