4-2
カオリから時間をもらったことで、しばらくは魔法の熟練度を上げることに専念した。そうして魔法を始めて使った日から一週間。毎日続けた結果、横にならないまでも、座る程度までは熟練度が上がった。さらに一週間が経つ頃には、座ることも必要がなくなる程度に成長することが出来た。今後も魔法を覚えたときは大体二週間掛かると思っていいだろう。
ついでにその頃になると、カオリが作った服も出来上がり早速切ることになった。
「……」
「……ご、ご主人。その服って女性の……」
「言うな」
「あ! でも、ご主人だとすごく似合ってますね!」
全く嬉しくない。まぁ、悪口を言われるよりはいいのかもしれないけど。
「私もそこまで鬼じゃないから、ちゃんとハーフパンツも作っておいたから」
フリルがついたスカートでどうやって今後魔物を狩ろうか考えていたけど、どうにかなりそうだ。早速カオリからハーフパンツをもらってはいてみると、思ったよりもまともな服装になった。
「どう?」
「うん。これなら戦闘も問題なさそう」
「じゃあ、それは戦闘服ってことにしよう。普段はフリルのスカートだけにしてね」
「……」
まぁ、あきらめてるから……。ともかく! ようやく次のステップに移ることができる。
次のターゲットは沼地にいる油蛙だ。
森を抜けて沼地に着くと一面、いたるところに蛙の姿が見える。
「うわぁ……何これ」
「ちょっとこれは予想外だね」
体長は中型犬くらいの大きさで、飛び跳ねると僕の身長の160センチをゆうに飛び越えることが出来そうだ。その蛙が沼のあちこちにいるから少し怖い。下手をしたら集団で襲ってくるかもしれない。
「カオリ、一匹一匹確実に行こう。この数と大きさで攻めてこられたら、下手したら死ぬかも知れない」
「わ、わかった」
狙った蛙一匹以外に見つからないよう、慎重に沼に入って行く。入ってから気づいたけど、沼の中は非常に歩き辛い。この状態ではそもそも戦うことは困難だろう。
カオリの様子を見ても、やはり足をとられている。
仕方なく一度陸に戻って作戦を練ることにした。このままでは戦っても相手に地の利がありすぎる。
しばらく考えた結果、ロープにナイフをつけて蛙を誘いだすことにした。陸の上なら僕らのほうが分があるだろう。
カオリには僕の後ろで待機してもらう。僕は集団から離れて、一匹で行動している蛙を狙ってナイフ……もといロープを投げた。
本来の僕自身の力では蛙までは届かないけど、スキルのおかげで勢いよく蛙に刺さった。蛙はこちらに気づいて向かってくる。
「カオリ!」
「任せて!」
カオリに任せて退散しようとしたとき、カエルは口から液体を飛ばしてきた。
「わわ!?」
「ち、ちょっと!? 遠距離攻撃なんて聞いてないんだけど!? どうすればいいのアキ!?」
これまた予想外なことが起きた。陸までおびき寄せようとしたのにかえるは沼から出ようとはせず、遠距離から攻撃してきた。
カオリは身構え、よけることはできるが攻撃が出来ない。僕もこれ以上はどうしようもできない。
しかし蛙は何度も口から水を吐き出してくる。とはいえ、僕らも死にはしないからコウチャク状態が続く。
このままだとジリ貧なので、どうにかできないか考えてみた。今はナイフがまだカエルに刺さっている。ナイフはロープでつながっているわけで……。
「……これで引き寄せられないかな?」
「え?」
「僕の力じゃ無理だけど、カオリの力ならいけるんじゃない? まぁ、返しがついてないから、抜けるとは思うんだけど。引き寄せられないならまたナイフを投げるだけでいいし」
「なるほど! 私に貸して!」
カオリはそういうと、勢いよくロープを引っ張る。まぁ、思っていた通りナイフが抜けた。なのでまたナイフを投げてこちらも遠距離攻撃で戦うことにした。
しばらくそのまま戦い様子を見る。ある程度蛙の攻撃が届かない範囲がわかってきたら、その場所まで下がって調整しながら戦った。すると僕の攻撃ばかり当たるようになったので、蛙は痺れを切らしてこちらに突進してきた。
「待ってましたあ!」
そこをカオリがばっさりと一撃で勝負を決めた。
狩り方がわかった僕らは、ナイフをまた投げては蛙を誘い出す。
数時間狩り続けて、ようやく目標の数に到達した。周りを見ればあちこち蛙だからけだ。
とりあえず蛙は大きすぎるので数匹のみ馬車にいれ、残りは沼にほうり投げた。
するとしばらくして水面がばしゃばしゃと音を立て始めた。
「な、なになに!?」
「なんだろ……」
僕らは武器を構えて様子を見る。が、沼からは何かが来る気配はない。もう少し様子を見てみると、なんとなく原因が見えてきた。
「ピラニア……みたいなやつかな?」
「ぴ、ぴらにあ!?」
「多分、蛙の死骸を食べてるんだと思う」
「ちょ、ちょっと待って。さっきあたし達その沼に入って行ってたんだけど!?」
「知らないって怖いね」
事前に準備したつもりだったけど、もし沼でカエルを狩っていたら、僕達も巻添えをくっていたかもしれない。水辺では船を用意するなど、今後は動きにくい場所については注意する必要がある。
「あ、でも今回はおいしいかも」
「え?」
「カオリ。たくさんの石をあの魚の大群に投げて」
「よ、よくわかんないけどわかった」
カオリは要領を得ないまま石をどんどん投げ続けた。
僕がひらめいたというのはあのピラニアに似た魚だ。たぶんあれも魔物だと思う。だから討伐すればスキルポイントがもらえるだろう。
しかも沼は今、蛙のおかげでパーティー状態で、かつ、油だらけだ。僕は覚えたての着火の魔法を使ってみた。すると、沼はあたり一面一気に燃え上がる。
「ち、ちょっとアキ!?」
「これで魔物を討伐できたでしょ。多分」
「確認はどうするの!?」
言われて気づいた。フェアリーに聞いてみると問題ないという。自動で魔物の討伐数はカウントされるらしい。そしてすぐ、フェアリーからポイントが増えたと言われた。
「僕は討伐したことになったよ。カオリは?」
「あ、あたしも討伐したことになったみたい」
ギルドのように確認することもしないのに、どうやって魔物をカウントしているか疑問ではあった。フェアリーが直接数えているのかとも思ったけど、そうでもなさそうだ。こういうところはゲームのようにプログラムされているらしい。本当に適当な神様だなぁと思う。まぁ、僕達が育ちやすい環境を作ってくれてはいるんだろうけど。
とりあえず、今回のこのピラニアとカエルのおかげで上級職へのメドが立った。これでようやく僕の真価が発揮されるだろう。たぶん。きっと。
用が済んだからこの場所には用はない。馬車に乗り込み帰ることにした。
そして僕は町に戻る道中、フェアリーから探索と捕獲のスキルを手に入れた。
帰る最中に探索のスキルを使ってみることにして、捕獲のスキルは明日実験することにした。
フェアリーが言うには、探索スキルは探したいものを想像しながら使うのだそうだ。なので僕は回りにいる魔物を探してみることにした。
するとゲームのような俯瞰的な情報が頭に入ってくる。次にお宝がないか探してみた。けどこれはさすがになかった。気を取り直して最後、採集できるものを探してみた。すると周りの全てが採集可能だった。
僕が想像していたのは、回復のための薬草とか、毒草とかないかなと想像していたが、この条件ではだめらしい。もっと的確にその素材を想像する必要があるらしい。
その後も町に着くまで、試行錯誤しながらスキルの理解度を高めていった。最終的には、僕らに敵対的な魔物を探索できたりすることもできた。僕が喜んでいると、フェアリーには驚かれ、カオリには元気だねといわれた。
カオリの表情を見ると思いのほか疲れた顔をしていた。
町に戻りギルドで蛙を売り払うと、すぐに宿を取った。
そしてすぐに武具を洗ったり体を拭いたりした。沼に入ったせいで、靴の中にまで水が入っていて非常に不快だった。こんなことなら着替えを持って行けばよかったと思うほどに。
そうして、着替えてご飯を食べる頃には、カオリの疲労も少しは回復したようだった。
今日の稼ぎはカエルが10匹だけ。一匹銀10枚だから100枚。ガルよりもてこずったのに、ガルのほうが換金額が高いのは納得がいかないところだ。
宿代などを差し引いて残金は銀105枚。お金は一向にたまる気配はなさそうだ。
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