せめてもの手向け

 ガードの提案でテリソンを討ち果たした祝杯をハイバイの街で行う事になり、酒の貯蔵が現在はない事を受け、冒険者の1人が酒を提供するが量が少ない為、少しづつ分け、水を薄めて飲む事になる。


 現在成人している者達で少しづつ分配している中、ニラダが冒険者に声をかける。


「悪いけど、このグラスにも少し入れてくれないか」

「オイオイ、ニラダお前にはまだ酒は早いだろう、いくら今回の一番の功労者だからってな……」

「俺の分じゃない、その冒険者の中で唯一の戦死者であるカイルさんに……」

「……そういう事か、ああ、もしかしたら本当の意味での功労者かもしれねえからな」


 ニラダが戦死したカイルの分の酒も入れて欲しいと訴えると冒険者もニラダの意図を汲み取り、ニラダが差し出したグラスに酒を注ぎ、水も加えた。


 そうした行動があった中、兵団長のガードがグラスを持ちながら乾杯の音頭をとろうとしていた。


「みな、グラスは持ったな、見事魔王軍幹部であるテリソンを討ち果たした事を兵団長として感謝すると共に、ささやかながらのもてなしとしたい。また、この街、いや、我らが住む世界を守る為に命を散らした者達への手向けともしたいと思う。それでは乾杯!」

「かんぱーーい!」


 ガードは勝利に貢献した冒険者や兵へのねぎらいと戦いで犠牲になった兵や冒険者であるカイルへの追悼の意も込めて乾杯の音頭をとり、一同が乾杯し、酒や料理を楽しんだ。


 そんな中、ニラダは群衆から離れていき、その動きに気付いたミヨモ達も後を追いかけながら声をかける。


「ニラダ君、どこに行くの?」


 ミヨモの質問には答えず、ニラダは月が良く見える高台まで登り、ようやくミヨモ達にも声をかける。


「ここだ、みんな」

「どうして高台に?」

「ここならカイルさんにも飲んでもらえるだろう」

「ニラダ君……」

「カイルさん、テリソンは倒せましたよ。……あの時カイルさんが身を呈して俺達を逃がしてくれたからです、それから無謀な作戦に付き合わせてすいませんでした。これはせめてもの感謝とお詫びです、どうか飲んでください」


 そう言ってカイルに対して感謝と謝罪の言葉を述べながらニラダは酒の入ったグラスを月に向けて高く上げる。


「……ねえ、ニラダ君、確かに私達はテリソンに勝ってハイバイの街を守れたし、それは間違いなくカイルさんのおかげだと思う」

「ミヨモ……」

「でもね、多分カイルさんは無謀な調査だとは思っていないと思うし、誰かがテリソンの事を……」


 少なからずカイルの死に責任を感じているニラダに対し、カイルの心情を代弁するが、少しづつ涙を流し始めていた。


「だから……ニラダ君のせいで死んだなんて……カイルさんも……誰も思っていないから……でも……カイルさんも一緒に私達と喜んで……」


 泣き崩れるミヨモをティアがそっと抱擁しながら声をかける。


「そうね、あなたの言う通りよ、でもね悲しい気持ちまで押し殺す事はないから」

「う、うううう……」


 カイルの死、それは戦いが終わってからニラダ達に大きくのしかかる事となったのだ。

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