5-2



「フェアリー、上級特性をとりたいんだけど」

「わかりました! どの上級特性にしますか?」



 フェアリーは3つの特性を上げた。

 一つ目は盗賊頭。盗賊の特性をさらに強化して、手下を持つというもの。それ以外で特徴はない。

 二つ目は偵察者。隠れたりして諜報員のようなスキルを覚えたり、罠の解除とか特殊な攻撃スキルなど修得できる。

 三つ目は海賊。船の操作から風の読み方など水上でのスキルを修得できる。また、探索スキルが強化されて範囲が広がり、他の船がどの位置にあるかもわかるようになる。


 僕の場合は既に盗賊頭に決めている。仲間を集めるにはこれしかない。

 他の特性もほしければ、仲間に覚えてもらえば良いし。全部僕がやる必要はない。



「盗賊頭で」

「では、スキルを獲得するときと同じように、額を私に近づけてください!」



 僕はフェアリーにおでこを差し出す。フェアリーもおでこを差し出してスキルの受け渡し、もとい特性の昇級を行なう。



「終りです! これでご主人の特性は盗賊頭です! この特性の特徴は徒党を組んで人を襲うことですね! 個人というよりは、大きなお店や貴族を狙ってます!」

「いや、それはしないから」

「ではもう一つのほうはどうですか? 徒弟をたくさん作ってお金をもらいます! この方法だと危険も少ないですよ!」

「確かに。でもそれもしないから。ただ信頼できる仲間を作りたいからこの特性にしたんだ」



 あと少しで義兄弟の杯のスキルを覚えることが出来る。これで仲間を増やしてようやく本番だ。……仲間に出来るかはまだわからないけど。

 なんにせよ、まずはスキルポイントがあと1つ必要だ。難易度的に考えて、次の目標は森にいるガルの亜種にした。


 通常のガルとは違って獲物を見つけたら積極的に襲ってくるタイプだ。後ろからの奇襲もありえるため、本来なら避けたい相手。他に楽な魔物がいればよかったんだけど、いないからしょうがない。

 まぁ僕が取ったスキル探索で奇襲は看破できると思う。




 次の日、先日の振り替え休日を期待していたカオリを誘って、僕らは早速森に向かいスキルを使った。

 カオリは森に到着するまで、ずっと休みたいと連呼していたけど、聞き流すことにした。




「探索」



 現状周りに魔物はいないようだ。カオリに合図を出してゆっくりと森を散策する。

 すると、木々を透かして赤く動く影が見えた。



「カオリ、右側に二匹いる」

「わかった」



 探索のスキルはあくまで、周囲に魔物、敵対する相手がいる、ということまでしかわからない。なので、探索で見つけた魔物がガル亜種ではない場合もありうる。けど放置はできない。

 万一何かから逃げているときに、その魔物と鉢合わせてしまうと面倒なことになる。目的の魔物ではなくとも、積極的に狩って行くべきだ。

 僕らは木の陰から覗き魔物の様子を伺った。今回の敵はガル亜種二匹だった。運がいい。



「隠密」



 僕はゆっくりガル亜種の背後から近づき、ガル亜種の首を掻っ切った。

 するともう一匹のガルが僕に気づいて注意を向けるが、そこをカオリが横から攻撃して楽に討伐できた。



「隠密って一撃必殺みないな効果もあるよね。あたしのスキルより強い感じするよ」



 言われてみて気づいたけど、その通りだと思う。

 これがゲームだったら、攻撃力なんて皆無な僕じゃ、一撃で倒すなんてことはできないだろう。でも現実世界なら話は別だ。どんな生物であろうと首さえ切ってしまえば死に至る。最悪でも神経は損傷するだろうから、体は動かなくなるだろう。ただ、それは僕達も例外じゃないことになる。


 まぁ、魔物の生体構造がどこまで一緒なのかはわからない。それにゴーレムとか石で出来たやつは一撃じゃ死なないと思う。この世界にいるかどうか知らないけど。



「カオリも気をつけてね」

「あたしを攻撃する気!? 受けてたつ!」

「なんでさ。当たり所悪かったら回復できないよって話」

「ん? そうなの?」

「そうなの。きっとね」



 その後も素材を回収しながら順調に狩り進める。

 ただ挟み撃ちされないよう、ゆっくり行動していたから時間は掛かってしまった。終日掛かってようやく50匹を討伐できた。




「スキルを獲得できますよ!」



 宿屋の部屋に戻るとフェアリーから声がかかった。とうとうココまで来た。

 僕はフェアリーにお願いしてスキルを獲得する。



「これで盗賊頭唯一のスキル、兄弟の杯を使うことができます! このスキルは特殊で、使う時はお酒が必要なので注意が必要ですよ!」

「なるほど」



 僕は疲れも忘れて早速お酒を買いに行った。出来ればいいお酒を買いたいけどお金がない。っていうか、僕はお酒を飲んでいいんだろうか。



「フェアリー、酒じゃないとだめ? 果物のジュースとか」

「んー? わかんないです。皆お酒で普通やりますけど。お酒飲めないんですか?」

「年齢的にいいのかなって」

「年齢? この国じゃご主人より幼い子供でも、普通にお酒飲んでますよ?」

「ああ、そっか」



 あくまで現実世界じゃそういう法律なだけだった。というか現実世界でも、全ての国で同じ法律なわけでもない。ならココは、異世界に習っていいお酒を……。



「これがいいよ! 果実酒!」



 といって割り込んできたのはカオリだ。なんでココにいるんだと思っている間に酒を持ってきた。大量に。



「カオリ……その量どうするの?」

「もちろん飲むに決まってるでしょ。せっかく久しぶりにお金が入ったんだし。お金は一気に使わないと!」



 だめだ。カオリに財布を持たせたらすぐになくなる。いや、今は僕が財布もってたけど、大量に買おうとしている。

 カオリと一緒に買い物したらだめなことはわかった。



「っていうか何も、ここで買わなくてもいいんじゃない? 酒場とかで飲めばいいじゃん」

「そうなんだけど、アキそういうとこ一緒に行ってくれないでしょ?」

「それはまぁ……」

「それにあたし女だから、何かあったら怖いでしょ?」

「相手の身包みはがしたり、細切れにしたりとか?」

「なんで相手の心配してんの」



 冗談なのに。カオリはふてくされて、カオリ自身が持てる分のたくさんの果実酒をカウンターに置いて、僕に買わせた。



「そ、そんなに一人で飲むの? 体壊さない?」



 カオリは無言で酒瓶に口をつけた。そして一瓶だけ僕に酒を突き出した。僕にも飲めということか?



「おいしぃ! っていうわけで、あたし明日は飲む日にするからよろしくね!」



 違ったらしい。カオリはそう言うと、いつ財布からとったのか、手には銀貨数枚が握られていた。宿に向かったところを見ると宿代はあるようだ。タブンご飯代も。



「いつの間に……」

「ご主人、特性が盗賊頭なのに盗まれたの、気づかなかったんです?」

「っていうか普通の人ならそもそも盗賊の頭からは盗もうとしないでしょ」



 フェアリーは気づいてたみたいだ。止めろよって心の中で叫んだら、夜にも関わらず、森へ仲間を探しに向かった。

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