第5話 大迷宮の食糧生産場
時間軸は少し戻り、エルとユリアたちの出会いの映像は、ダンジョン配信者の中でも凄まじい話題……いわゆるバズっていた。その存在が姿を現した時に、流石に視聴者たちもユリアたちも同じように腰を抜かすことになった。
ドラゴン!!伝説にして最強の幻獣!!それが目の前に現れるとは!
これから画面に流れるであろうスプラッタな光景に、皆が絶望な状況を思い浮かべ目を閉じた。
だが、次の瞬間、目を見張った彼らが見たものは、竜が地面にゴロゴロ転がってへそ天している姿だった。そのあまりに異様な光景は、たちまちタンジョン配信者の中でもトップに躍り出た。
《はぁあああああ!?なにこいつ!?》
《いきなり媚びを売りまくっているのに草&草》
《さ、最強の幻獣王さーん!!》
そのインパクトはよほどダンジョン配信者の中でも大きかったのだろう。
ダンジョン配信者たちの間でも最底辺のクラスと卓越した会話などでトップクラスの配信など様々なランキングが存在する。
たった数人程度しかフォロワーがいなかったユリアの配信チャンネルは、この配信映像において一気に急上昇した。
遠い竜皇国では竜が平気で街を練り歩いているらしいが、この国ではそんな状況を見るのは極めて珍しいからだ。
しかも、まるで犬や猫のようなドラゴンの姿など、極めて珍しい姿だった。
(竜というのは、皆極めて威厳を重要視するため)
そんなまるで愛玩動物のような可愛さなどもこの動画が大流行した理由だろう。そうして、この映像は伝説といえるほど大人気になることになった。
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こうして、パーティを組むことになったエルとユリアたち。ユリア的にも底辺ダンジョン配信者が一気にランキング上位まで食い込めたので文句はない。しかもダンジョン内部でも強靭で強いドラゴンという護衛がつくのだ。文句などつけようもない。
こんな幸運を与えてくれた竜様に対して、何としても何かお返しをしなければならない、と思いつつも、だが、そこでユリアはふと疑問を浮かべる。
「そういえば、食料とかはどうしてるんですか?ダンジョン内部に何か食料があるとはとても……。」
『うん、いい質問だね。それじゃこっちの第二階層にいこうか。』
エルはユリアたちと一緒にさらに地下へと降りていくと、そこは様々な木々が生えているダンジョンとも思えない植物が生い茂った環境だった。
そこには、竜が生でも食べてる様々な果物の木々が生えており、天井のヒカリゴケの光によって光合成を行い、きちんとした生態系を構築している。
通常の大迷宮の天井にも照明代わりのヒカリゴケが存在し、迷宮内を照らしているが、ここはそこよりさらに強力な光が放たれており、植物が育つのに十分な光がある。言うなれば天然の植物工場といったところだ。
「へぇ……。こんな地下でも育つ植物があるとは……。それにあちこちにある生で食えそうな果物なども……。これがドラゴンの主食なんですか?」
『本当はコメ……いや、小麦やら穀物類やら何やらを植えて育てたいんだけどね。中々……。それよりも面白いものがあるから見てみな。』
エルが指さす方を見て、ユリアたちは思わず驚愕する。それは想像を超えた存在がそこにはあったからだ。
「こ……これは!?」
《ファッ!?》
《マジィ!?なにこれ!?》
《木に果実の代わりに羊が生っている!?こんなのマジであるの!?》
とある畑に行った彼女たちはその異様さに仰天する。そこには木の果実の代わりに、丸々と太った羊が存在していたのだ。
それは”バロメッツ”。それは果実として羊を発生させる奇妙な植物である。これが数百本もの数、この第二階層には植えられている。
これも、シュオールがエルのことを考えて作り出した食糧工場である。
(本当は無限に麦が沸く『大釜』を作成することもできたが、そこは流石に甘やかし過ぎだろう、と判断してやめておいたのである)
母親であるシュオールは、ここから成羊を取り、爪を使って捌いて、その肉を焼いてエルへと与えていたのだ。(大迷宮にある大量の岩塩はきっちりと確保してある)
最も、それも面倒くさいので、エルが魔術で作ったストーンゴーレムたちが自動的に生えている羊を取ってきて、それを肉として捌いて調理を行っていたのである。
「羊が生える木々なんてあるんだ……。しかもこんなに沢山……。」
ドラゴンはその巨体ゆえに、大量の食事を必要とする。それをカバーするためには、広大な食糧を狩れる狩場が必要となる。
それかほとんど一日中眠って体力を消耗しないようにするかである。(この眠っている隙をつかれて倒されることも多い)
母親であるシュオールは人間たちと触れ合う事を好まず、近くの村とはつかず離れずの無干渉を行っている。
その代わりとして、食糧庫としてここを作ったらしい。以前はシュオールの世話などを行っていた大量のドワーフたちもいたのだが、新しいシュオールの居住地である迷宮を作るために皆移動していったとのことだ。
『そう、これをマミィが作ってくれたから、安心して暮らしていける訳。』
もっとも、この潤沢な食糧を狙いゴキブリ……もとい、ゴブリンどもが第二階層に侵入しているのも事実である。
それを防ぐために防衛結界や警戒網結界、警備用のストーンゴーレムなども置いているが、それでも侵入しようと後を絶たないため、時々エルがゴブリンどもを叩き潰しているが、それでも後を絶えない。
《このドラゴンやたら友好的すぎじゃない?》
《マミィってなによ?》
ちなみに、今回これを配信で公開したのは、大迷宮に侵入する冒険者たちに対して「これは我のものだから手出しするなよ?」という牽制である。
これから大迷宮に侵入する冒険者たちは増えるだろうから、秘密にするよりこれは竜のものである。と大々的に公開しておけば、手出ししたときに責任追及ができるというものだ。
それならば、人類サイドも文句はいうまい。
「ちなみに……竜様は本当にこれから先の迷宮はどんな構造になっているか知らないんですか?本当に?」
『うん、ホンマに知らん。ホンマホンマ。だから……死ぬときは一緒やで?』
にこりと微笑むエルに対して、視聴者たちから総突っ込みのコメントが流れてくる。
《いい瞳で嫌なこと告げるな。》
《いい感じの笑顔を浮かべるんじゃない。対象が竜でもわかるわ。》
実際、大体母親であるシュオールに任せていた上に、ここで衣食住……いや、食と住居が全て確保できていたので、わざわざ下層になど興味を示さなかったのである。
やがては大迷宮全てを管理しなければならないシュオールの息子がそれはどうかと思うが、その怠惰がこういった形で返ってくるとは……。と彼は嘆いた。
(いや予想しておけよ、という突っ込みはその通りである)
『あとはまぁ、配信?とやらをしているんなら、人間に対するアピール力もそれなりにあるでしょ?簡単にいうと、我は人間どもに狩られたくない。そのためにお前たちの配信を利用して無害性をアピールしていこうという訳。他のドラゴンはいいにしても、我が人間によって死ぬのはいやだからね。』
《何でこいつそんなにむやみやたらと人間恐れてるの?》
《人間なんて竜に比べれば虫けら同然じゃん?》
何故なら、人類は自分の生存圏を脅かす存在を絶対に許さないからである。
自分たちに危害を与えるのなら、いかなる外道な手段を行おうといかなる犠牲を払っても絶対に排除するだろう。
それが人間というものである。元は人間であるエルにははっきりと分かる。
それを回避するためには、まさしく神のごとき絶対的な力か、人間たちと共存して繁栄していくしか道はない。
そして、元が人間のため親和性のあるエルは後者を選んだのである。
(隣の大陸には竜が支配する竜皇国とかあると聞くけど、そういうのが近くにあったらそこに逃げ込めばいいだけなんだけどなぁ。まあ仕方ないか。)
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