5-1:上級特性
蛙を倒した次の日、朝食を食べ終えると早速ガルを相手に、スキルの検証に行くことにした。
本当なら今日は、休みにしようという話をしていた。
でも僕は早く新しいスキルを使ってみたくて、一人で狩りに行こうと思っていた。
そんなことを考えていた時、カオリが僕に休日どうするのか聞いてきたのでそう返した。
するとカオリもスキルの使い勝手を確認したいらしく、結局一緒に狩りに行くことになった。
いつものカオリなら、宿屋にこもって服を作ると言うと思っていたから予想外だ。
ただ今回、カオリの新しい服を着なくて済むので、僕としては嬉しい限りだ。
というわけで、早速草原に来ると、ガルを相手に捕獲のスキル検証する。
捕獲のスキルは多分動けなくするだけの、状態異常の区分に入るんじゃないかと思っている。
脅迫で状態異常を誘発させやすくさせてからの捕獲。これが二つのスキルの使い方だと思っている。
なので僕は、脅迫から捕獲を連続で使ってみた。するとやはり想像通りの結果になった。
「へぇ。盗賊のスキルって魔物にも効果あるんだ」
「今までも隠密とか使ってたでしょ」
「そうなんだけど。他のスキルも魔物に効果があるなんて思ってなかったから。ゲームでも、捕獲とか脅迫って、イベント専用スキル扱いで使う人いなかったし」
「試したりはしたの?」
「んー……あたしはしてない。けど、説明文にも人を捕獲って書いてあったし、使う人いないんじゃないかな」
「異世界に来てからもそれなら一緒だよ。フェアリーにも魔物に使う人初めて見たって言われたしね」
「あれだね。ゲームと説明が異なる時は、ゲームのほうが正しいってやつ。でも説明文無視するほうも大概な気もするけどね」
そういわれると少しムッとするけど反論できない。人を信頼していないというか、僕がかなり特殊な例なんだろう。
「カオリだって、この世界で盗賊の特性とってたら、一度は魔物に使ってみるんじゃない?」
「いや、普通すぐに特性変更するでしょ」
そういえばフェアリーから特性変更するように促されたっけ。っとなると、やっぱり僕が普通じゃないのかも?
僕らがしばらく話をしていると、捕獲の効果がなくなったのか、ガルは逃げていった。時間だと大体20秒程度だろうか。結構長い。
ロープを巻きつければ、ガルの場合だと外されるまでになるだろう。
とはいえ、噛み付かないという保証はない。だからってその都度、脅迫してたら面倒でしょうがない。
現状で仲間とすることは無理だろう。
「次はカオリの番だよ」
「あれ? もういいの?」
「うん。僕のスキルはこれだけだったから」
「そっか」
カオリは軽く聞き流すように返事をすると武器を構える。
「いままで強敵に合わなかったからほとんどスキルを使ってこなかったけど、どうせだから今持ってるスキル全部見せるね」
カオリが今回……というか、前回も僕と一緒に来た意図がわかった。カオリのスキルを僕が知って、作戦に落とし込んでほしいということだろう。
確かに何が出来るのかわからないから、カオリを作戦に加えようとは思っていなかった。罠を張る際に、少し手伝ってもらえばいいかな程度な気がする。
ただそれだと今後、強い敵が出てきた時対応が難しくなるかもしれない。そのために今、スキルを見せたんだろう。
そんなことを考えている間に、カオリはガルの元に駆け寄ってスキルを放った。
「強撃!」
剣を頭上から勢いよく振りぬく。ガルは頭から一刀両断された。まぁ、頭からだから当然……。
「ぐ、グロイ……」
「ご、ごめん!? あたしもこうなるとは思ってたけど、思ってなかった!? 次からはやめておく」
「それじゃスキルがもったいないよ。ただ、頭を狙うのはやめたほうがいいと思うよ? そもそも反撃されるかもしれないし。狙うなら首なら……多少は……」
「そ、そうだね。内臓がないとこねらおう。素材も綺麗になるだろうし。まぁそれより次々!」
首を切ったら大量の血が出るから、どの道素材は綺麗にならないような?
僕の考えとは裏腹に、カオリは気分の切り替えとばかりに、二体目のガルに手をかざし狙いを定めた。
「炎!」
魔法だ! カオリの手から炎が線状に放出される。ゲームで見た火炎放射器のようだ。ただ炎はカオリから離れても、途中で消えることなく燃え続けている。
っていうか、僕が着火の魔法を実用までもっていくのに数週間かかったのに、カオリは既に修得していたことが納得いかなかった。疲れた様子もないし。
しかも僕の着火は一瞬だけ火花が発生する程度なんだけど、どういうこと? 威力とかもろもろ、差がひどすぎない?
さらにガルに火が届くと一瞬で火がガルを覆った。まるで蛇が巻きつくように。
「ねぇ、その炎ってやつカオリが操作しているの?」
「ううん。魔物に向けて魔法を使ったら勝手に」
ということは、巻きつくようプログラムされているっていうことだろう。火の玉を飛ばして攻撃どころじゃない。かなり強力な魔法だ。あれじゃあ空気だって吸えないし、むしろ内臓まで焼き尽くすだろう。
しかも今回に限っては、ガルの毛皮も燃えてなくなり、売るところもない。殺傷力はえげつないけど、狩りとしては使えない。
「思ったんだけど、カオリの覚えるスキルってすごい魔物を殺しにかかってるよね。魔物がどれだけにくいのか」
「勇者だからね! とにかく次々!」
まだあるのか。って思ってると、今度は先ほどのように武器を構えてガルに近づいた。
「体崩し!」
カオリがスキルを発動すると、そのまま体当たりをした。ガルはすぐに行動、反撃できないような体勢になった。
ガルだとよくわからないけど、たぶん呼び名からすれば、防御を崩すようなものだろう。人間や、向かってくる魔物に対しては、攻撃の中断や受け流し。からの、攻撃準備動作になるんだと思う。
「連続ギリ!」
やはり思ったように、カオリはそのままの姿勢から剣を振った。ただ、僕の目には剣を振り終えた後のカオリしか見えなかった。既にガルは細切れにされている。まぁ、細切れだからもちろんガルは……。
さらにカオリは目標を変えて別のガルに襲い掛かる。
「装甲破壊!」
今度はガルの毛皮が全身はがれた。見た目は非常にグロイ。いや、グロすぎでしょ。
スキル名の装甲破壊というのはタブン人間相手で言えば防具をはがすというものだろう。毛皮は確かに切りにくいし魔物の装甲とは言えるかもしれないけど……。まぁ、先ほどから試す相手が悪いとしか言いようがない。
カオリも気にはしているだけろうけど、とりあえずまだ続けるらしい。ガルに先ほど魔法を繰り出したときと同じように、手を突き出した。
「水!」
今度は水がカオリの手から放出された。水圧で殺せそうというほどではなく、放水車で水を勢い良く出す感じだ。ただこの水もやはり、蛇のように相手に絡みつき溺死させようとしている。
「カオリさ。さっきから思ったんだけど、ほんとに操作してないの?」
「うん。勝手に動いてるよ」
炎とか水とか、文字からだけでは想像できないほど残酷なんだけど。これ以外の魔法はどうなってるんだろう。っていうか、僕の魔法って魔法って言えるのかな?
「あたしのスキルは全部狩りには向いてないよね。素材とか燃やしちゃったし」
「僕もそれは思った。全部恨みでもこもってそうな倒し方だよね。まぁ、狩りに使えるのは水の魔法くらいかな。装甲破壊は使えそうだけど……」
「あのスキル使ったとき思わず目をつむっちゃったよ。さすがにあれはないなって思った」
カオリはため息はそこそこに、素材の回収を始めた。今までも同じことをしていたはずなんだけど、ここまで圧倒的だとさすがに罪悪感は否めない。
でもガルは積極性はないにしても、やはり僕らを食べる魔物だ。手加減はすべきじゃないだろう。
とはいえ、本気で相手にするのもやはり……。
「アキも手伝ってよ!」
現状を考察している振りをしてサボっているのがばれた。だってグロイんだもん。
強撃のスキルで切りつけた、体半分のガルとか、細切れにされたガルとかさ。
僕はしぶしぶ、素材になりそうな場所を集めた。
ぎりぎりガルの素材として買い取ってもらえそうなものを回収していく。そしてギルドに卸して少しのお金を得た。
まぁスキルについては、カオリの分も見れて思いの他良い時間だった。今後の連携にも使えると思う。多分。
後は僕が魔物を仲間にできれば、よほどのことがない限り問題はなくなると思う。
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