第一章 情報基地編
館
自分でも気付かないうちに寝てしまっていた。やはり、相当こたえていたのだろうか………
そんなことを考えながら目を開けたら、なんと戦いの真っ最中だった。
「……あ、おはよ。
ごめんなんだけどさ、ちょっと手伝ってよ」
私をおぶっている緑目の少年が呑気にそう言う。……短剣で政府軍を薙ぎ倒しながら。
この人、
一度だけ、市民軍の拠点…学生寮のような場所……で会ったことがある気がする。
なんか、お茶目だけど色々と謎の多い人だった。
きっと、私を助けてくれたのも千留さんなんだろう。
……いやでも、なんでこんなとこにいるんだ?
状況への理解が追いつかないうちに、右の方から槍が飛んできた。
反射的に千留さんから離れて地面に転がる。
鈍痛にはっとして自分の体を見ると、いぼのようなもので歪に繋がった体が、無様にちぎれているところだった。
あたりには、いぼが破裂してできた血液が散乱している。
内臓も何もない状態から回復を行った結果だろうか。
…回復ができたってことは、私まだ死にたいんだ。
……きも。
自分の体と能力にそんな感想を抱きつつ、目の前の状況を確認した。
まず、目の前に数人の政府軍。
和風な雰囲気の館。やけに華美な装飾。
下にはヒノキらしき木材でできた床。
そして、上の方に続く階段。あと血。
……本当にどこだここ。
「……あ、ここ、
そんな私の困惑を悟ったのか、政府軍と短剣で応戦している千留さんがそう言った。
「…なんですかそれ」
「政府軍の情報を管理する館」
少年は端的にそういうと、周りにいた政府軍を薙ぎ払い、もう一度私を抱える。
「なんかここの破壊をしなきゃいけないとかうんたらで、一人じゃ流石に無理だから花さんを拾ってここまで来たんだけどさ、早々に政府軍とぶつかっちゃって。」
階段を駆け上りながら千留さんはそういった。なおも追いかけてくる政府軍に舌を出し、彼は手から何か霧状のものを出す。
紫と灰色の中間の色のような、とにかく危ない色だった。
政府軍にはそれが見えていないのか、顔を強張らせたまま突撃してくる。
……そして、霧に触れた政府軍が、のけぞって倒れ、失神した。
手足が痙攣している。
滑稽なことに、彼らはかなり無様な格好のまま固まってしまっていた。
どうやら、千留さんが持っている能力は手から毒素を排出するものらしい。
…毒が出せるのいいな、かっこいい。
見事にはまった政府軍を尻目に、私と千留さんはそのまま階段を登った。
_____
「……えっと、つまり、この情報基地を壊すためには、ここで一番偉い人を倒さなくちゃいけなくて…
それでその人が、情報基地の最上階にいるんですか?」
「うん、多分ね。
今までの傾向からするとそう。だからとりあえず、脳死で上まで行ってみようかと」
千留さんの作戦……かどうかはわからないが、思惑を聞きながら私は千切れかけの足で階段を登っていた。
この基地、とにかく階段が長いのだ。
運動不足な私は汗をだらだらにかきつつ、あれ以来でくわしていない政府軍の気配を探していた。
……一気に数名も兵士が死んだなら、政府軍の上の耳にも入るものだろう。
それなのに、なんでここまで兵士がいないのか……
「……そういえば、情報基地を破壊してどうするんですか?」
ふと疑問に思ったことを千留さんに尋ねる。
「え、知らない。政府軍の情報が欲しいんじゃない?」
…私の想定していたものよりも、随分と間抜けな答えが返ってきた。
…この先もあまり頼りにならなそうな少年を見、私は任務の行き着く先に思いを馳せる。
そんな茶番をしながら階段を登っていると、いつの間にか一番上へと辿り着いていた……
……のだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます