8-1:仲間2
セドの町から戻ると、さくらのためぜいたく品の砂糖を出し惜しみせず、二つのお菓子を作った。
簡単に作れるクッキーやプリン、チーズが乗ったパンだ。
これらは卵や牛乳の消費期限が迫ったときによく作っていた。
この世界にも牛乳とレモンがあるため、自分でバターやチーズを作ろうと思えば作れる。
牛乳を振るだけでバターを。チーズは牛乳にレモンと塩を入れるだけ。
っというわけで早速作ってみた。砂糖を入れた蒸しプリンにバタークッキーだ。
調理している間、さくらがじっくり見ていたけど、明日の朝に食べるつもりなのでその日はお預けにした。
さくらがため息をつくなか、今度は夕食としてご飯を作った。
野菜と鳥肉のスープに、豚の野菜炒めなど。味は少し濃い目にして、パンに合うように。
多分初めての人間の食事に、さくらはまた目を大きく見開き興味津々だ。
さくらに食べていいよと促すと、せわしなく動き回りながら食べた。
顔を見る限りだと、おいしそうに食べてくれている。作った僕も満足だ。
夕食が終わると、さくらをカオリに預けて僕は先に寝ることにした。
翌朝、耳元で叫ぶさくらの大声に目が覚めた。勝手に僕の部屋に入ってきていたらしい。
僕は今度からノックするようにと伝え、ふらふらと立ち上がった。
さくらがノックっとは何か聞いてきたので、カオリに人間の慣習の話をしてもらうよう頼んだ。
その間に僕は、朝食用に、パンと卵とトマトをはさんで食卓に並べた。
さくらがお菓子がないと嘆いたけど、パンを食べたらすぐに文句は言わなくなった。
対照的にカオリからは、マヨネーズほしいねといわれた。卵と油と酢で調理実習のとき作ったから、やり方は覚えてる。
でも酢なんてない。酸ならレモンで代用できるかな? 今度卵と油とレモンでやってみようか。
出来るかどうかわからないけど、作ってみるとカオリに伝えておいた。
カオリからは良く覚えてるよねと言われたけど、こと料理のことは普段から興味があったから覚えている。
僕と一緒で良かったはカオリの弁。
朝食が終わるとさくらのお待ちかね、お菓子を渡した。
どれもこっちの世界じゃまだないものだ。と言っても材料はこちらの世界にもあるので、気づけば誰でもできるものだけど。
プリンなんて卵焼きを甘くしたようなものだ。キャラメルは砂糖を煮詰めただけ。
クッキーは固いけど、パンを甘くしたようなものだし。あ、パンに砂糖をまぶせばラスクか。これも今度出すことにしよう。っと言ったように、焼き加減などを意識するだけのものがほとんどだ。
酵母があればまた違うんだろうけど、酵母は売ってないし、作り方もわからない。
頼めばもらえるかもしれないけど……今後ケーキを作ろうと思ったときに考えることにしよう。
ふと、僕が周りを見ると皆笑顔になっていた。甘いものは世界共通らしい。
でもさくらの食べる速さは異常だった。小さい体のどこにそんなに入るのか?
さっきの朝食も僕らと同じくらいの量食べたし。どういうこと?
って思ったら、お菓子はどうやら袋にためこんでいるらしい。魔法の鞄とか言うもので、容量は見た目以上というものだ。
僕が欲しいと言うと、さくらはお菓子と交換ならあげると言って来た。
僕は昨日作って残しておいたお菓子を、全てさくらに渡した。
すると、妖精の村に連れて行くから、そこで鞄をもらうようにと言われた。
予想外にすごいアイテムを手に入れることが出来そうだ。
これがあれば、採集も楽になるし、戦闘とかで使うロープもたくさんもつことが出来る。
お菓子を食べ終わると、すぐに妖精の村に連れて行ってくれることになった。
僕らは魔物に襲われてもいいように、戦闘の準備もして森へ向かった。
さくらの案内通りに森の奥へ奥へ進むと、そこには小さな家々が立ち並ぶ妖精の村があった。
妖精達は人間に興味があるのか遠目からじっと僕らを見ていた。いや、警戒していたのかもしれない。
村の中を進むと、さくらは僕らをその場で待つよう言って、家の中に入っていった。実家かな?
少し待つと、さくらが他の妖精をつれてきた。
多分さくらの父親だと思う。さくらの紹介だとこの里の長、まとめ役らしい。
さくらが魔法のバックがほしいことを伝えると、僕に合いたいと言い出したそうだ。
「あなたが私達の仲間を救ってくれた人間ですか?」
「え? ぼ、僕らは救ってないです。あくまで助けたのは、彼女……さくらだから」
「おや? この子からは助けてくれたと聞いてましたけど」
「僕らがしたことは、さくらを他の妖精の仲間達の場所へ届けただけです。そこから仲間を助けたのは、彼女の魔法の力です」
「ふむ」
さくらは僕らのことをなんと伝えたんだろうか。大分誇張されている。
「た、助けてくれたも同然でしょ! あたしがあんたたちに魔法ぶつけても、あたしのこと殺さなかったし」
「いや、さくらが意味深なこと言ってたからでしょ。仲間を返せって」
「その後皆を助けれるように作戦を考えてくれたじゃない。私だったら人間の町なんて魔法で攻撃を仕掛けるしかなかったし。下手したらあたしも捕まる可能性もあるし」
「それは君たちが人間に対して真っ向から向かって行って、だまされるからでしょ。そもそも、僕の作戦だって君が失敗したら、一緒に捕まってたんだからね?」
「でも現場にあなたいたじゃない。上からあなたが隠れてたの知ってるんだからね?」
「それは何かあったら困るからね。手伝うはずが、そのまま捕まったら僕らだって良心が痛むし」
「でも結局は、皆助かったでしょ!」
なぜか僕は、さくらと口喧嘩しているようになってしまった。
でも僕らの話が気になったのか、長が僕らに詳細を聞き出した。
妖精がなぜ人間に捕まったのか、初めの出来事から順に。
僕が話し終えると長は頭を抱えた。そして人間に捕まっていた同胞を呼び寄せて事実確認をした。
事実確認が終わると、人間に捕まった妖精達を長が怒鳴りつけ、僕らのほうを見て頭を下げた。
「このたびは我ら妖精に助力していただき感謝をいたします。この子らから聞いた事実とかなり食い違っておりまして」
「ど、どういった事実だったんですか?」
「この子らの話だと、人間に背後からいきなり捕まえられて連れて行かれたと」
人間にお菓子で誘われて、そのとき人間に背後から捕まったってことだよね? あながち間違ってないけど。
「人間には近づくなとあれほど言ったのですが。この子らは決まりを破って人間に近づいていったのです」
しかられた妖精達は皆泣きながら、人間がおいしそうな匂いの食べ物をくれたから、っと言い訳を始めた。
「さらに仲間をさらった人間というのがあなた達ではなく、他の人間であること。助力してくださるあなた達に攻撃を加えてしまったことを深くお詫びいたします」
「いえ。こちらもさくらと出会えることができたので、よかったですよ。さくらが僕らの仲間になってくれたので」
「え?」
さくらは僕らに向かって、シーシー! っと言い出すも、長の耳に入ってからそんなことしても遅い。
今度はさくらが長に怒られていた。
「た、たびたび申し訳ありません。人間に関わるのはこの里では禁忌としていたものなので」
「それは……わかりますけど。妖精から見たら、人間は悪いやつばかりだと思いますし。でも今は仲間になってしまったので……」
「ええ。なので、この子は村を追放することにします」
「え!? そ、それは可哀相なのでは!?」
僕がさくらのほうを見るも、さくらはまんざらでもない様子だ。
聞いてみると、さくら以外でも、外に興味を持った妖精は勝手に里を出て行くのだそうだ。
「里長! いつまでもこの里に閉じこもっていても、今後同じことが起こるかもしれないのよ! なら、あたしは人間とみんなの架け橋になろうって言ってるの!」
さくらはそう言うと、今朝魔法の鞄に入れていた、たくさんのお菓子を妖精みんなの前に差し出した。すると遠目に見ていた妖精達が皆お菓子に興味を持って近づいてきた。
「み、皆! 近づくな!」
長の言うことに聞く耳を持たない妖精達は、こぞってお菓子に手を出していた。
「ほらね! 皆、里の決まりを守っても興味はあるのよ! だから、私が皆にお菓子を持ってくる代わりに、アキたちの仲間になったの! この人間達なら信用できるわ! 昨日だっておいしいものたくさん食べれたもの!」
さくらが他の妖精達をたきつけるように食べ物の話で誘った。
他の妖精達は僕らにもっと食べ物持ってきてとせがむ。
「皆!! いい加減にしろ!!」
里長の怒鳴り声と共に妖精達はすぐに静まり返った。
「人間殿。あなたがこの里に来られた用件はなんですかな?」
「魔法の鞄を作ってほしくて。さくらが持ってたので、僕らもほしいなって言ったら、妖精の里にあるって言われて」
「この技術は妖精族にのみ伝わる秘伝のもの。そうやすやすとは……」
「さくらも言いましたけど、僕らがお菓子作ってくるのでそれと交換ではどうですか? あとレシピも渡しますよ。材料があれば誰でも作れるし」
「……とは言っても、我々では人間の食べ物は作れません。材料がありませんから。仮にその材料も交換するとなっても、我々は人間のほしいものがわかりません。交換のたびに魔法の鞄を渡すのは……。先ほど言ったように渡すことはできないのです」
「んー。魔法の鞄は僕らのだけもらえれば問題ありません。それとお菓子に使う材料は、僕が里を見て、欲しい物と交換でお渡ししますよ」
僕の条件に、里長は少し悩んでいた。ただ周りにいる妖精達は、僕の出した条件で良いじゃないかと言いながら、長をじっと見ているようだった。
「……わかりました。では魔法の鞄は友好の証として初めにお渡しします。それで今後はこの里にあるものと交換ということで」
「やった! それと今後はお菓子の材料は、全部さくらに渡すので、それ専用の魔法の鞄もお願いします!」
交換とする物は、都度さくらに渡してもらうようにお願いした。
そして交換する候補として、特産品などないか聞いてみると、樹蜜はどうかと言われた。
思ってもいないものが出てきた。甘いものはそれだけで価値があるから、樹蜜で手を打つことにした。
魔法の鞄の受け取りのため、もう一度だけ里を訪れる許可をもらってから、僕らは妖精の村を出た。
村を出て森を歩くと、先ほどまでは気づかなかった、地響きがある。
原因が何かわからないが、森の中は見通しが悪く反応し辛いため、僕らは一度、森を抜けることにした。
そして周りを確認すると、セドの町のほうから煙が上がっている。
地響きの原因を考えると魔物に襲われた可能性がある。
「アキ、どうする?」
「どうしようか」
これがゲームならすぐにでも駆けつけるところだろう。でも今はゲームではない、と思ってる。
死ねばコンテニューなしで、そのまま人生が終わる。
魔物の群れに僕らが救援に向かったところで無駄死にだろう。いや、仮に魔物を討伐できたとしても、僕らが勇者や英雄扱いされるのは非常に困る。カオリが勇者であることがばれたらそれこそ寿命を縮める行為になると思ってる。
っと、内心では行くのは絶対やめたほうが良いと思っている。
ただそれをカオリが納得するかどうかは別な話だ。なのでカオリには僕の考えを伝えた。
するとカオリは、そうだね、っと一言つぶやいて町のほうを見る。
それを見た僕は、いつものカオリらしくないと思った。
いつものカオリなら、僕の意見に賛成だったら、すぐにでもこの場を去るだろう。町のほうを見ることなんてしない。
まぁカオリが何を思っているのかわからなくもない。カオリが特に考えることなく勇者の特性を取っただろうことは確かなんだと思う。
この世界での勇者の必要性は、町のことを考えれば一目瞭然だ。何かしら思うこともあるだろう。
「あたし達の家と町、結構近かったよね? 作り直さないとだめかな?」
あ、違った。町の人のことで責任感があったのかと思ったのに。
僕のほうが人助けできない状況に戸惑ってただけなのかな。
「そうだね。でもまた他に作り直すのめんどくさいね」
「……じゃあ助ける?」
……なんとなく誘導された感があるんだけど、やっぱりカオリも責任感はあったらしい。
僕はため息をついて、町の人たちの避難をのみすることを条件にした。魔物の相手なんてしてられない。下手したら死ぬ上に、上手く言っても英雄扱いはこまる。これが妥協点だろう。
僕らは人命救助のみを目的としてセドの町へ向かった。
セドの町は、既に魔物の侵攻を許し建物のあちこちは破壊されている。
ほとんどの人は逃げ出したかあるいは死んでいる。ただ逃げ遅れた人がいるかもしれないから、僕らは手分けして探すことにした。
僕の場合、隠密があるから一人でも平気だ。ただカオリ達はないので、カオリにモグ達皆を任せ、魔物のヘイトを稼いでもらうことにした。
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