6-1:何故離れてからしか気づけないのか

第6章(高校時代①)

遅すぎた大人への一歩、怖くなる「尊敬」の二文字


6-1:何故離れてからしか気づけないのか


 小学校から中学校に上がる時は、周りの者達がほぼ変わらず、通学の道もあまり変わらず、おまけにそもそも兄の行った道をそのまま行くだけという事で、新鮮味の欠片も無かった。しかし中学校から高校はそうでなかった。まず周りに自身の知っている者が全くいない。そこまでの積み重ねなんてものはほぼ無かったとはいえ、ゼロからのスタートであったのは間違い無い。そして通学が徒歩のみならず電車の利用が不可欠となり、自然と行動範囲が広がった。それにより更に様々なものを目にする事が出来るようになった。兄の行った道をそのまま行く、というのだけは変わらなかったが、それが気にならないぐらいには何もかも新鮮であった。


 そんなわけで心機一転、新たな生活のスタート…となるはずが、ここで僕は気が付いた。あまりにも遅い、今更過ぎるタイミングでようやっと、気が付いてしまった。彼女がいない事に大きな寂しさを覚えている事に。彼女の存在の有り難さに。彼女が僕に伝えてくれていた気持ちを、僕も知らず知らずのうちに抱えていた事に。

 当時のみならず、今考えてもタラレバでしか無い、それを重々承知の上でなお思うのだが、何故彼女との距離が離れてからでしか気付けなかったのか。早くに気付いていれば、中学時代を「あまり大した思い出も作れていない」と評する事は無かったろうに。そして彼女にも、モヤモヤする気持ちを長らく抱えさせずに済んだろうに。彼女が早くに見つけた大人の階段が私にも見えるようになるまで、実に三年もの間が空いてしまったのだった。


 本来は互いに予定を合わせ、会った上で話を進めるべきだったのだろうが、気持ちに気付きたてで余裕が無かったのと、特に僕の方の高校が入学してしばらくがなかなか忙しく、時間を取りづらかったというのもあり、彼女に今まで貰ってきた気持ちに対する返事をするのはメールでという方向になった。僕も君が好きだと。これからもよろしくお願いしますと。三年も待たされて、しかもあまりきちんとした形も取れなくて、それでも彼女はようやくこの時が来たと言わんばかりに大層喜んでくれた。

 こうして僕達は、二人で階段を上る事となった。

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