7-3:二人それぞれの儚い夢と、深い傷

7-3:二人それぞれの儚い夢と、深い傷


 僕が別の道を行こうとして失敗していた時、先に他の男と別の道を選んで進んでいた彼女はというと、何なら僕より順調でなかったらしい。僕が失敗した原因が「その場のノリで新たな付き合いを始めてしまった」だったが、同じように彼女の方の失敗の原因を言葉にするとすれば「一時的なときめきに酔って新たな付き合いを始めてしまった」となるだろう。どうも後になって相当厄介な本性が見えたようだ。とはいえどれだけ相手の非を探ろうと、あの時僕が負けた事実は覆らないのだが。


 当時は酒が飲める年齢には程遠かったので、数は多くないとはいえ飲み会等に参加した経験がある今だからこそ言える事なのだが、恋愛は少しばかり飲酒に近しい面があるように思う。程良く飲めば大変心地が良いが、のめり込み過ぎれば体調にまで影響するし、時としてなにをしでかすがわからなくなるし、しばらくしてから酷い頭痛が襲いかかってくる。僕は幸か不幸かかなり酒に耐性があるので実際にこのようになった事は無いが、身の回りで酒を嗜んだり酒で失敗をしたりしている人々を見ているうちに恋愛との類似点を見出し始めた。


 もう一つ、恋愛と飲酒を照合する時に語らずに居られないのが、「依存性」である。共にかなり痛い目を見やすいものであるのに、何故かしばらくするとまたハマってしまう不思議な魅力を含んでいる。何なら痛い目を見やすい度合いで言えば恋愛の方が飲酒より余程高い。カップルは毎日どこかで誕生しているが、その行き着く先はほんのひと握りが結婚で、他は別れるのみなのだ。それでも次の日、また次の日と、新たなカップルがどこかで誕生していく。もう絶対恋愛なんてするものか、と言った者であれ、時が経ったり新たな出会いに触れたりすれば考えを改めるぐらい、末恐ろしい魔力を含んでいる。


 酒を嗜める年齢にもなる前に、このような強大なものを経験し失敗した僕達は、その後次のスタートを切る事は無かった。随分と深い傷を負ったもので、まず双方とも異性はおろか人付き合いに対する考え方すら、なかなか前向きに捉えられるようになるまで時間を要したものである。

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