6-2



 町を出て草原に来ると、僕は指定された草がないか探し回った。が、ほとんどが毒草でなかなか見つからない。

 僕としては、ナイフにつければ有効打になりそうだから、一応毒草も採取はしておいた。


 とはいえクエストクリアに必要な草が見つからないため、危険だけど森に入ることにした。

 探索と隠密のスキルを使いながら、魔物に襲われないよう注意を払えば大丈夫だと思う。




 森の中は魔物を恐れて採取に来る人が少ないのか、かなり多くの回復用の草が見つかった。

 僕はそれを納品用の他に、自分用にも詰んでおいた。


 錬金術師の作るポーションとは程遠いけど、ないよりはマシだろう。今後怪我した時のためにも、多めに採取しておくことにした。

 ある程度採取したら、次は毒消し用の草も納品用と自分用に採取していく。


 袋がいっぱいになった頃、そろそろ町へ戻ろうと街路に出た。

 そしてしばらく道なりに歩いていると、うずくまりながら町のほうをうかがう子供がいた。

 ただその子供は僕らとは明らかに風貌が変わっていた。


 犬歯が異常に発達しているようで、口からはみ出ていて牙のように見える。

 首は短く角ばった顔。そして腰には植物で作っただろう、腰巻をしていた。


 僕が少し観察していると相手は僕に気づいたのか森の中へ入ってしまった。

 討伐されると思われたのかもしれない。でもそれならなんで街路に出てきたんだろう?


 僕は遠くから彼の後をつけることにした。



「隠密。探索」



 僕は姿を隠しながらかつ、魔物に囲まれないように注意しながら森へ入った。

 そのときふと気づいたけど、彼は僕の探索で敵対……魔物のように赤く見えることはなかった。人間に危害を加える気はないらしい。


 さらに少し進むと彼は道をそれた。もしまっすぐ行けば魔物に鉢合わせるからだろう。

 僕には探索で先の様子がわかるからいいけど、彼はどうしてわかったんだろう?


 さらに先に進むと彼は赤い実を見つけてそれを採ろうとしていた。



「だめだ!」

「え……!!?」



 僕が阿差に声をかけると彼は直後に手を引いた。



「えっと、言葉がわかるかわからないけど、その実は毒だよ」



 森には木になる実以外は毒の実だと、受付のお姉さんからあらかじめ聞いていた。

 時々冒険者が手を出して下痢嘔吐、最悪死に至るといわれている実だそうだ。

 もし森に行くなら注意してと言われた、まさにそれだった。



「毒……」



 亜人だろう彼は僕の言葉がわかったらしい。僕の言葉に反応して赤い実を見た。

 僕はこの状況から彼が見た目とは違い、亜人ではないのかもしれないと思った。


 というのも、人間の僕の言葉を理解し、さらにはその言葉を素直に受けて、『僕』から視線をそらし赤い実の方を見た。

 得体の知れない僕が、いつ攻撃するかもわからないのに、僕から目をそらすことは命取りに他ならない。人と亜人は敵対関係にあるんだから。



「君は亜人じゃなくて人なの?」



 僕は困惑する彼に直接聞いてみた。言葉が通じるならそのほうが早い。



「……っ!? そ、その……」

「……」



 しばらく僕は何もせずに彼の言葉を待った。ただ警戒しながらだけど。



「わ、私……亜人……」



 僕の予想は見事に外れた。亜人なのか。



「と人間の……子」



 っと思ったらハーフだった。


 そこで僕は少し考えた。ハーフというのはどの世界でも一緒だと思う。肌の色だけで区別する世界もあるんだから、ここまで人間と容姿が変わっては差別もたくさんあっただろう。

 それは亜人側であっても。



「多分だけど……ハーフだから亜人と一緒にはいられない。人間とも一緒に入れないってこと?」

「……!? な、なんで……」



 彼はなぜ自分の境遇を知っているのかという目で僕を見ている。

 確かにこの異世界じゃ隣の町の出来事すらわからない。でも僕達は世界のいろんな出来事を知るところから、この世界にやってきたわけで。簡単に想像はつく。


 さらに彼の状況を考えるとしたら、武器も防具もないから魔物も狩れない。だから森にも入れない。

 魔物がほとんど出てこない街路にいるしかない。って感じかな?



「君は、人間を食べようとは思う?」

「え? た、食べろといわれれば食べれるけど……」

「言われなければ?」

「た、食べたくない。お、おいしくないし」

「なら君の大好物は?」

「に、肉。人間じゃなくて、四足の」

「なるほど」



 ここまで聞けばタブン彼は、食については人間と変わらないと思う。

 僕らの世界だって凶作だった時は、人間を食べてたっていうし。好んで食べるわけじゃないなら、問題にはならないだろう。


 それなら彼とは一緒に行動できる。それに彼が他の人間にも亜人にも差別されるなら、逆に僕らが裏切られる危険は減るから安全だと思う。

 彼の境遇を利用しているようで悪いけど、彼にとっても良い案になるんじゃないかな?



「君、僕らの仲間にならない?」

「な、仲間?」

「そう。もし一人ならどうかな? 共に生きていかないかって。」

「で、でも俺……亜人……」

「だからだよ。君が僕らを裏切らないでくれるなら僕らは君をずっと守っていける」

「う、裏切る?」

「まぁ、僕らの意に反することはしないってこと」

「……よくわからないけど、一緒にいてくれるなら仲間になる!」

「わかった! じゃあこれからよろしくね」

「よ、よろしく」

「あ、もう一度聞くけど、君は一人でいいんだよね? 親とか帰る場所はある?」

「い、いない。行くところなくて、あちこち森を移動してた」

「やっぱりか。じゃあちょっと待ってて。っと、君は街路に出ずに森から僕が来るのを見てから出てきてくれる? 他の人じゃタブン、君と亜人の区別がつかないから」



 僕はそういうと急いでギルドへ向かった。そしてクエスト報酬をもらい、いくつか酒と食べ物も買って宿屋へ向かった。



「カオリ! いる?」



 僕はカオリのいる部屋のドアをどんどんと叩いた。カオリは顔を出してくれたけど、相変わらず具合は悪そうだ。



「大きい音出さないでよー」

「ご、ごめん。でも、今度から僕だけ町の外で生活しようと思ったから」

「は??」



 カオリに亜人のことを話した。

 それと、今後も魔物の仲間を増やすなら、町の外で暮らすことが避けられないとは前から思っていた。 それに自分達専用の土地もほしい。現代のような快適な家に住みたい。

 僕は前から考えてたことをカオリに話した。



「それはいいけど、今すぐなの?」

「亜人は町に入れないでしょ」

「んー。準備が整うまで、変装したら? それでもいいんじゃない? 怪しまれるだろうけど」



 変装か。確かに顔かたちが少しだけ違うだけで、亜人といわれるくらい人間とあまり違いはない。

 僕は亜人の特徴を話して、あとはカオリのセンスに任せることにした。



「わかった。じゃあ、変装のことお願いして良い? 僕はこれからまた外に出かけるから。門番から見えないくらいの距離の、街路にいるから」

「オッケー。あたしが気付かないかもしれないから、アキから声かけてね」

「わかった」



 カオリとは一旦別れて僕は亜人の彼の元へ向かった。

 街路をキョロキョロと探しながら歩いていると、森から亜人の彼が姿を出してくれた。



「これ食べて」

「これは……」



 サンドイッチを差し出すと、亜人の彼は恐る恐るそれを口に入れた。するとおいしかったのかまたすぐにサンドイッチにがっついた。



「それを食べたら聞いてほしいんだけど、君のその風貌から人間の町には入れないと思う」

「……ん」

「だから今後のことを話すよ」



 亜人の彼がご飯を食べている間、僕はカオリに説明したことと同じことを彼にも話した。



「それと忘れてたけど、君には僕のスキルで契約してもらう。仲間の証としてね」

「わ、わかった。」



 何のことかさっぱりだろうけど、彼にも納得してもらった上でお酒を渡す。

 その後スキルを使った。……使ったんだけどスキルは関係ない印が小指にできた。これは親愛の証だ。



「え!? なんで!? ご主人のその指にあるの親愛の証じゃないですか!?」



 フェアリーは不思議といわんばかりに驚いた表情をしている。ただ確かに左の小指に二本目の線の印がある。



「えっと君……そういえば名前まだ聞いてなかったけど、名前なんていうの?」

「名前ない」

「そっか。じゃあ……ガーディってどう?」

「ガーティ。わかった」



 ガーディが返事をするとモグの時同様に光った。



「それで、僕の名前はアキって言うんだけど、仲間になる上での決まりごとを守ってほしい」



 決まりごととは、モグにも言ったように、自分を犠牲にしてまで助けることはしないこと。

 誰も助からないと退却するときは、各自で逃げること。

 もし仲間が全員死んでしまっても、その後も自分達で生きていけるようにすることだ。


 親愛の証になったのはよくわからないけど、とにかくこの決め事は必ず守ってもらうように注意しておいた。



「お、俺魔物だから、あ、アキをかばったほうがいいんじゃ?」

「魔物じゃないよ。君は亜人と人間のハーフでしょ」

「で、でも人間は皆俺のこと……」

「そう言われたってだけだよ。ちなみにこれから、特性って呼ばれるものを君に受けてもらうんだけど、本来は人間だけが授かる特殊な技能みたいなんだ。でも実際は区別なんかない。証拠にモグだって土岩師っていう特性を着けることができたから」

「で、でも……」

「僕らは仲間だから助け合うのは当然だよ。でもガーティ、君は奴隷でもペットでもない。どうしても駄目なときは自分の命を優先する。もちろん僕らだってそうする。だから全滅しそうなときは自分の命を最優先にしてほしい」

「……一応、わかった」



 モグとは違い、ガーティはしぶしぶ了承といった様子だ。

 動物とは違い、言葉の抑揚からでも感情がわかるからかもしれないけど。



「きゅーきゅー!」

「ん……。そうだな。あんたの言うとおりだ」

「え? い、今ガーディ……」

「な、なんだ?」

「もぐの言葉がわかるの?」

「う、うん」



 これはすごい逸材だ! 動物……いや、魔物の言葉がわかるとは思わなかった! これなら今後、誰がなんていってるのかもわかる!



「い、今モグはなんていったの!?」

「んと、守れるくらい強くなればいいじゃんって」



 も、モグがそんなこと思ってたなんて! イケメンすぎる! 見た目からじゃわからない。

 やっぱり話すことがわかるっていうのは大事なことなんだ。



「そっか。君には盾戦士になってもらおうって思ってたからちょうどよかった。でも無理だけはしないでね」

「が、がんばる」



 僕と話している間、ガーディの食べる手が止まっていたので、カオリが来るまでモグをなでることにした。

 しばらく待っていると、街路にカオリの姿が見えた。僕は立ち上がって手を振るとカオリもそれに気づいて寄ってきた。



「おまたせ! これが君の服だよ!」



 ガーディは要領を得ず、カオリに差し出されたものと僕を交互に見た。



「彼女は僕の仲間のカオリ。もちろん、これからは君の仲間でもあるよ。それとカオリ、この子はガーディ。よろしくね」

「ガーディ、これからよろしくね!」

「よ、よろしくカオリ」



 お互いの紹介が終わると、僕はガーディに服を着るように促す。ガーディはおどおどとマンとを羽織った。



「あれ? 服は?」

「服は体を洗ってからがいいんじゃない? せっかくだし」

「そっか。でもこの周辺に体を洗う場所なんてあるかな? 川とかあればいいけど」

「川なら、知ってる」



 ガーディは川のある場所を指さす。僕らはガーディに案内するようにお願いしてついていった。




 森へ入り、それから山道をひたすら突き進むと川に出てきた。

 ガーディにはここで水浴びをしてもらい、ぼくらは周りの警護を担当した。


 ガーディが着替え終わると今度はカオリが水浴びしたいといいだした。

 でもさすがに僕らもいるのにそれは無理があると伝えた。カオリはそれでも入りたいとごねりだした。

 仕方ないから打開案として、今日中にはこの川付近で野宿できるようにし、簡易の浴場みたいなものを作ることにした。


 カオリがこの案に賛成すると、モグに頼んで一部の川に土壁を作ってもらった。

 三方を岩と土壁にして、一方を布で隠せば簡易的な入浴場の完成だ。


 モグが作業している間にカオリには、天井と扉を隠せる布を買ってきてもらう。

 そして僕は変装したガーディと一緒に特性をもらってくることにした。


 神殿に着くと、また怪訝な顔をされながらも、割高な支払いで特性をつけてもらうことに成功した。

 そのあとはそそくさと神殿を出て、すぐにガーディを守る盾と鎧を買うことにした。


 ガーディは前衛で、防御だけに専念してくれれば問題ない。あとはカオリと僕が後ろからでも攻撃出来るだろう。


 ガーディの買い物を終えると、門の所でカオリと合流した。

 カオリは布の他に、既に食材も多めに買っていたようで、野宿の準備は万全だ。




 町を出るとまたガーディに案内してもらって、川までたどり着く。

 モグの掘ったあとに出来る土壁が、モグの居場所を教えてくれた。作業は既に終わったようだ。


 それを見たカオリはすぐに川に入ると言って聞かず、そのまま服を持って川へ入ってしまった。

 いくら夏とはいえ、川の温度は非常に低い。かぜでもひいたら大変だ。


 っていうか、周りの安全確認すら不十分でよく川になんか入る気になると思う。

 それだけお風呂がない生活は堪えているということだけど。


 僕はあたりを警戒しながら今晩の拠点を作る。っていっても座りやすい石とか、石を組んでカマドを作るとかだけど。

 そして僕が作業している間にガーディには薪拾いをお願いした。


 しばらくすると、ガーディもカオリも孵ってきた。カオリに火お越しを頼んで釜戸に火を入れる。



「あったかーい! っていうか、やっぱりお風呂って偉大だよね。アキも浴びてきたほうがいいよ! 魔法であっためておいたから!」

「ご飯作ってからね」

「っていうか、さっさとあたし達の拠点作っちゃおうよ。どうせガーディとか、この後も魔物増やすつもりなんでしょ?」

「ガーディは魔物じゃなくて、人と亜人のハーフだよ。人だよ」

「そ、そうなんだ。ごめん」



 カオリは普段ほとんど謝らない人だけど、今回ばかりはさすがにガーディに謝った。

 でもガーディは特に気にしていないという。たぶん今までそういう経験をしてきたんだろう。



「ま、まぁそれより拠点だよ! さっきは町にいたほうがいいって思ったけどさ! やっぱりあたし達の家をさっさと作っちゃおう! スキルとかもだいじだけど、家のほうがもっと大事だよ!」

「まぁね。それに僕のほうも神殿でちょっと良くない話しが聞こえたから、早めに取り掛かろうとは思う」

「良くない話?」

「聖国って言うところで、勇者が生まれたって神様からのお告げがあったんだって」

「え……」

「うん。ばれたらやばい。しかも僕らの特徴っていうか、男と女の若い二人組みだって話しまであるらしいよ。」

「ああ……。いや、それはタブン問題にすらならないと思うけど」

「なんで? 僕らだって多分何かあれば聞かれると思うよ?」

「うん。多分聞かれない。絶対」

「な、なんでそんな自身があるの」

「そんなことよりも拠点よ! あたし早く拠点がほしい! 今日だってここに泊まることになると思うけど、ベットだってほしいし!」

「わかってるって」



 僕は空き時間に考えていた設計をカオリに話した。ていっても、ただ山の中に作るってことと、川がないと作れないってことだけど。

 あとは、家の周りには罠をたくさん敷き詰めようと思っている。


 それ以外だと、現実世界の家を基準として、エアコン、ベット、冷蔵庫などは必須だろう。



「そんなこと考えてるなら、さっさと話してくれればいいのに。スキルの獲得に夢中で何もしないのかと思ってたよ」

「スキルの獲得は必須でしょ。そうしないと、魔物も狩れないから、お金も足りないし。でも僕はもう上級の職にもなれたし、そろそろ実行に移してもいいかなって」

「やろうやろう! で? あたしは何をやればいいの?」

「お金稼ぎ。まぁ、とりあえずは亜人討伐のクエストが終わってからね。スキルの獲得も大事だから」

「おっけ! さっさと終わらせちゃおう!」

「今日はもう日が暮れてるから無理だよ」



 僕は皆にご飯を食べさせたらベットどうしようかと悩む。

 結局地べたに寝ることになったけど、それがありえないくらいに寒いし体にくる。


 結局ちゃんと寝ることは出来ずに朝が明けてしまった。

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