7-2
次の日、フェアリーの案内でセドの町付近の森へ向かい、魔物の相手をしていく。
初めはダチードと呼ばれる大型の鳥だ。遠くから確認してみると、見た目ダチョウのようだった。
フェアリーの話だと、この鳥は走ると一瞬で最高速まで到達するらしい。そしてそのまま突進か逃げていくそうだ。
あの巨体で突進されたらただじゃすまないと思う。車に引かれるようなものだろう。狩るときには注意が必要だ。
まぁ突進にいたっては、モグに事前に穴を掘ってもらって、そこに落ちてもらうので速さは関係ないのだけど。
その後も数回ダチードと出会ったけど、そのほとんどのダチードは、僕らに突進してきてそのまま穴に落ちた。
僕とガーディは上から石を投げ、カオリが水の魔法で溺死させ、水の魔法で持ち上げ回収した。
カオリの魔法の操作は、家作りでかなりうまくなったみたいだ。
ダチードをそれから数回ギルドに卸して夕方になり、狩りを終えた。
ギルドに戻り、全てのダチードを一括で清算してもらうと、ダチード一匹あたり金貨10枚と破格な待遇だった。
30匹狩ったから、合計金貨300枚だ。
僕がこんなにもらえるのかと驚いていると、受付のお兄さんが理由を話してくれた。
ダチードの肉はおいしいらしい。しかも大きさもある。さらには、羽も使え、全身お金になるそうだ。
お肉がおいしいなら一匹くらいは残しておいたほうがいいかな……と思ったけど、さすがに大きすぎる。
多分食べきれず捨てる部分が多くなるだろう。冷蔵庫もないし……。
僕はダチードは今はあきらめて、金貨をもらい、ついでにギルドに馬車を返した。
そして代わりに、以前からの念願だった馬車や馬、食材や布を買い込んで馬車に詰め込んだ。
そして次の日も魔物狩りのために森に向かった。
本当はダチードをそのまま狩ってスキルポイントがほしかったけど、今日は中々見つからなかった。
なので目に付いた、カコゲと呼ばれる大きなトカゲを標的とした。
表皮が硬く、周りと保護色になることもあるそうで、本来は見つけるのも難しいらしい。
だけど、僕には探索のスキルがあるからすぐ見つけることができた。
そしてカコゲに気づかれないよう臨戦態勢に入ると、突然、すごいスピードでこちらに向かってくるものが目に入った。
「人間!! 同胞を帰しなさい!!」
それは見た目フェアリーのような……いや、どう見ても妖精だろう。
手のひらサイズの人間の背中に羽が生えてる。
僕のフェアリーより少し小さめだ。っと驚くのも束の間。妖精は魔法を放ってきた。
僕らは反射でその魔法をよけた。
「カオリ! 戦闘だ!」
「わかってる!」
ガーディが囮をするため前に出て、カオリは魔法で相手をけん制する。
が、妖精は器用に魔法をよける。
妖精が二人に注視しているそのうちに、気づかれないよう、僕はいつものように姿を隠した。
しばらくは二人で戦ってもらい、妖精が僕の存在を忘れたであろう頃に、後ろから捕まえた。
妖精に魔法を唱えられないように、口には猿轡……がないから、指をはさむ。
けど、すごいかんでくる。でもあごの力は弱く、ありにでも噛まれてるみたいだ。
「いきなり攻撃してくるのはやめてもらえる? 君が同胞を帰したいならなおさらね。このまま首を折られたくはないでしょ?」
僕が脅すと妖精はおとなしくなった。
そして抵抗はしないだろうと、妖精を放すと、そのままどこかに飛んで行こうとした。
「待って! 君、どうして僕らを攻撃してきたの?」
僕の声に反応して妖精がまた僕らのところに戻ってきた。
「人間が妖精を捕まえていったの!」
「ん?」
僕は妖精の話に少し違和感があった。
僕だからこそ後ろから捕まえることができたけど、そもそも盗賊は魔物と戦闘をすることができないと言われている。
その上、盗賊の特性以外で妖精たちを捕まえられるとは正直思えない。かなり強い冒険者じゃないと。
妖精は魔法も使うし、よけられるから捕まえられないだろう。というか、そんなに強い冒険者が妖精をわざわざ生け捕りするとは思えない。
僕はこの疑問をそのまま妖精にぶつけてみた。
「このあたりの魔物のレベルで、君たちを捕まえられる冒険者なんていないと思うよ? 君は魔法を使ったよね?」
「私は使えるけど、他の子たちは使えないの。だから人間に誘われて捕まえられたら逃げ出せなくて」
「人間に誘われる?」
「に、人間がおいしそうなお菓子を持ってたから。それを食べたがった子たちが人間の前にでちゃって……」
なんていうか……よく飲み込めないけど、警戒心がなさすぎのように思う。
フェアリー以外の妖精はこの世界に着てから初めて見る。つまり希少価値がタブン高いんだと思う。
妖精たちはそれを理解していないのだろうか?
「君達にとって、人間は怖い存在ではないの?」
「そ、それは怖いけどさ……」
妖精はなんとも歯切れの悪い話し方をした。
理由はわからないけど、今後人間に近寄らないこと、妖精が僕らに協力することを条件に手助けすることを提案した。
妖精はすぐにわかったと返事をして僕の案に乗ってくれた。
僕の考える作戦はただ単に、この魔法が使える妖精を、妖精を捕まえるバイヤーに売り渡すというものだ。
そしたらあとは妖精が勝手に魔法を使って脱出すればいい。
妖精はしばらく考え、しぶしぶこの作戦に乗っかることになった。
僕らは袋に妖精を隠してセドの町へ向かった。
町に戻ると、僕らは変装をして密売人がいそうな場所を探ってみることにした。
ないとは思うけど念のため、ギルドに依頼がないか見てみた。すると依頼として普通に張り出されていた。
僕は唖然とするも、そのクエストを受けて、ギルドに妖精を引き渡した。
一応妖精には、すぐに暴れないよう、仲間を見つけたあとに暴れるようにとはあらかじめ伝えておいた。
「ね、ねぇアキ。妖精達って大丈夫なの?」
「わからない。少し様子を見よう。っていっても、魔法が使えるからどうとでもなると思うけど」
僕らは変装したままギルドの前で待つことにした。
しばらく経ってギルドから出てきた男に目がいった。彼は手に、僕らがギルドに渡した袋をそのまま持っていた。
カオリに合図をだして、僕は彼に気づかれないように隠密のスキルを使いながら後をつけた。
そしてとある家に入っていった。タブンそろそろ魔法を使うはず、っと考えていると案の定すぐに魔法が使われた。
家があっという間に破壊される。
危うく僕も巻き添えを食らうところだったけど、ぎりぎり回避できた。
あたりが騒然とし、町の兵士が来る頃には妖精達が空を飛んで森へ向かっていくのが遠目で確認できた。
僕は確認を終えてカオリに、無事クエストが終了したことを話した。
妖精を渡してギルドから受け取ったお金を確認してみると、すごい大金だった。
昨日のダチードの分もまだあるから、今日はそのまま待ちで買い物をすることにした。
念願の水の魔法書や、食材や服の素材などたくさん馬車につめて、その日は家に戻ることにした。
次の日、夜が明けると再度妖精がいた森へ入った。
妖精の依頼で大金を手に入れることはできたけど、本来の目的である魔物を討伐してスキルポイントを手に入れていない。
だから僕らはまた、ダチードかカコゲを狙って森を散策することにした。
そしてしばらくすると、また何かすごいスピードでこちらに向かってくるものが見えた。
向かってくる方向に目をやると昨日の妖精が目に入った。
「人間!」
「昨日の妖精さん。またなにかあったの?」
「お礼が言いたくてね! 昨日結局あんた達森に来なかったじゃない!」
「うん。日も沈んでたし危ないからね。それにお礼もいらないよ。君をギルドに納品するとき大金もらえたから」
「そ、それってどうなの? あたし達売り物じゃないんだけど」
「君はギルドに用があったし、僕らはお金をただでもらっただけだし。winwinなだけだよ」
「うぃ……? と、とにかく! お礼を受け取りなさい! ありがとう!」
「わかったよ。どういたしまして」
僕は妖精から、お礼の言葉をもらう。
それで終りかと思ったんだけど、妖精はこちらをじっと見たまま動かない。
「どうしたの?」
「そ、その……人間にお願いがあるんだけど」
「お願い?」
「うん。人間に、人間の世界の食べ物を持ってきてほしいんだけど」
「んー。めんどくさい」
「め、めんどくさい!?」
「だってそれって、今だけの話じゃないでしょ、多分。今食べ物を渡して、今後も……ってなったら面倒だよ。僕らは行商人でもないしね」
「うぐっ!? そ、それじゃあ他の妖精がまた人間にさらわれてもいいっていうの!?」
「それは僕らのせいじゃないでしょ。自業自得だよ」
「んぐっ!? うぅ……!?」
妖精は残念そうに肩を落とすけど、僕らは何度もこの森に用が出来るとは思えないし。
「あ!」
「え? な、何?」
「妖精さん! 僕らの仲間にならない? それで、君が妖精達にもって行けばいいんじゃない?」
「あ、あたしが?」
「うん! ただし! 君には働いてもらうよ。それでもいいならだけどね」
「んー……。って、悩んでもそれしか選択肢がないからそれでいいよ。仲間になる」
「やったあ!」
僕は妖精が仲間になってすごい喜んだ。
というのも、細工師についての問題が解決しそうだからだ。魔法も使えるし、細工師になってもらえれば僕らの快適な生活に近づくことができる。
半ばあきらめていたときにこの出会いは非常に意味のあるものだ。
というか先ほど、あのまま分かれていなかったことに感謝したい。
僕もこのことにすぐに気づけばいいのに、バカだなぁと思う。
僕は妖精を家に迎えると、すぐに義兄弟の契りのスキルを使った。
これで妖精は僕を裏切れない! いい駒が……じゃない、いい仲間が手に入った!
僕のよこしまな考えが顔に出ていたのか、妖精は怪訝な顔をする。
僕は気づかれまいとセドの町に出かけることを皆に伝えた。
妖精に特性をつけないとだめだし、妖精の目当ての食べ物もある。
妖精は食べ物の話が出ると目を輝かせてすぐに行くといった。
「それじゃ町へ行こう。それと、いつまでも妖精さんじゃ呼びにくいから、名前を聞きたいんだけど」
「あたしたちに名前なんてないけど?」
「じゃあ勝手に呼ぶね。んっと……さくらでどう? 花の名前なんてなかなか思いつかない」
「さくらね。わかった」
さくらには前に話したとおり、人間に極力近づかないように話しておいた。
そして人間の町に行く際は袋の中に入ってもらうことにした。
カオリがそれだと可哀相だからと、ぬいぐるみを作っておくと言い出した。
確かにそれなら外に出ても妖精ではなく、僕が魔術士だといえば動き回れるかも?
とりあえず今はないから、袋の中に入って、町を見てもらうことにした。
町に着くとすぐ特性をもらいに教会へ向かう。
その時、袋からは出ないようにさくらに話しておいて、教会でも袋に特性をつけてもらうように話した。
ガーディに特性をつけてもらう時よりも変な目で見られた。
でも袋越しでも特性を着けることは可能だったようで、つけてもらった瞬間袋が光りだした。
教会の人たちは驚いた顔をもちろんしたけど中身は見せることは出来ない。
僕は多めのお布施をおいてすぐにその場を離れた。
特性がつけ終わると、細工師に必要なものを鍛冶屋で買うことにした。
たださくらの体だと、人間が使うものでは大きすぎるため、オーダーメイドしてもらうことにした。
そのためダイブ時間は掛かりそうだ。っと思ったら、小さいもののため夕方までには出来るといわれた。
夕方までなら買い物をするからちょうどいいと僕はその時間に受け取りに来る旨を伝えた。
僕の用事が大体終わると、そこからは自由行動ということにした。
カオリはさくらの服作りのために裁縫店へ。
残った僕らは、食べ歩きをすることになった。
この世界の食べ物は塩での味付けがほとんどで、甘いものはあまりない。
とは言っても、数は少ないとはいえ屋台はある。
甘いものは一つで一般庶民の食費一日分のぜいたく品だけど、甘いものはやはり人気だ。
今はお金もあるし、僕らはそれらをすべて食べることにした。
時が経ち夕方になると鍛冶場へ行って工具を受け取った。工具は見えなくなりそうなほど、非常に小さい。
これを作れるということはよほどの腕前だろう。この鍛冶屋には今後もお世話になるかもしれない。
すべての用事が終わると、僕はカオリと待ち合わせしていた門前に馬車を止めた。
そしてしばらくしてカオリが大量の荷物を持ってやってきた。
そんなに服を作るつもりなのか聞いてみるとそうらしい。さくらにも洋服を作るとのことだった。
さくらは喜んでいたが、カオリが作る服は普通の誰もが着ている服じゃない。
でもさくらも喜んでるし、そっとしておくことにして帰路についた。
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