6-1:仲間



 モグを仲間にした次の日、カオリに紹介しようと宿の食事処でカオリが来るのを待った。

 しばらくしてカオリが来たけど、なにやら具合が悪そうだ。



「ごめん。二日酔いってやつみたい」

「もしかしてあの量を一人で飲んだの?」

「うんー。あんまりおいしいとは思わなかったんだけどねー」

「まったく説得力ないよ」



 昨日確か、片手に10本くらいの果実酒を持ってたような。



「どうせなら氷の魔法が使えるようになるまで待てば良かったんじゃない? 冷えたほうがおいしそうだと思うけど」

「今度はそうする! ……ぃてて」



 二日酔いってどんなものなのかわからないけど、本当に辛そうだ。



「今日はモグとの連携がどんなものか確認してるよ。あと、次の狩場に必要なものの準備とか」

「モグ……はこの子だね。かわいい」



 カオリはモグの頭を指の腹でなでた。モグもおとなしく受け入れてくれている。仲間だとわかっているみたいだ。っというか、僕の言葉がわかるんだっけ?



「それで? 次の狩場はどこにするつもりかもう決めたの?」

「うん。亜人退治がいいかなって」

「あぁ……ゴブリンね」

「亜人ってゴブリンなの?」

「違うけど、皆そういってた。序盤に出てくる人型の魔物だから」

「なるほど。知性があるとかわかる?」

「どうだろ? あたしそこまで行けてないんだよね。特性盗賊だったし」

「僕も盗賊なんだけど?」

「ほんと良くやってるよ。こんな可愛いのもゲットしてさ。うらやましい。あたしなんか、気持ち悪いスキルしか使えないって言うのに」



 なんかカオリのテンションがいつもよりダイブ低めだ。愚痴のようにも聞こえる。もしかしてまだ酔ってるのかな?



「アキは良いよね。やりたいことやってさぁ」

「カオリもやりたいこと見つければ良いじゃん。とりあえず僕は行くから」

「あいあい」



 カオリに少量のお金を渡しておく。そして実験をするため町の外へ出た。




「じゃあ穴を掘ってみて。出来るだけ早く」

「きゅー!」



 モグを仲間にした理由は、この落とし穴を作る、ということがほとんどの理由だ。


 落とし穴なんて子供のいたずら程度にしか思えないけど、実際にはまればただ事じゃない。

 特に、自分の手が地表に届かない場合においては、そこから追い討ちをかければかなりの戦力になる。こちらから攻撃し放題だ。



「きゅー!」



 っと考え事をしていたらモグは落とし穴を完成させていた。

 どのくらいの大きさとは言わなかったから小さめだけど、それでも僕の身長と同じくらい……160cmくらいまで掘られていた。


 というか、僕を基準にしたみたいだ。広さも僕を基準にしたみたい。

 そのくらいの大きさをこの数秒で出来たということは、かなり早く落とし穴を完成させることが出来る。でも、出来ればもっと早く出来ないものだろうか?



「フェアリー、モグってスキルを覚えたりしないの?」

「さぁ?」



 さぁ……って。



「魔物使いの人はあくまで意思疎通などをするだけで、育成をすることもないんですよ。その魔物の持つ特性というか、特徴を使うだけで」

「なら、特性を変更したら魔物はどうなるの?」

「さぁ?」



 さぁ……って。まぁ、前例がないのなら仕方ない。

 僕の予想だと、魔物の特徴と、特性は別個のものだと思ってる。モグが土を掘ることをやめたら食べ物を見つけることもできないわけだし。

 ということは、モグは今特性を何も持っていないと考えるのが妥当だろう。


 それならモグに特性をつけることが出来れば、さらに早く穴をほれるかもしれない。

 まぁ穴は掘れても、掘った後の土をどうするかは考え物だけど。これも使い方次第だとは思う。どうしようか……。


 土を動かすスキルでもあればいいんだけど、今のところは無理だ。これを壁として考えるくらいしか思い浮かばない。

 て言っても、非常にもろい壁だ。掘り返した土だから空気も入って簡単に崩せる。

 壁というよりは、相手から見えないようにするためだけのカーテンのようなものかもしれない。隠密と相性がよさそうだ。


 とりあえず使い道は置いておいて、先に特性が取れないか教会へ行ってみることにした。




 フェアリーに教会に案内してもらうと、早速魔物に特性がつけれないか聞いてみた。と言っても、どうなるかわからないという返事だった。

 神官には特性がつかなくても、少し多めにお金を払うので、やってみてもらえないか頼んでみると、やってもらえることになった。


 とはいえ歓迎はされない。神官は、僕らを馬鹿にしたように、適当に相手をした。むかつきはしたけど、それでも僕は確かめたかった。


 しばらく儀式を受け、神官の祝詞が終り、特性を変更しますか? と聞かれる。

 僕はモグに、声を出して土岩師の特性をもらうように、と話しかけた。

 フェアリーが言うには、僕の希望に近いのがその特性らしい。



「きゅーきゅー!」

「え?」



 神官の言葉に反応したように、もぐは鳴き声をあげた。するとモグに一筋の光が届いた。



「これは……まさか……」



 僕も驚いたけど、神官はもっと驚いた様子だ。どうやら特性を着けることに成功したらしい。

 つまり、モグは土岩師の特性を持ったということになる。土岩師の特性は、土や石だけではなく岩すらも掘ることが出来る。

 しかも特性を覚えたということは、スキルも覚えることが出来るだろう。


 神殿を出てからフェアリーに、土岩師のスキルを聞き出した。



「土岩師は、生産特性とも呼ばれていて街中で有効なパッシブスキルを覚えます!」



 名前からしたら、土魔法とか土に関係したスキルを覚えるかと思ったら違ったらしい。

 岩もほれる特性は、本来なら彫刻とかの意味なのかもしれない。確かに岩を掘ることはできるけど。



「土岩師はご主人がほしがっていた、掘るスピードが上がります! さらに鉱物の種類もわかるようになります! この特性を持つ人は基本的に鉱山で仕事をしますね!」



 その特性なら確かに鉱山だとうらやましいと思う。山を掘っていたら宝石が見つかったとかになれば一躍お金持ち。一攫千金だ。

 ただ、僕がほしかったのは少し違う。



「土岩師に、土を収納っていうかまとめて移動できるスキルってない?」

「ないですね!」



 フェアリーにはっきりと言われた。



「じゃあ、一気に運びたかったら風魔法かなんかで浮かせるしかないのか」

「その方法もいいかもしれませんね!」

「……も? 他にも方法があるの?」

「ご主人の言う、収納という魔法もありますよ!」

「あるの!?」



 これは逆におどろいた。今まで魔物を運ぶにも全部馬車で運んでいたから、簡単に運べる便利なものはないんだと思っていた。



「でもお勧めはしません!」

「な、なんで?」

「先ほどの生産特性を覚えてますか? 土岩師とかです」

「もちろん覚えてるよ?」

「生産特性でスキルをあげるときも、魔物を狩る必要があるんです」

「あぁ……そっか」



 戦闘スキルがない……っていうのは、魔物を狩る上で一番欠点になる。カオリと僕の差は歴然だったし。

 でも抜け道はある。僕が倒せば問題はない。



「傭兵を雇うのにもお金が掛かっちゃいますし。それに一番の問題点が、複数の生産特性を網羅しないといけません」

「複数って言うと?」

「土岩師、木工師、細工師、彫金師、裁縫師、料理師、薬師、錬金術師ですね。これらを全てスキルを修得した上で上級特性の職人になることが出来ます」

「うわぁ……それなら普通に戦闘の特性取ったほうがいいね。魔物を狩る数も他の特性とタブン同じだよね?」

「もちろんです」

「それなら、確かに僕らが生産特性と呼ばれるのを一から取り直すのは反対だね。だけど、生産特性に特化した仲間を増やしたら問題ない。特にモグならその可能性もある」



 モグは土岩師で、落とし穴さえ作ってもらえればあとは魔物の狩りほうだいが出来ると思う。

 あとは時間さえかければモグは収納のスキルを覚えることが出来るだろう。……その時間が問題ではあるけど。


 とりあえずこの話は土岩師の上限を終わってからにしよう。

 次は亜人対策だ。


 フェアリーの話しだと、亜人は洞窟や人が住んでいた廃屋にコロニーを築くらしい。

 そこから偵察として人が通る街道に出たりするため、コロニーを見つけた場合は速やかな対処が求められる。


 とはいえ、簡単な話じゃあない。

 コロニーを築くということは、仲間とも連携してくるだろうし、以前から予想している毒攻撃も使ってくる可能性がある。


 まぁ今回のクエストの亜人は、洞窟を住処とするから、洞窟前に穴を掘っておけば落ちてくれる気がする。そしたら連携も何もないだろう。

 あとはどうやって洞窟から外へ追い出すかだ。


 しばらく考え、洞窟前で焚き火をして煙を洞窟の中へ入れて亜人に吸わせる案にした。

 学校の火災訓練から、煙を吸って死ぬ人のほうが多いという話は聞いたことがある。もし人間と構造が同じなら、これだけでも決め手になると思う。


 ただこの場合、死んだかどうかの確認が難しい。中に入って確認しようにも、煙が洞窟の中から外に出ないことには僕らも入ることが出来ない。逆に僕らが死ぬ可能性がある。

 それに煙で死んでくれないと、多数を一度に相手しないといけなくなる。落とし穴にどれだけはまるかが、勝敗の分かれ目になるだろう。


 っと、いくら考えても落とし穴を作って迎撃するという前提を崩そうとは思っていない。

 現状できることでこれ以上は考えられない。



「あと出来ることって言ったら、道具の準備かな」



 僕はロープと油を買い足しておいた。それとクエストの受注も。

 一週間以内であれば報告はいつでもいいらしいから問題はないと思う。受注の際、亜人がいる場所も聞くことができた。


 ただそのとき一つ懸念事項として、毒武器を使用する可能性があると言われた。

 そして対処法として、劣化回復ポーションと、毒消しポーションのクエストを受けることを薦められた。


 何でも初心者は怪我とか毒になる可能性が高いから、その材料となる草を集めて、覚えてもらうためのクエストだそうだ。

 その草と水とを調合して、劣化の回復ポーション、傷薬の代わりに使えるから、報酬は少ないけど駆け出しには必須なんだそう。


 僕はこの過程を飛び越して魔物を狩り出してたから危なかった。下手したら毒で死ぬことになってたかも。


 草の見分けかたを知らないので、受付のお姉さんに少し教わることにした。

 クエスト達成に必要となる草は、回復ポーション用のオトギ草。毒消し用には、ドクミ草だそうだ。


 それと、これに似た毒草が数種類あると言われた。絵を見せてもらったけど、僕じゃ見分けがつかない。

 目利きのポイントを教えてもらったので、それで判断することにした。


 最後に受付のお姉さんの話だと、お勧めは近くの草原だそうだ。

 森にもあるそうだけど、草原のほうが出現する魔物もガルだけなので襲われる心配もなく安全らしい。

 僕は言われたとおり草原に行ってみることにした。

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