第3話 女性をエスコートするのはドラゴンのたしなみ?
何とか竜血で傷を癒したユリアたちだったが、未だ彼女の妹は意識不明のままである。女性が彼女を背負って遠い村まで歩いていくのは多大な負担になる。
その間に怪物に襲われたらまた死亡しかねない。
正直、面倒くさいな……とは思わなくもないが、せっかく竜血で助けたのに無駄に死なれては何のために助けたんだ、ということになる。
『んー、仕方ないなぁ……。せっかく助けたのに死なれると面倒だしなぁ。しゃーない。背中に乗って。村まで送ってやるから。』
そういうと、エルは乗れ、と言わんばかりに彼女たちの元へと首を下す。
恐る恐るユリアたちが背中に乗ると、エルはそのままずしんずしんと歩いていき、ダンジョンの出入り口へと向かっていく。
《何でここまで友好的なの?訳わかんないんだけど?》
そんな風の視聴者の突っ込みを、(そりゃ配信してるからだよ!!人類を敵に回すなんて出来るか!!)と思わず叫びたくなったが思わず我慢する。
『というかね。危険なんだからこんな仕事辞めておいたほうがいいと思うよ。もっと安全で楽な仕事なんて山ほどあるじゃん。実際死にかけたんだからさ。』
ユリアたちを背中に乗せたまま、ダンジョン内部をずしんずしんと歩いていくエル。ダンジョンの主の息子であり、ドラゴンであるエルに対して喧嘩を仕掛けてくる怪物などそうそう存在はしない。
奥部ならいくらでも存在するだろうが、表層部ではかなわない事を知っている怪物たちが大多数だからである。
『まず、ここは我の物(になる予定)のダンジョンなわけ。はっきり言うと、そちらは不法侵入者だからね。だから、できる限り冒険者が立ち寄ってもらいたくない訳。だから、君たちを生かして、外の人間にそう伝えてほしい。きちんと生かして返すのはそういうわけ。』
ヨシ!これは完璧な言い訳だな!!ヨシ!!本当は、冒険者たち……というか人類社会に対して保護を求めて駆け込みたいところだが。いきなりそんなことを言っても信用されないのが当然だ。
ならば、まずは冒険者たちをできるだけ立ち入らせないようにして、自分が死ぬ確率を減らすのが最優先である。
大義名分があれば、それ以上は踏み込みにくくなるのが人間というものである。
それを無視して、このダンションを占拠、邪魔物を排除しようとしたら?
それこそ、正々堂々と侵入者どもを撃退しても文句は言われまい。
こちらの大義はもうネットで堂々と流している。いくら国家といえど、これを消すのは難しいだろう。
《何かわからんけどユリアちゃんを救ってくれるならヨシ!!》
《へっへっへ。さすが竜様ですぜ。もみ手しちゃうね俺は。》
ともあれ、彼女たちを背中に乗せたまま、エルは大迷宮の外へと出る。
そこは全てが森に覆われていた大森林ともいえる場所だった。近くの村へと通じる道は小さな獣道ぐらいしかない。あまり外に出たことのないエルは、大迷宮がこんなになっているんだ、と少し驚いた。
まあ、引きこもりで自堕落な生活を送っていたのも、無理矢理独り立ちさせられた理由の一つなのだろう。
ともあれ、そのまま道沿いに歩いて言って村へと向かう。飛ぶこともできなくはないが、最近めっきり飛んでいないので、どうなるか分からないからである。
ドスンドスンと道を歩いていくエル。
当然、わざわざ巨大なドラゴンが歩いてるのに襲いかかってくるモンスターたちもいない。むしろ、次々と逃げていっているぐらいである。
その影響で森の中は大分騒がしいことになっているが、まあ、気にせずに彼はずんずんと進んでいく。鞍などないから、背中に乗っているユリアも必死に耐えているだろうが、そこは頑張ってほしい。
『……ん?何やら随分と騒がしいなぁ。』
道の先、おそらくは人々が住んでいるであろう木の柵と、その周囲に作られた土を掘り返して作られたと思われる堀と、その外周部の防衛用の逆茂木や乱杭。
そこにかなりの量のゴブリンたちがたむろっているのが彼の眼に入ってきた。
そして、それらを迎撃するために、村人たちは弓矢を発射したり、スリングで石を投げつけたりして迎撃を行っている。
なぜちょうどゴブリンに村が襲われるところに出くわしたのか。それはドラゴンであるエルの影響である。
ドラゴンがいきなり迷宮から出てどすんどすん歩けば、近くの怪物たちは当然その場から逃げ出す。そして逃げてきた先がこの人里というわけなのである。
《うおっ!村が襲われてる!!》
《やっぱり開拓村のせいかかなり防備が薄いなぁ。あれじゃ突破されるぞ。》
(やべーな。これ俺のせいじゃん。配信はされていないだろうけど、俺のせいで村人が死んだらアレだから適当に蹴散らしておこう。)
そう、ゴブリンたちが一気に押し寄せてきたのは、急に動き出したドラゴンに対しての恐怖感に違いない。つまり、玉突き事故の応用で、逃げ出したゴブリンたちの前に開拓村があったという流れなのだろう。
つまり、これも元凶はエルのせいということになる。このまま村がゴブリンたちによって壊滅するのも後味が悪い。エルはまずゴブリンや人間たちの精神面に影響を与える竜の咆哮で彼らの動きを止めることにした。
『グァアアアアッ!!』
竜の咆哮には人間の魂を恐慌状態に陥れる力がある。それはゴブリンも同様である。
いきなりドラゴンが出てきたことによって、ゴブリンも村人たちも完全に混乱状態に陥ってしまっている。その状況で竜の咆哮を浴びせられたらひとたまりもない。
エルは竜の咆哮でゴブリンたちや人間たちの魂を揺さぶると、そのまま木でできた壁に張り付いているゴブリンたちを自らの爪で横凪にする。
エルにとってゴブリンなどゴキブリと同様ただの害虫に過ぎない。
次々と爪を振るうたびゴブリンたちの肉体は吹き飛ばせ、切り刻まれていく。
わざわざ防御壁や逆茂木などを攻撃せず、そこに足止めされているゴブリンたちのみ倒していくということは、こちらに攻撃する気はないのでは?と村人たちは戦々恐々している。
そして、ドラゴンからの強襲を食らったゴブリンたちは、不利を悟ってたちまち逃げたしていく。ここで必死に食いとどまるなどそんな気合などゴブリンたちにはない。
しかしともあれ、ここで人間たちに襲われたらたまったものではない、とエルは声を放つ。
『聞け!人間どもよ!我は貴様らに危害を与えるつもりはない!人間を連れてきたのでここにおいておく!保護してやるがいい!!』
それだけを言うとエルはさっさとこの場から立ち去っていく。
いきなり竜が目の前に出てきて「危害は与えないから信用しろ」と言っても信用できないのは当然だ。
配信はしてなかったからよかったものの、配信をしていたり、村人からすれば「竜が動いたから魔物たちが逃げ出して村へと襲い掛かってきた」と思うのは自然である。(そしてそれは事実だ)
厄介ごとに巻き込まれる前にさっさと帰って寝るぜ!!が彼の本音である。
エルは女性の冒険者たちを下すと、さっさと自分の住処である大迷宮へと帰還していった。
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