5-3



 森に着くとすぐに探索スキルを使って魔物の位置を探った。

 今回のターゲットは前もってフェアリーから聞いていたレアなモグラだ。モグラが仲間になってくれれば地面の罠はかなり楽になると思う。絶対に仲間にしたい。


 と、意気込んでいるとき魔物の集団に出会った。5、6体がなにやら固まっている。昨日から森の中をさまよっていたけど、今回のははじめてのケースだ。

 僕一人だと荷が重いだろう。僕は気づかれないように、そっと移動を開始する。



「きゅー!」



 ……なんの鳴き声だろ? かわいらしい鳴き声のほうを見てみると、先ほど回避しようとしていた魔物の塊の中にモグラがいる。



「ふぇ、フェアリー、あれってもしかして」

「レアな臆病モグラです! 珍しいですね!」



 まさかのターゲットが、ガル亜種に囲まれている。

 本当ならすぐにでも助けに行って、仲間にしたいところだけど、ガル亜種の数が多すぎる。カオリがいてくれたらよかったんだけど、こういうときに限っていない。まぁ、夜中に森に来る、僕の方がおかしいんだけど。


 僕がどうしようか悩んでいると、モグラはガル亜種に噛み付かれようとしていた。

 僕はその阿差のタイミングで、ナイフを投げていた。ガル亜種に当たりはしたものの、死にはしていない。ガル亜種六匹の視線がこちらに向いた。



「ごご、ご主人!? 何しているんですか!?」

「ほ、本当、何しているんだろ」



 しかも、ナイフを投げてしまったから既に丸腰だ。

 モグラは助かったけど、これじゃあどうしようもない。と思っているとガル亜種の一匹がこちらに向かってきた。



「やばっ!?」



 手持ちにあるのはロープと酒だけだ。

 まずはロープアクションのスキルで木の上に逃げた。そしてどうしようか考えていると、手に持っていたロープで、どうにか出来そうな気がしてきた。


 ロープの端を結んで輪を作る。そして後はガル亜種の首にはめて、くくればいい。

 ちょうどガル亜種も、僕が木の上にいるから見上げるように頭を上に向けてくれている。


 僕は輪をガル亜種の首に投げた。輪はそのままスルリと、思った通りに首に収まった。

 あとはこのまま木を飛び降りれば、簡単にくくれると思うんだけど、下は六匹のガル亜種で降りれない。


 代案として、木を飛び移りながら、窒息で死ぬまで引きずることにした。

 想像すると可愛そうだけど、そもそも今の状況でそんなこと言ってられない。僕はもう一つの木にロープを絡めて移動しようとした。


 が、重くて動けない。僕にガル亜種を引きずる力なんてなかった。



「ご、ご主人、何してるんですか?」



 フェアリーにすら疑問に思われてしまった。



「あ、遊んでるわけじゃないから」



 僕は気を取り直してどうしようか考えた。

 ガルを狩ったように腕をかませて後ろから……と考えたけど、さすがに数が多いから却下だ。でも手持ちはあと酒しかない。


 僕はハッとしてその酒を、上からガル亜種たちにまぶした。ビンの中が半分くらいになるだけでいい。

 あとはロープに酒を垂らして、ガル亜種まで届くのを確認する。



「着火」



 ロープに火花を起こすと、酒を伝って燃えていった。そしてそれがガル亜種にまで到達した。


 ロープを巻かれたガル亜種が暴れるほど、地面に飛び散っていた酒に引火し、さらには他のガル亜種にまで飛び火する。

 しばらく待っていると、2匹は火から免れ散開して逃げていった。残りの4匹は火達磨になってその場に倒れた。



「よ、よかったぁ」

「ご主人さすがです!」



 さっきは僕のことを白い目で見ていたフェアリーに褒められた。名誉は挽回できたらしい。とにかく、これで一安心だ。

 僕は木から下りて、先ほどガル亜種に囲まれていたモグラを見に行く。するとそこにはモグラはいなかった。



「残念。仲間にはできなかったか」

「逃げちゃったみたいですね」



 体を張って助けたから仲間になってくれないかな、と期待していたけど仕方ない。

 僕はまた探索スキルを使ってあたりを見回す。


 するとすぐ近くに小さい魔物がいるように見える。ただ敵対心がなく、赤くは見えない。



「きゅー! きゅきゅ!!」

「わわっ!? え!?」



 魔物の気配に気づくと、それはすぐ足元に駆け寄ってきた。


 逃げたと思っていた臆病モグラだ。まさか物陰で待っていてくれたのかな?

 僕の足にモグラがひしっと抱きつくと、僕の左の小指が光って、印が浮かび上がった。



「な、なんだこれ?」

「これは親愛の証ですね! とっても珍しいものです! モグラがご主人を仲間だと認めたことになります!」



 これは……スキルを使うまでもなく仲間になるとは思わなかった。


 僕は必死に足にしがみついているもぐらを、抱きかかえてなでると、胸元できゅーきゅーなきながら体をゆだねてくれた。

 モグラは僕にすごくなついてくれている。



「それじゃ名前は……モグにしよう。安直で悪いけど」

「きゅーきゅ!」



 モグの名前を呼ぶとすぐ反応してくれた。っと思ったら今度はモグが光った。



「な、なんだ!?」

「魔物に名づけを行なったので、正式にご主人の魔物となりました!」

「ど、どういうこと?」

「本来は上級特性の、魔物使いと呼ばれる特性が行なえるスキルなんですが、今回は特例で名づけを行なえたようです! 名づけは魔物と意思共有するだけのスキルなんですが、ご主人の場合は親愛の証もあるので、仲間よりも深い絆で結ばれた魔物となります! そうなると、助けてくれるのはもちろん! 自分よりも大事なものとして助けてくれますよ!」

「自分よりも……ってまさか」

「はい! 危なくなったら身代わりにすらなってくれます!」

「それはやめてほしいんだけど!?」



 こんな可愛いのに身代わりとか。生き残ったとしても寝覚めが悪すぎる。



「そこはちゃんと魔物とルールを話しておいたほうがいいですよ! ただ、そのくらい忠実にご主人のことを思っているということなので」

「わ、わかったよ。今夜にでも話してみる。名づけで意思の共有はできてるんだよね?」

「はい! ご主人が話しかけたら理解して行動してくれます! 魔物からご主人に伝わるかは……ご主人しだいですけど」

「含みを持たせないでよ。多分わかるから」



 胸元でずっとなでていたせいか、モグは気持ちよさそうに目を瞑っている。この様子は……多分寝てる。



「可愛すぎる」



 僕は起こさないように草を集めて、そっとその上に置いた。そして常時探索スキルで周りを確認しながらガル亜種を回収した。

 しばらくしてモグが目覚めると、頭に載せて町へ戻ることにした。




「そういえば上級特性に魔物使いってあったんだね。盗賊じゃなくてそっちに最初からすればよかった」

「魔物使いは奴隷商人の上級特性なので、教会からは変更できません。もし魔物使いになりたいのであれば、奴隷商人に弟子入りするしかないんですよ」

「それなら盗賊のままでよかったのかも」

「ご主人は変わってますからね! 盗賊のままでいいって言う人は魔物と戦うことなんか普通しませんし!」

「わかってるよ。まぁ、それも特例なんじゃない? モグを仲間にできたのだって僕達プレイやーの恩恵なんでしょ? フェアリーみたいに」

「いいえ? 私達の存在やスキルの恩恵と、魔物を仲間にすることは関係ないですね 過去にも魔物を仲間にする特例としては、卵を孵化させて親になる。という方法もありますから」

「そういえばそれ聞いた気がする。なんでもスキルだけってわけじゃないんだっけ」



 前にこの話を聞いたときは、違うこと考えてたから思いつかなかった。

 今考えてみたら、かなり有用な話だ。魔物の卵を孵化させることができれば簡単に魔物を仲間にできる。



「ただ、魔物の卵は普通手に入らないですけどね。親は子供を守るために凶暴になりますし。その状態の魔物を相手にしようなんて考える人もいませんし」



 ここにいるけど。

 さすがに親から奪うなんてことはしないけど、討伐対象が親の場合でかつ、もし卵があったなら手に入れよう。

 僕が育ての親で、仇にもなる複雑な生まれ方になるけど。


 あるいは冒険者に依頼してみるのもどうだろうか。卵から孵っても生きていけるかはわからないし。

 ただ、この方法を明るみに出してしまうと乱獲される恐れもある。

 魔物が生態系に与える影響があるのかはわからないけど、もし魔物を簡単に使役できるとわかれば人間ならやりかねない。僕がその一人になりそうだし。



「この話を聞いたら狙っていきたいとは思うけどね」

「え?」

「孵化した魔物が大きくなればまた討伐しなきゃならないなら、子供のうちから仲間にしておいたほうが僕らにとっても、子供にとってもマシなんじゃないかなぁって思っただけ」

「ご主人……変わってますね。 前から思ってましたけど」

「前からって……」



 フェアリーが素直なのは変わらないけど、遠慮がなくなってきてる気がするのは気のせいかな? それだけ親しく慣れたともいえるけど。

 まぁ、何はともあれ、今はモグを仲間に出来たことがかなり嬉しい。可愛いし。今後の戦い方も変わっていくだろう。




 町へ戻ると僕はすぐにガル亜種の換金に向かった。少しは生活費の足しになった。

 そういえばすっかり忘れてたけど、カオリの機嫌はもどっただろうか? 今は真夜中だから、モグのことは明日報告することにした。

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