化物狩人の仕事

 この世の醜悪がそこにありました。

 見世物小屋にて展示される世にも恐ろしい人喰いの獣。

 怪物狩人ハンターがジェヴォーダン地方で捕らえたその異形は、頑強な檻の中で怨嗟の表情を貌に浮かべ低く唸っております。


「さあさあ紳士淑女の皆々様! ご覧にいれましたのは世にも珍しいジェヴォーダンの人喰獣ひとくいけもの! 見境なきその毒牙は百を超える人々を鱈腹たらふく喰らいに喰らったのであります!」


 恰幅の有る支配人が檻の前に立ち大げさな身振り手振りで煽り文句を並べ立てます。

 姫様ひいいさまはと言いますと私の腰にしがみ付きブルブルと震えておられます。しかし怖気おじけに好奇心が勝るのか姫様ひいいさまの視線は獣にくぎ付けです。

 

「素人仕事ってのはよくないね」


 隣に座る女が呟くや否やジェヴォーダンの獣は檻を破り支配人をあっという間に平らげてしまいました。

 思いもよらない惨事に見世物小屋に集った客は絶句します。

 静止した時の中で獣は、次にどのごちそうを腹におさめようかと値踏みします。


仕事かりってのは殺してなんぼの商売だろうが」


 女が両手に構えた長筒ライフルがありったけの弾丸を放ち獣の躰を蹂躙し、こと切れた獣は地に伏します。


「さあさあ紳士淑女の皆々様、人喰獣を仕留めたりますはウィンチェスターライフルにございます。性能はご覧の通り。鉄砲買うならウィンチェスター、ウィンチェスターをどうぞよろしく」


 狩人の女は弾創から煙を上げる獣の頭を踏みつにして、長筒ライフルのレバーを基点に二丁銃をくるりくるりと器用に回し宣伝を打ちます。


「アタシの名前はシアハンマー・コッキンレバー世界で一番の怪物狩人」


 シアハンマー女史の来仏それは、プロイセンとの敗戦を凌ぐ我が国始まって以来最大の厄災の始まりを意味したのでございます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る