第5話 壁とでも話してるよ
加部隆
脆弱高校2年、ミドルブロッカー
彼はコミュ障で、人と話す事が苦手だ。
常に体育館の壁に向かって、話をしては、ブロックの練習をする変わり者だった。
「ナイスブロック!!加部」
ハイタッチに駆け寄る部員に目を合わせようとせず、
ネットの方を向いて縮こまる。
「全然です、俺なんて壁と話してれば良いんです」
「・・・」
(だから、俺らと話してよ)
・・・
「偶然、偶然!今のは出会い頭の事故だ」
相手コートは手を叩いて切り替える。
試合再開、
脆弱高校の『入れるだけサーブ』は綺麗にレシーブされ、もう一度、大砲葉夏が助走に入る。
(マグレは2回も・・・)
背筋で一気に溜めたパワースパイクが一気に爆発する。
スッパーン!!
2度目も加部のブロックドシャットが綺麗に決まり、相手のコートに突き刺さる。
・・・は?
$$$
試合の中盤、
喜屋野と脆弱はほぼ同じ点でシーソーゲームとなる。
「俺だ!俺に持ってこい!・・・ふーしふーし」
大砲は、完全に頭に血が登って冷静さを失っている。
「落ち着けよ、こんな弱い高校相手にムキになるな」
「なってねぇよ!」
(ダメだこりゃ・・・これはしばらく響くな)
喜屋野のセッターの予感は的中し、第二セットは喜屋野の方がやや押されていた。
大砲のスパイクは、高校生離れしたパワーがあるが、実は致命的な欠点が二つある。
一つ目、大砲はクロスにしかほぼ撃てない。ストレートは不器用過ぎてカスみたいな威力になる。
二つ目、高いオープントスが撃てない。一定リズムの低めしか撃てない、高すぎると高確率でスカる。
こんな小学生レベルの弱点を抱えているものの、今まで、フォーメーション乱される事が多かったから、なんやかんやでバレずに、機能していたが・・・
ここまで極端に弱いチーム相手だと逆に単調になって、攻撃パターンが少ないのを読まれ始めたか。
(いや、多少読まれた所でだ!)
大砲のスパイクの威力なら、強引にブロックを破壊し、押し込めるはずなんだよ。
(それを、たった一枚のブロックで、大砲のスパイクを弾き返しやがる・・・一体、何なんだ?あいつ)
加部はネットを見る。
それはいつもずっと眺めている壁と一緒で心が落ち着く。
そして、ネットの向こうを見る。
相手スパイカーの助走、呼吸に合わせて、その一瞬、どんなボールも通さない『壁』になる。
ただそれだけに、全神経を集中していた。
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