祝杯

 ニラダ達が魔王軍幹部テリソンを討ち破った事でハイバイの街を防衛していた兵士、冒険者、そして住民達も歓喜に沸いており、兵団長であるガードより、全員に呼びかけが行われた。


「では、ここにおられる皆々で今宵は祝杯をあげたいと思うが、よろしいか?」

「お!兵団長さん!気前がいいじゃないか!」

「まあ、諸君らの活躍あっての事であるからな、我々からのせめてものねぎらいだ」

「しかし団長、避難生活物資に酒はなかったはずです」


 ガードと冒険者の間で祝杯に関して盛り上がっている中、兵士の1人より酒がない事を指摘され、ガードは困惑する。


「むう、そうであったか、だが今から調達するのも時間がかかるしな」

「まあ、待てよ、実は俺が酒を持っているんだ」

「何?まことか!」

「おお、まあもっとも量は少ないから少しづつわけて、水で薄めながら飲んでもらわないといけねえが、それでいいか?」


 冒険者の1人が酒を持っていると明かし、少しづつ分けて飲むよう勧めて、ガードがその事に対し返答をする。


「いや、かたじけない兵士達にも住民にも少しは楽しみというか、気分を良くできるし、助かった」

「そうか、そいつはいいぜ」


 ガードと冒険者のやり取りを見ていてニラダはギルド職員で同行しているアービットに尋ねる。


「あのアービットさん、すぐにギルドに戻らなくていいんですか?まだ魔王軍の脅威は完全に去ったわけではないし」

「ニラダ様、皆さん、今回は奮闘してくださいましたし、少しの休息やねぎらいは必要と私は思います」

「そうですか……」

「それにテリソンが討ち取られた事はすぐに他の戦場でも伝わりますし、冒険者の皆様や防衛の兵の方々にとっては士気も上がりますし、魔王軍にとっては動揺を生む出来事になりますからね」


 アービットは今回の勝利は少なからず他の戦場に及ぼす事を話し、それに追随するようにジャンがニラダに声をかける。


「まあ、どっちにしろ今晩は休まねえとギルドに戻れねえし、ここはお言葉に甘えようぜ」

「そうよ、あなたも疲れているだろうし、少し休みましょう」

「今日はニラダ君が一番頑張ったし、休んでまた他の魔王軍もやっつけようよ」

「そうだな、アービットさん、すいません、他の戦場でも勝っていると信じて今日はゆっくりします」

「ええ、じゃあ皆様今日はゆっくりとお楽しみください」


 それから間もなく祝杯の準備が始まった。酒も食事も決して量が多いとは言えないが、参加者の多くには笑顔が見られた。

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