5-1:変わる呼び名、それでも歩み寄れなくて
第5章(中学→高校)
離れる二人の距離、引き寄せるのは卒業の時の思い出への覚書
5-1:変わる呼び名、それでも歩み寄れなくて
六年もある小学時代と比較すると、三年しか無い中学生活というのは実にあっという間である。特に、三年生の時の一年間は、受験があった事もありそれまでと比べて圧倒的な速さで過ぎていった。楽しい時間はすぐに過ぎると言われているが、それ以上にすぐ過ぎるのが、忙しい時間である。
とことん楽しんだ部活動にも区切りをつけ(ほぼ僕の代しか活動していなかった気がするが、家庭科部はあの後も部活動として残り続けていたのだろうか…?)、それぞれの進路も決まっていき、小学三年から七年間もの期間同じ学校で育った彼女とは、中学卒業とともに道を分かつ事となった。
この慌ただしかった時期の事はそこまで記憶が定かでないのだが、しっかりと覚えている事もある。これぐらいの時期に、彼女の僕に対する呼び方が変わったのだ。元々は苗字を元にした渾名であった。これは皆も同様に僕の呼称として使っていたものである。がある日、下の名を呼んでくれるようになった。皆と違う呼び方、それも苗字でなく名を、というのはかなり特別なものである。しかし例によって当時の僕はそこまで理解が及ばず、「下の名で呼んでくれる人は珍しいなぁ」ぐらいで流してしまった。何度流したら気が済むのか。急速な川の上流が常に続いているような感じだ。いい加減穏やかな下流に差し掛かって、流した物を積み上げるところであろうに。
最後までこの調子で、卒業の瞬間までついに大人の階段を見つける事はなかった。また、明らかに「異端」でありながらもそれに気付かないまま、というのもまるで変わらず、あっという間の三年間は、多少の成長の兆しはあれど、笑ってしまうほど僕の精神に歳を重ねさせてくれなかった。
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