10-3:脈が止まりそうなまでに脈なし

10-3:脈が止まりそうなまでに脈なし


 夢を見ていた僕と、現実を見ていた彼女。その温度差と言ったら、風邪を引く表現では物足りないぐらいのものであった。僕の熱が相手にとってどれぐらいであったかは彼女のみぞ知るが、少なくとも僕にとってこの時の彼女というのは、絶対零度と言わざるを得ないものだった。まあ何だかんだやり取りを拒まずに居てくれるだけ暖かかったのかもしれないが…そのやり取りでいつも凍り付かされていたのもまた事実だ。文字通り脈が止まって失神でもしそうなまでの脈なしである。


 とはいえ、彼女の立場からすればまず「困惑」から始まるのは自然とも言える。久々に会い、何度か連絡を取り合い、と少なからず接点があったとは言っても、そこに突然大きな熱が発生したら、熱源が何なのか不思議に思っても何らおかしな事では無い。僕の中では「いつ燃えても…という状態で長らく燃えないまま残り続けていたもの」だったとしても、彼女がそれを感じる術は無く、何なら僕は僕でこの燃えかけの存在が自身の中に残っているのに気がついたのが遅かったぐらいだ。本来この時ぐらいの年齢になれば、この手の火の扱いももっと慣れていて良いぐらいであろうが…僕にとっては未だに持て余すものであり、そもそも持て余し続けた結果が彼女の冷気を呼び起こしたとさえ言えてしまうのが何とも罪深い。あまりにも未熟過ぎた。


 さて、大学生というのは序盤から中盤はこのようななかなか得体の知れないものとも戦える程度の余裕がそれなりにあるが、終盤は勉強に研究、更には院進や就職等の選択肢にも迫られすっかりそれどころでは無くなってくる。僕も周りの皆と同様、少しずつ向き合い始めていた可燃物に再度蓋をして、別件の難敵と戦い始める事となった。

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