第40話 ゴブリンからコボルトへ。

ガリアへと帰ってきた彼女は、与えられた部屋でその肉片を魔術的に解析に入る。


「ん~。何かおかしいですねこれ……。薬……いや、何らかの魔術式かな?何らかの魔術式でゴブリンを変化させた形跡がありますね……。ちょっと術式の再現などできるかな?」


 そう言いながらアヴリルは、レッドキャップの頭蓋を開き、その内部の脳を見れる穴を開ける。そして、その脳に魔術を放出し、仕込まれた魔術式を探知し、その魔術式がどんな効果を持っているが、再現して効果を確かめる。

 さらっと言っているが、一度壊された魔術式を再現するのが難しいのは言うまでもない。それをあっさりと行えるのは、流石は小達人という魔術師の天才だということだろう。魔術式の修復・解析を行った彼女は、それをエルに報告にいく。


「という訳で魔術式の解析を行ってみましたが、これはあえて怪物たち……いえ、妖精族を存在の根本を揺らがして様々に変化させる術式ですね~!!

 これによってゴブリンたちが進化して、レッドキャップなどになってしまったと思います。これは明らかに人為的な物だと思います。」


 人間的にいうなれば、遺伝子情報に働きかけて強化された人間を作り出そうという所業である。元々妖精族は遡れば妖精界からやってきた異形の存在。

 肉の体は持っているが、魔術式にも強く影響されているからこそできた技である。

 そのため同じ妖精族であるレッドキャップなどに変化してしまったのだろう。


『ちょっと待って!?人為的って何!?誰が一体そんなことやったの!?』


「それは、あの人類至上派とやらじゃないでしょうか?多分冒険者に紛れ込んでゴブリンに魔術式を仕込んだんでしょうね。さすがのアヤでも冒険者たちの素性を全て完全に探っているわけではないでしょうから。」


 つまり、もうすでにこの街にも人類至上派の息のかかった奴らが入り込んでいるということである。さすがにこんなに早く人類至上派たちが入り込んでいるとは思わなかったエルは思わず焦りを浮かべる。


『そ、そんなの聞いてないんだが……!何とかならん!?』


「いやぁ私はただの魔術師なんでその辺は何とも……。一応読心の魔術はありますが、片っ端から冒険者たちにかけるわけにもいきませんし……。

 まあ、それはそれとして、この術式も使いようによっては役に立つかもしれませんよ?今度ゴブリンか何か捕まえてきたら私の元に連れてきてもらえませんか?」


 ?何をするつもりなんだろう、と思いつつも、エルはその言葉を了承した。

 そして、偶然捕らえられたゴブリンをこちらに運ばれてきたアヴリルは、それをみてよし、とゴブリンを見て魔術を展開しだす。


「よし、丁度よさそうですね。汝、妖精の末裔よ。人を食らう鬼よ、我は汝を縛り、別の存在へと変えん。銀を腐らせし鉱山夫として、人類の友人として汝を束縛せん。妖精よ。今こそ変化せよ!!」


 その術式を叩き込まれた瞬間、ゴブリンは光を放ちながら変化し、小鬼の姿ではなく、犬の頭を持った筋肉質な人型の生物へと変化した。

 妖精族の一匹、鉱山によく出没するという『コボルト』

 鉱山に近いという特質を生かし、魔術式を叩き込むことによって、彼女はゴブリンをコボルトへと変化させたのだ。

 それを見て、さすがのエルも驚きを隠せなかった。


『えぇえええ!?マジで!?ゴブリンが変化した!?』


さすがに、こんなのが配信で知られればどんな大騒動になりかねないかと配信は切っているが、あのゴブリンがこんな風に変化したということは彼でも予想外だったのだ。どうしよう……本当にコイツらは人を襲わないのか?とエルは思わず頭を抱えた。

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