第4話 ドラゴンであろうとお礼は言いましょう。

 『すにゃぴすにゃぴ……。』


 それから数日後、エルは大迷宮最上部の自分の部屋ですやすやと睡眠を取っていた。そんな中、最上部の自室の周囲にかけている警戒の探知網が反応し、彼は飛び起きる事になる。

 これは、命知らずの冒険者や侵入してくるゴブリンが寝ている隙に近づいて彼の命を奪わないようにするための警戒である。

 強い相手ならば、寝ている間に襲い掛かればいいと考えるのは古今東西同じであり、それに対する警戒網を作るのも当然である。その警報に全くもーと不機嫌になりながら、エルは自らの体を起こし、近づいてくるであろう人物を迎撃態勢に入る。


(クソゴキブリどもが……。我の家の大迷宮にポイポイ侵入しおって……。あーゴブリンホイホイとかマジほしいわ)


 こちらに侵入してくるのは、大抵がゴブリン(まれに人間の冒険者)である。

 冒険者は大抵こちらの姿を見れば尻尾を巻いて逃げるが、ゴブリンはまれにこちらに対して寝首をかこうと侵入してくることがある。

 そういったゴキブリゴブリンどもを退治するのも仕事ではあるが、最近は妙に数が増えてきて困っているところである。

 ゴブリンどもが逃げるであろうために、わざと足音を大きめにズシンズシン、と立てながらダンジョン内部を進んでいくエル。

 その彼の耳に、ゴブリンではなく人間の声が聞こえてくる。


「本当にいるのかなぁ。ねえ、お姉ちゃんやめようよ……。わざわざお礼をいうなんて危ないよ……。」


 それを聞いて、エルの脳内に疑問符が浮かぶ。例え人間の冒険者といえど、足音でドラゴンと察知して逃げ出すのがほとんどである。

 それを逃げ出さずにこちらに近づいてくるなど、奇妙な事この上ない。ともあれ、こちらも声の方に近づいていくと、どこかで見たような少女たち二人と、魔導カメラを持ったピクシーがエルの前に姿を現す。

 はて、どこかで見たような……。と考えた中、ピクシーを見てはっと思い出す。

 この子たち俺が助けて村まで連れてやった女の子たちじゃん!!何でまた大迷宮に来てんの?と思いつつも、配信の目が光っている以上彼女たちに危害を加えるわけにはいかない。とりあえず事情を聴くために彼女たちと向き合うことにした。


『で?何でまた来たわけ?我危険だから止めたほうがいいって言ったよね?』


 ぷしゅーっと不機嫌そうなドラゴンの吐息が彼女たちにも襲い掛かる。

 まあ、あれやこれや言える立場ではないが、せっかく命を救うためにあれやこれややってあげたのに、それを再び粗末にするような真似をして面白いはずがない。

 それに対して、竜血を与えられてすっかり傷が治ったユリアは恐る恐る言葉を放つ。


「この前はありがとうございました。竜様。あなたのお陰で傷はすっかり癒えました。それで、今回来たのは、竜様にお礼を言いたくて来たのですが……。」


 お礼?と聞いてエルは思わず眉を顰める。わざわざ怪物である自分にお礼をいう物好きがいるとは全く思っていなかったのだ。

 彼女たち二人はそのまま頭を下げて、エルに対して礼をいいながら金貨を差し出す。


「ありがとうございました。ドラゴン様。あなたのお陰で私たちは助かりました。これは僅かばかりですが……。」


『いやいいよ。別に大した事してないし。その程度のお金もらってもなぁ……。』


 金貨数枚程度でがっつくのは、流石にドラゴンの誇りが廃る。何?命乞いにへそ天してた?あれは人間社会に対して敵意のないことのアピールなのでノーカン。

 そんなことを思いながら、ふとエルの脳にピーンとアイデアが閃く。


(そういえば、彼女たちも冒険者なんだからこちらの仲間に引き入れればいいじゃん!こちらもダンジョン攻略は素人なんだから無茶苦茶頼りになるはず!!)


 正直、罠の攻略もできない素人に、ダンジョン攻略を行えなど無理にもほどがあるが、シュオールも(まあ我の息子ならこれくらいできるじゃろ!!)という極めて楽観的……というかいい加減さで押し付けたに違いない。

 竜族ってそういうスペックゴリ押しのところがあるよね。まだ生まれてそれなりしか立っていない息子のことをなんだと思ってるんですか!と言ってやりたい。


《ユリアちゃんがわざわざお礼を言いに来たんだから逆に感謝すべき》

《バカ!刺激してどうするんだ!ユリアちゃんになにかあったらどうするんだよ!!》

《いよっ!ドラゴン様!ユリアちゃんの命を救って下さってありがとうございます!!》

《そこはマジ感謝》


 ええい、好き勝手いいおって、とエルは視聴者のコメントに対して思わず突っ込みたくなるがそれを我慢してユリアたちに指を立てながら言葉を放つ。


『まあ分かった。だが、貴様らはこれからもこの大迷宮でダンジョン配信・攻略を行うのだろう?その時に貴様らが死なれると我も気分が悪い。どうだ?そこで我を貴様らのパーティに入れるというのは?テイム……?テイマーやら従えるのではなく、対等な関係としてのパーティ関係だ。』


「えええええええッ!?ドラゴンをパーティを!?」


《こやつ正気か!?》

《マジでぇ!?》

《なんでドラゴンが仲間に入るの!?訳わからないんだけど!!》


 混乱するユリアに加えて、視聴者も大混乱に陥る。ドラゴンがわざわざ人間の仲間に入るなど彼らにとって全く意味が分からないからだ。

 混乱する視聴者のコメントなどに答えるべく、エルは口を開く。


『うむ、まずはそこのところを説明しよう。我はドラゴンといってもまだ若い。

 そして、この大迷宮を支配する我のマミィ、地帝シュオールによって独り立ちを命じられたのだ。その条件としては『この大迷宮を攻略すること』

 つまり貴様らと利害関係が一致しているわけだ。ほら、文句はあるまい?』


 ぴんと指を伸ばして解説していくエルに対して、視聴者たちも困惑しながら納得のコメントを出していく。

 ユリアとレイアの双子姉妹の冒険者も、眉をひそめながらもそれに賛同する。


「それは……そうなんですが……。でも、何で私たちなんですか?他にもギルドにいけば優れた冒険者は山ほど……。」


『阿呆。我がこの図体でギルドになんていけるはずないだろ?ギルドにいって優れた冒険者なんて組めるはずもない。だが、おぬしたちは少なくとも冒険者としてのスキルは持っている。我にとってはありがたい存在だ。お主たちはどんなスキルを持っているのだ?』


「ええと、私は魔法戦士スタイルで……。レイアはスカウトですね。二人で冒険者稼業を行うのはさすがに難しいとは思っているのですが、私たちの体を狙っている男性の冒険者とかも多く中々他の人とは組みづらかったのですが……。」


 来た!スカウト来た!これで勝つる!!とエルは心の中で絶叫した。

 彼が心の中で不安に思っていたのは、大迷宮に無数に仕掛けられた魔術的・物理的な罠である。その中ではドラゴンですら脅威になる罠もあるに違いない。

 そういう罠をどうやって解除するかが、彼の悩みだったのである。

 シュオールならば(そんなの全部叩き壊せばいいじゃろ。まあ直すのは面倒だが)とかいうだろうが、ドラゴンの生命力でも漢探知がきつい。

まさに、彼にとって罠感知・解除できるスカウトは喉から手が出るほど欲しい人材だ。これだけでも彼女たちを救った甲斐があるというものだ。


『うむ。了解した。罠を解除できる人物がいるのなら心強いな。喜んで仲間になろう。いや、ドラゴン風に言えば「貴様らを我の仲間に入れてやろう」と言ったところか。まあ、よろしく頼む。』


こうして、エルと彼女たちはお互いにパーティを組むことになった。


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