悲しみを受け止めて
テリソンとの戦いで戦死したカイルに対し、ニラダはせめてもの手向けとして酒を天に掲げてカイルに対する哀悼の意を表明していた。
その動きを見てミヨモはカイルが命を落としてしまった事を強く実感し、泣き崩れてしまう。そしてニラダ達の間には悲しい空気が流れ、ミヨモの泣き声だけが響いていた。
「私が……もっと、早く走れれば……こんな……こんな……」
「ミヨモ……」
泣きじゃくるミヨモを抱擁し寄り添うティアだったがかける言葉は見つからず、ニラダもまた最適な行動と認識してはいたがミヨモの手を半ば強引に引いた事もあり、慰めの言葉をかけられないでいた。そんな中ジャンがミヨモに声をかける。
「なあ、ミヨモ、さっきお前がニラダに言ったよな、誰もニラダのせいでカイルさんが死んだわけじゃないって……」
「ジャンさん……」
「お前だってそうだぜ、カイルさんも俺達もお前のせいで死んだなんて思っちゃいねえ」
「でも、私じゃあ魔物から逃げ切れないってカイルさんははっきり言ったし、それにニラダ君もそれが分かっていたから……」
自分が魔物から逃げ切れるほどの足の速さがなかった事でカイルが時間稼ぎという作戦をとらざるを得なくなり、それがカイルの死の遠因となった事で悲しみがあふれているのだがそんなミヨモにジャンは更に声をかけ続ける。
「自分の力のなさを感じて、ただ泣くしかできねえ。そんな事はきっと誰でもある。だけどな、俺達はテリソンに勝ってあの人の死は無駄にしなかったんだ」
「ジャンさん……」
「今は思う存分泣いていいと思う、だけどないつまでも泣いていちゃあその方がカイルさんは報われねえと思うぜ」
ジャンの言葉を聞いてミヨモが考え始めているとティアが今度はミヨモに声をかける。
「ミヨモ、きっと私もあなたと同じ立場だったら悲しみや力のなさに打ちひしがれていたと思うし、あなたの気持ちも痛いほど分かる」
「ティアさん……」
「でもジャンの言うように私達はカイルさんの意志に報えたとも思うの」
「……カイルさんはこれで良かったのかな……」
「分からない、でもきっと自分の命が無駄にならなかった事には安心したと思うわ」
「そう……なのかな……」
「ええ、私がそう思っているだけかもしれないけど」
「……ありがとう、ジャンさん、ティアさん、悲しい気持ちはなくならないかもしれないけど、私頑張るよ、魔王軍を倒してみんなを守る」
自分なりににではあるがカイルの死を受け止める事を決意したミヨモだが、その時どこからともなく声がする。
「ふっ、そう言ってくれるとはね……」
「こ、この声は!」
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