8-1:カウンセリングとなけなしの効果

第8章(高校時代③)

熾烈を極める受験戦争、領地いばしょを巡る頭脳戦

8-1:カウンセリングとなけなしの効果

 僕の母校はなかなか生徒数が多い高校で、クラス数にして多い時は一学年20クラスだった。そのような事もあり、メイン校舎は8階建ての要塞のようなものだった。

 しかしそれだけの階層があるとはいっても、すべての階に教室があるという事は無く、一部クラスはサブ校舎に教室があったりして、自然と「滅多に人が来ない箇所」というのが生まれていた。具体的には、あまり使用機会が多くなく複数の出入口のうちほとんどが閉鎖されていらホールぐらいしか無い最上階の8階がそれにあたる。

 僕と知り合い達はそのひっそりとした8階(何と使われていない椅子や机まであり、極めて寛ぎやすい)でしばしば集まって話したり遊んだりしていたのだが、二度目の別れの時からそこにも居辛くなってしまい、別の場所で過ごしたり、他のメンバーで話したりする事が多くなった。

 その期間中に8階での集まりは行われなくなっていき、ある日一人でそこへ戻ってきたのだが、ふと「カウンセリングルーム」と書かれた小部屋と、何でもご相談くださいという貼り紙が目に入った。ちょうど人間関係もあまり上手くいかず、大学受験に向けた勉強もあり疲れ切っていたので、ドアを開けてみたのだ。


 それからしばらくの間は週に一度程度、カウンセリングルームに通った。担当のおばちゃんはとても優しく、色々と話をしてくれたのだが、効果を得るには僕の方に大きな問題があった。「一度として本当に悩んでいる事を打ち明けられなかった」のだ。そもそも相談事というのは、まず何に困り、悩んでいるかを明確にするところから始まる。問題が見えずして解答など正しく出せるはずが無い。それにも関わらず、僕はどこかおばちゃんを信じきれていなかったのか、余計な心配をさせたくないと思ってしまったのか、恥ずかしかったのか…とにかく、本当に解決したかった事はずっと話す事が出来ないままだった。


 とはいえ小さな悩み事は随分と整理出来たので、なけなしであるのは間違い無いが効果はあったと思う。というかある意味「」と理解したというだけでも、確実に人生で必要なプロセスだったろうと、今なら胸を張ってそう言える。

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