9-3:箱入りからの脱却、広がる世界

9-3:箱入りからの脱却、広がる世界


 前述の通り、僕は今までかなりの箱入りだった。大切に育てて貰ったとは思っているが、家の外の世界というのを最低限も知らないまま大学入学まで過ごしてきた。小学時代は学校以外でほとんどクラスメイトと会う事は無く、中学時代もひたすら家と学校を往復する多忙なビジネスマンのような日々を過ごし、高校に行ってからは多少行動範囲が広がったにしても、行こうと思えばすぐに行ける場所しか知らないままで終わった。最も遠出したのはもしかすると、受験生時代にどうにも勉強に身が入らなくてフラッと大回り乗車した時かもしれない。そのレベルである。


 だが大学時代は、そもそも大学が実家とは別の都道府県にあり、その時点で割と冒険だったし、同級生の皆も北は北海道から南は沖縄まで、様々なところから来ているのでそれぞれの地元の話が聞ける。何なら海外から来た者(しかも皆普通に会話出来るレベルで日本語が流暢)もかなり身近にいたぐらい。ここまでの経験をすればどれだけ鈍感でも如何に世界が広いか、今まで見ていた範囲がごく一部かがよくわかった。そして知らない世界だらけで不安も多いはずのところが、とにかく物凄くワクワクしていた。ここで「知らない世界を知るのはとても楽しい」というのを身をもって体感した事により、何ともかなり大袈裟な言い方にはなるが、人生の楽しみ方がわかったような気がする。


 この体験により得られたものは数え切れないが、特に大きいのは「心に余裕が出来た」事。余裕が生まれるとそれだけ小さな幸せを見逃さなくなる。それにより、1つの幸せに固執しなくなるのだ。例えば人付き合いを頑張り過ぎない。あまり余裕が無いと、誰かとの関係が崩れるのに怖さが生まれたり、より良い関係を何とかして目指そうとするものだが、考えすぎても心配し過ぎても仕方が無い、とある程度良い意味で適当になってきた。友達とは自然とありのままの自分で接し続けて、恋愛はまあそれより楽しいものが多いし少なくとも今はさておいて、という感じでしばらく過ごしていた。

 ただこの時、余裕が出来過ぎてうっかり忘れていたものがある。それが僕にとっての「彼女」の存在の大きさだ。

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