第9話 開拓村の拠点防衛


エルはユリアの言葉である開拓村の事について考えていた。


(ふむ、補給拠点ねぇ……。やっぱり彼女たちにとって重要だよな。)


 確かに、あの開拓村はほんの小さな村で何とか暮らしているのがやっとと言った所だ。そこが壊滅してはユリアたちの食糧や武器・防具などの修理やメンテもできにくくなる。いや、そもそもこの大迷宮にまで来ること自体が難しくなってしまう。

 せっかくのスカウト技術や人類社会とのコネを失うわけにはいかない。何としてもその村を保護すべきだ、と思っている彼に対して、ちょうどいいことにユリアはその話題を振ってくる。


「そこで竜様、村の発展……に協力まではいきませんが、村の防衛に力を貸していただけると嬉しいのですが……常に守護してほしいとは言いませんが、何らかの結界でも張っていただければ……。」


 正直、これだけを聞くと調子いいなぁと思うが、実際はエルにとっては渡りに船である。ユリアたちがいなくなってしまえば、自分だけでは迷宮を攻略するのは困難になるだろう。それに人類社会との窓口が失われてしまうのが一番の問題になる。

 そう決意したエルは、以前の周囲の怪物たちの暴走を恐れて、小型化したまま開拓村へと向かう。

 これならば周囲の怪物も暴走しないはず……である。そして、村へとやってきた彼は小型化したまま村の外へと出ていた村長と出会う。

 なるほど。以前に比べれば逆茂木や防衛用の柵などもダメージを受けていることが分かる。おそらくあれからも何度も怪物たちの襲撃を受けているのだろう。

 こんな危険なところに住みたくないと思うのは当然である。


「こ、これは竜様。わざわざお越しいただけるとは……。そして、この村を守護していただけるとは本当でしょうか?そうであれは非常にありがたいのですが……。」


 丁寧に頭を下げてくる村長に対して、エルはできるだけ威厳を崩さないようにしながら、村長へと言い放つ。

 やみやたらに怖がられるのは本意ではない。1メートルほどの小型化した状態で村の外で村長たちと対面するエル。

 村人たちは一応に怯えと恐怖の顔を浮かべている。その警戒を解くべく、エルは彼らに宣言を行う。


『まず、我にお前たちを危害を与えるつもりはない、と言っておく。簡単な契約を結びたいだけだ。お前らの村を守護する結界などを張る代わりに、食料を我に捧げる。そういう契約だ。まずこの開拓村周辺に我の魔術で結界を構築する。これならば近くの怪物たちもそうそうこの村に襲い掛かってはこれなくなるはずだ。

 そして、結界展開のエネルギーとして地脈をこちらの村へと向けるから、自然と土壌も改善して豊作になりやすくなる……と思う。そちらの農業のやり方次第だけど。』


 農業なども底上げして、この村自体の力を高める必要もあるかもなぁ、と思いつつも、そのエルの言葉に村長は驚いたような表情を浮かべる。

 それはそうだろう。いきなり潜在的な敵である竜から何の理由もないのに、さまざま加護を受けるなどというのは恐ろしくてたまらない。


「な、何とそこまで……!!な、なぜそこまでこの村に力を……?」


『別にお前たちのためじゃない。パーティ仲間のためだ。そのためにこの村にはある程度発展してもらわないと困る。お前たちにとって冒険者が厄介者だというのは分かるが、そこは大目に見てほしい。

 それと、他の冒険者たちや村に対して、我は人間たちに友好的な存在だ、と伝えてほしい。せっかく結界を張ったのに襲われてしまってはたまったものではないからな。』


 エルがもっとも恐れているのは、人類社会という巨大な怪物そのものである。

 単体では弱い人間たちも、集団になって巨大な社会を形成すれば恐るべき怪物となる。そして、これは人類社会に危害を与える存在を決して許さない。

 エルの母親にように、単体で人類社会と戦えるほどのまさしく神のような力を持った存在ならともかく、エルはそこまで力をもっていない。

 そのため、今のうちから人類社会に溶け込んで排除を免れようというのが彼の考えである。


「は、ははぁ~!!ありがとうございます!そ、それでご提案なのですが、竜様を我が村の神として崇めてもよろしいでしょうか?村人たちも反対するものたちはおりますまい。」


『了承。後は、我の住処から羊が成る『バロメッツ』の苗木を分けるからそれを植えれば食糧不足の解決や毛の活用などもできるから有用だろう。我を褒め称えながら植えるがいい。』


 その言葉に、村人たちは一斉に平服した。


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