7-1:拠点
夜が開け、体調が万全とはいえない中今日が始まった。
野宿の後片付けをし終えると、カオリはすぐさま亜人討伐に向かおうと張り切りながら言い出した。
なんでこんな状況で元気になのか不思議でしかない。
直接聞いてみると、カオリはとにかく新しい拠点を作ってベットの上で寝たいらしい。
僕だってそれが今日中に実現出来るなら、それでいいんだけど確実に無理な話だ。
今はとにかく馬車を買って、中に毛布なりつめて、車上泊を目標にすべきだ。
僕がこのことを伝えてもカオリのテンションが下がることはなかった。とにかく拠点が作れることが嬉しいらしい。
僕はカオリの考えが理解できないので放って置いて、亜人の住みかとする洞窟へ直接向かうことにした。
待ち受けていたのは、門番が4人。いずれも僕と同じくらいの背丈だ。
僕らの作戦として、まずガーディをタンク・扇動者としてカオリとタッグを組み、正面から突破する。僕はその間に隠密で敵の背後に回り込み攻撃だ。
一呼吸置いてから、作戦通り攻撃した。するとあっという間に残り二人になった。そしてその内の一人が僕に注意を向けると、カオリは容赦無しにその一人を火あぶりにした。
残りの一人は最後のあがきで攻撃に出たが、ガーディがそれを受け止め、カオリがまたすぐに火あぶりにした。
ほとんど何もすることがなかった僕は、改めて影が薄いなぁって思った。
洞窟前の四人を討伐し終えると、今度はモグの出番だ。
入り口前に穴を掘る。また、掘った土を壁として使って入り口をふさいだ。
僕とガーディは森で薪を集め、それを入り口にばら撒いた。そして最後にカオリが炎の魔法で火をつけてもらった。
避難訓練の知識通りなら、煙の一酸化炭素でほとんどの亜人は死ぬと思う。洞窟内は空気も薄いはずだし。
まぁ、僕らと同じ人体の構造なら……だけど。もしかしたら、亜人が来るかもしれないから警戒はしておく。
しばらくすると、フェアリーからスキルポイントが獲得できたとの通知が来た。
入り口で見かけたのは、亜人の剣士二人と、弓使い、魔法使いだ。通知のポイントとしてもちょうど三体分の3ポイントが手に入った。
亜人という種のくくりではなく、扱う武器種によりカウントが違ったのは嬉しい誤算だ。
それと、亜人がスキルポイントにカウントされたということは、亜人は魔物に分類されるということになるんだろう。
一応、カオリにも確認すると同じくポイントはもらえたらしい。
薪運びや、炎の煙とかでも、戦闘に参加したとみなされるようでよかった。
というかポイントが3手に入ったと言うことは、この洞窟に計150人の亜人がいたということにもなる。
これって集団虐殺なんじゃ……と思ったけど、考えるのはやめておいた。人であろうとなかろうと、以前から虐殺しているのだから。
もし大義名分があるなら、彼らは僕らを襲う。戦争なのだと割り切るしかない。……と思う。
僕が悶々としていると、カオリが早く町に戻ろうと話しかけてきた。
カオリはゲームとして割り切っているのだろうし、ガーディはこの世界の倫理観だろうから気にはしていない様子だ。
僕もなるべく気にしないようにして町へ向かうことにした。
町につくとカオリ達には町の門前で待ってもらい、僕だけクエストの報酬をもらいにギルドへ向かった。
討伐証明部位として採取できたのは、門番の4人分だけ。一人分が金貨1枚だから、合計金貨4枚だけもらうことになった。
これで洞窟内に入れたら……と思ったところで、考えることはやめた。
まぁ、それを考えただけでも、僕はかなりの人でなしだ。
それよりもこの金額だけでは到底馬車すら変えない。
僕はフェアリーに、今度はお金が稼げる場所がないかたずねた。
「このルイの町から西に、セドという町があります。その近くにある森なら、この付近の魔物よりも売買単価が高く引き取られていますね。その分危険ではありますが」
今更ながら、他にも町があったんだと思った。っていうか、この町の名前もはじめて知った。
この世界では帰る家もないのだから、今いる町にとどまる必要はない。
スキルのポイントのことを考えても、他の町に移動したほうがいいだろう。
僕はギルドを出て香りたちと合流し、次の町セドに向かうことを提案してみた。
二人とも一応賛成はしたけど、カオリから別に一つ提案された。
「お金がないなら、あたし達で家なり作ればいいんじゃない? 他の場所に移ってもお金……馬車が買えるかわからないし。だったら自分達でさっさと家を作っちゃったほうが楽じゃない?」
このカオリの提案は無謀のようにも思える。けど、確かに一番手っ取り早い方法ではある。
今はすぐにでも泊まる場所がほしいためカオリの案に乗ることにした。
とりあえず場所は後で決めるとして、今は家を建てるため、木を伐採する斧などを買い揃えた。
そしてどうせなら次の町に移動しながら、家を建てる場所を探そうということになった。
目安としては、山間にある川の近場がいい。川さえあれば入浴や運搬用に使えるだろう。
僕らはルイの町で地図を買い、馬車を数日借りることにして、食材や毛布などを詰め込んだ。そうして準備が出来ると町を出た。
しばらく街道沿いに進むと、初めの町ルイと、次の町セドの中間にあたる山間に川を見つけることが出来た。
僕らはそこに家を建てることにした。
山に分け入ると早速作業開始だ。
ガーディには木を切ってもらい、モグには水道となる溝を掘ってもらう。僕とカオリは木を加工することにした。
ガーディが一本の木を切り終わるまで僕らは暇になると思ったけど、そんな時間はあまりなかった。
ガーディはあっという間に木を一本切り倒して、すぐにまた二本目に取り掛かった。
現状、木を移動させることが出来ないので、とりあえず僕らはそこで枝の切り払いと表皮を削ることにした。
が、それはかなりの重労働でなかなか先に進まない。とてもじゃないけど一日で終える作業じゃない。
仲間をもう少し集めてから家を作るべきだったかと後悔したとき、カオリが隣で風の魔法を使った。
風の魔法は他の魔法と同じように、蛇のみたいに対象を切りきざんで……木が見るも無残な形になっていた。
「あはは……。手を抜こうとするんじゃなかったわ」
カオリは気まずそうに僕を見た。
僕はというと、唖然としたけどこれは少し方向性を変えれば楽になるのでは、と思った。
風の魔法が操作できないか、カオリ付きの妖精と相談しながら練習してみて、とカオリに伝えた。
すると割とすぐに魔法を操作することができた。他の魔法にも応用できるそうで、戦闘にも使えそうだ。
ガーディが切り倒した新しい木を、カオリが魔法で枝払いなどをする。さらに木材を切り取ることも魔法で出来た。
さらに風の魔法で木材を持ち上げて、移動させることも出来た。魔法、便利すぎるでしょ。
僕は完全に要らない子になったので、木の加工はカオリに任せて、家の設計に手をつけることにした。
モグが作る溝は、上下水道用に二種類ある。
以前から家を建てようと考えてみると、水周りが面倒なので、先にお風呂場とトイレ、台所の配置を決めた。
まず上下水道は、常に水が流れているようにする。
そして下水は、溝の高さを調節することで、お風呂場からの水やトイレの水があふれないようにした。
また、そのまま川に排出すると下流に影響が出そうだ。
現実世界で下水処理施設の見学に行ったことがあったけど、何をしていたのかはっきりと思い出せない。
仕方ないので森の中に穴を掘り、そこに砂利などを敷き詰め、濾過しながら地下水として流せるようにすることにした。
下水を決めたら次は台所にとりかかった。台所で使う水は基本、魔法で水を作る予定だ。
生水は綺麗でも、そのまま使うと何が入っているかわからない。でもお風呂用には湯量が必要だし、飲むわけじゃないから熱湯消毒すれば使えると思う。ただそうなると、お湯をためておく場所が必要になる。
などなど考えるが、今は細工師がいない。
以前フェアリーから聞いた中に、魔石というものに加工を施すことによって、魔法を持続的に使用する技術があることを知った。
そしてそれには、細工師の技術が必要らしい。
しかもただの細工師ではなく、魔法も使えないといけないそうだ。
この世界でも、その特性を持った人は数える程しかいないので、とても貴重な人材という話だ。
僕らがその人を仲間にしようとしても、色よい返事はもらえないだろう。……という感じで、以前からどうすればいいのか頭を悩ませていた。
そして現在もまだ、その答えは見出せていない。
仲間にした魔物に覚えてもらおうとは、漠然と考えていたけど、モグもガーディも別の特性にしちゃったし。
もう少し仲間が増えるまでは、この件は保留にしないといけない。
それまでの代案としては、カオリに水を出してもらったり、炎の魔法を水の中に突っ込んで沸騰させてお湯にするつもりだ。
カオリには悪いけど、その都度やってもらうしかない。
水周りが終わったら、次は僕らの部屋を考える。
これは適当でいいと思うけど、一応カオリの要望も聞いておいた。
部屋の内装は自分で決めるけど、エアコンなどの場所などはこちらで決めてもいいということだった。
ただ、今はまだ各部屋にエアコンなどを設置するきはない。これにも細工師の力が必要だ。
それでも、細工師が仲間になった時のために、必要な場所は確保しておく。
最後に、大広間となる場所には魔石ではなく、木材を使った暖炉を置くつもりだ。
何かあったとき、魔石がなくても地力で何とかなる場所を一箇所は作っておきたい。
とはいえ、延焼しないように、周りを石の壁で覆おう必要がある。
自分で組み立てるということも出来るけど、不恰好になると思う。
カオリに土の魔法があれば、綺麗な釜戸が出来るかもと思って聞いてみた。
すると案の定あるらしい。さすが勇者スペック。
ある程度設計が出来あがり、皆を呼んで、そごがないか聞いてみた。
基本問題ないようだけど、モグの部屋は要らないそうだ。部屋なら自分で作るとガーディに翻訳してもらった。
確かにモグなら土の中にもぐれば、それが快適な空間になるのかも。
皆から問題ないと言われたら、今度は木材を型にはめ込んで接合する方法ができないか実験してみた。これなら釘とかいらないし。
ただこれはかなり難しくて、なかなか綺麗にはめ込むことが出来ない。失敗ばかりだ。細工師の力がここにも必要みたいだ。
とりあえず今建てるのは、仮の家ということである程度の失敗は目を瞑ることにした。
そしてようやく実際に家を建ててみた。とはいえ、家の建て方なんかわからないから大体適当だ。
家を建てる場所は切り株の上に建てて高床にし、水や虫の侵食を抑えるようにした。
ただ震災なので傾いた家に住み続けると、体に異常が出ることは現実世界で聴いたことがある。
なので床だけは、側面が丸いビンが転がらないか慎重に、なるべく水平になるよう心がけた。
床と壁が終わると、屋根となる木もそのまま魔法で持ち上げた。
というか、いつのまに木材をこんなに用意できたのかと不思議に思いガーディに聞いてみた。
そしたら途中からカオリが魔法で伐採していったみたいだ。 勇者チートすぎるでしょ。
っとガーディと話している間に、あっという間に家が出来上がってしまった。
あちこち隙間だらけだけど、家にしか見えない。いや、小屋かな?
馬車に積んでいた荷物を小屋の中に移して、何とか今日中には住めるまでの形になった。
辺りは既に夕暮れで、時間的にぎりぎり間に合った。
とはいえ、まだベットなど内装が未完成なので、昨日と同じく外で夕食のバーベキューをして食べてその日は終わった。
次の日、観光と内装の材料を買う目的で、セドの町を訪れた。
ルイの町よりも人が多く活気がある。ただ人が多いことによる弊害なのか、衛生面が良いかと言われるとそうでもない。
いたるところで下水のような匂いがして、とても僕らが住みたいと思える環境ではなかった。
食材や内装の資材などを買ったら馬車につめて家に戻った。
町から家に戻って、買ってきたものを見たとき改めて思った。
とてもじゃないけど、食材の買い込みなど、馬車がないとやってられない。
しかも食材を運んでいるときに冷蔵庫がないことも、いまさらながら気づいた。
つまり買いだめが出来ない。
そうなると、町から離れたこの家と、毎日行き来する必要が出てくる。
現実世界の生活が長かったから、少し買い置きもしてしまっていた。
一応近くに川があり、冷やせるとはいえ、さすがにそれだけだと厳しい。
土の中に隠すにしても虫に食べられる可能性もある。
家のこともあるけど、とにかく細工師が大至急必要だ。
とはいえ、今すぐにどうこうできるものでもない。
とりあえず今は、多めに買った食材を処理することにした。
すると思ってた以上に豪華な昼食になってしまった。でも皆の顔を見たら、幸せそうだったので良しとしよう。
昼食を終えると、すぐにフェアリーから近くの森に住む魔物の特徴は聞いた。
でも、どう考えても細工師に向いている魔物はいない。
僕が悩んでいるとフェアリーから、とりあえず今は町で細工師に頼んで作ってもらったほうがいいといわれた。
確かにそのほうが早い。ただ、お金がたくさんあるかというと、そんなわけがない。今あるのは銀476枚。多分作ってもらうなんて無理だ。
最終手段としては、僕が魔術士、細工師になることがあげられる。
ただ、現状も仲間が多いわけじゃあない。魔物に囲まれたら、とても僕らだけで対応することはできない。
出来れば魔物の群れが現れても僕らで対処できる程度にはなりたい。なので、仲間を増やしてから特性を変更するが今のところベストだろう。
その後、僕らは家の中にテーブルや椅子、ベットやクローゼットを作っていった。
人数が少ないので、夕方前には終わることが出来た。
そして夕食を食べながら皆に、今後は魔物狩りを重点的に行なうことを伝えた。
まぁ、伝えても、僕に任せるとだけ言って、カオリはぐーたらして、カオリ付きの妖精と話している。ガーディとモグは、僕に従うとだけ。
少しは皆にも考えてほしいと思ったけど、面倒になりそうだからやめておこう。
明日は森へ出かけると予定をみんなに伝え、寝ることにした。
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