宇宙人の地球メシ

縁田 華

第0話 「見知らぬ星へ」

その日、俺はオンボロの宇宙船でたった一人彷徨っていた。見渡す限りのキラキラと光る星々の中に、ちらほらと大きな金属やら人工衛星やら、俺が乗っているような宇宙船のパーツやらが散らばっている。所謂「スペースデブリ」というやつで、地球製のものが九割近くを占めていた。俺が乗っているのは、平均寿命を超えて尚「使えるから」という理由で乗っている旧型の宇宙船で、その姿はどうも地球人から見ると宇宙を颯爽と駆けるスペースシャトル、ではないようだった。小さな潜水艦のようにも見えるソレは、俺の故郷であるど田舎の「惑星べレイト」からメジャーな惑星である地球まで、どんなに速くても一月はかかる。だから、遠くへ逃げ出す時は出来る限り携帯食や水といったものを用意しなければならないのだ。当然ながら、この宇宙船にも一月分以上の食料や水といったものは積み込まれている。その殆どが缶詰やレトルトで、後は甘い菓子ばかり。俺の好みだから、誰にどうこう言われたくはない。



 しかし、燃料切れというやつだろうか。元々遅い機体が徐々に、自然と減速していくのがわかる。中から変な音までし始めるようになった。燃料も食料も水も、十二分に詰め込んではいた。だが、修理を日頃から怠っていたからなのか、修理しても気休め程度にしかならなかったのかは分からないが、俺の宇宙船はそのまま近くの星に墜落したのだった。





 その星は見たところ荒野で、建物の影は愚か人の姿さえ見当たらないようだった。昔、図鑑で見た地球の、理路整然とした姿の動物や植物ではなく、地球人が考える怪物のような生き物ばかりが遠くからでも見える。丸っこいパステルカラーの、陸生のウミウシかナメクジのような生き物が隊列を作って、小さな海苔巻きのような生き物を集団で追い詰めるのはまだいい。赤茶色の土の上には、転がる草ならぬ転がるワカメのような植物や、マリモに銃口がついたような生き物さえ見える。地球でも見られそうな、砂漠に生えているサボテンは何故か黄色い、大きな花を、幹を埋め尽くすようにして咲かせていたし、咲いたあとには甘そうな果実が実っていて、翼竜のような生き物が美味しそうに啄んでいた。こいつらもこの星の生き物なのだろうか。




 歩いても歩いても街はおろか、人の家一つ見えない。ただの小屋さえ見えない辺り、この星は文明の一つも発達していない原始的な惑星なのだろうか。木は一つも生えていない。地面にはカタバミのような葉の、五つ葉の植物がまばらに生えている以外は何もない。稀に、モグラに掘り返されたような小さな盛り土の山はあるが、それだけだ。砂煙が舞うので意外と視界は悪いが、その向こうに、俺は一つの立て看板を見つけた。見間違いでなければ、だが。簡素な木の板にこれまた簡素な木の杭をくっつけただけの看板には、地球の言語で確かに「この先岩塩鉱」と書かれていた。つまり、最低でも人がいることは証明された訳である。この調子なら、小屋だけではない。恐らくもう少し歩けば集落の一つは見つかるだろう。





 どれくらい歩いたのかは分からないが、何故か日はまだ落ちていないようだった。お腹の音は歩く度に大きくなる。だが、人がいて建物がある。何より目と鼻の先には地球でいうところの小さな屋台がある。今はもう、殆ど見られなくなった昔ながらの、リヤカーを引っ張って、そこで商品らしき食べ物を提供する簡易レストラン、或いはダイナーと呼べるものだ。のれんには、まるで毛筆で書いたかのような、勢いのある大きな白い字で「らあめん」の文字が見える。なんでも良い、俺はとにかく水と食事さえ提供して貰えれば。その後のことは全く考えてはいないものの、真っ直ぐに駆け出した。





「いらっしゃい、あんちゃん。鉱夫たちの命綱でもあるラーメン屋にようこそ……」

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宇宙人の地球メシ 縁田 華 @meraph

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