8-2:多忙な生活は、嫌な思い出を流す

8-2:多忙な生活は、嫌な思い出を流す


 小さな効果は実感しつつも肝心な問題を解決してくれないカウンセリングに通う日は、いつしか終わりを告げていた。その何よりの原因は、高校三年生になれば多くの者が通る道「受験」である。単純にドタバタしてしまって通う暇が無くなってきたのだ。

 受験自体は決して思い出したくなるようなものでは無かったのだが、このタイミングでそれを迎えたというのは、今思えば極めて幸運な事だったかもしれないとも思ったりする。あれこれ悩んでいた事が一気に押し流されて、頭をスッキリさせられたからだ。


 当時は全く意識もしていなかったのだが、他の事に没頭するというのは、悩み事や不安を解消する為にとても良い効果が期待出来る。基本的に心配というのは多くが「考え過ぎ」を原因とするものなので、考える余裕が無くなれば自然と消え去るというわけだ。不安を抱える人に対するアドバイス等をインターネットで検索してみれば、恐らくどこかでは目にする選択肢だろう。

 またもう一つ大きなポイントがある。「時が経てば解決する」という事にも関わってくる話だ。この世界では楽しい時間というものは飛ぶように過ぎるものだが、それ以上に早く過ぎるのが、忙しい時間である。勉強だって仕事だって、一心不乱にやっていると気が付けば日が暮れているもので。学校の授業に予備校の授業にというこの期間は、本当に大変だったはずなのに本当に一瞬だった。その間に今まで考え込んでいた事が何とも思わなくなる為の時間は十分に過ぎていたようだ。


 受験によって生まれる新たな悩み事というのも当然だがあるにはあった。だがどれもこれも人間関係という複雑怪奇な概念から成るものと比較すれば随分と解が読みやすいもので、色々な人達と思うようにいかなくてどうすれば良いのか何も分からなくなりつつあった時の事を考えると、とても良い方向に導かれたと思う。

 とはいえもう一度あの時の事を経験したいかと聞かれれば、NOと即答するが…。しんどかったのは間違い無いから。

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