3-2
「あ! ご主人! 森は草原よりも遠いので荷物運搬する人をギルドで借りたほうがいいですよ! 一人借りるのに銀10枚になりますが」
「ポーターか。確かにカオリがいるならほしいかも」
一人のときならたくさん狩ることはできないけれど、カオリがいれば狩れる数も多くなるだろう。二人で持ち帰るには限りがある。
「そうだね。でもポーターより馬車を借りたほうがいいよ。その分お金かかっちゃうけど、二人ならたくさん狩ると思うし。っていうわけで言ってくるね!」
カオリはそういうと、僕の返事を待たずしてどこかに行ってしまった。
フェアリーに聞いてみると、ギルドで馬車の貸し出しを行なっているらしい。
僕もギルドに向かい、受付に足を運んだ。すると案の定カオリが待っていた。カオリはお金を持っていないから、借りることはできなかったみたいだ。
「あはは! そういえばお金持ってなかったや」
「今度からは少し渡しておくよ。何かあっても困るからね」
「確かに。アキが死んだらあたし文無しじゃん」
「不吉なこと言わないで」
受付の人に話を通してもらって、銀30枚で馬車を借りることができた。
ただ、僕もカオリも馬なんか相手にしたことないから、どうしたらいいのかわからなかった。まぁ、タズナを引っ張れば、付いてきてくれるでしょ。と思って引いてみた。すると馬はついてきてくれた。
カオリは前衛で動き回るだろうから、疲れないように馬車に乗ってもらった。なので馬は僕が引っ張って行くことにした。
まずは足並みをそろえるため、カオリのガル狩りに付き合った。
カオリが攻撃すると一撃で狩り終えるから、すぐに30匹終わってしまった。
ギルドにガルを売りに戻り一気に先ほどのお金が返ってきた。受付嬢も驚くほどだ。
勇者の優遇はすごいと改めて感じる羽目になった。
カオリの討伐速度が思いがけないほど速く、宿を取るにはまだ早いため、換金が終わるとすぐにまた森へ向かうことにした。
森に着くと、カオリと二人で三つ目ウサギを探した。すると存外すぐに見つけることができた。
本来三つ目ウサギはガルと違ってこちらに気づけば逃げていく臆病な性格らしい。だからなるべく見つからないように行動しなければならない、というフェアリーの話しだった。 けど、ここまであっさりだとあまり気を使わなくてもよさそうだ。
倒し方は、僕が隠密スキルを使って、さっさと後ろから倒すのが楽だと思う。
でも今回からは、狩り方にコツがいる。というのも僕とカオリ、それぞれがスキルポイントをもらうための条件をクリアするには、戦闘に参加しなければいけないらしい。
例えばカオリが小石を投げ当ててから、僕がすぐに魔物の首を切り落とす、というように。
『戦闘への参加』がどの程度のことを指すかはわからないけど、今回は言われたとおりにやってみる。
僕はこのことをカオリに伝えて戦闘を開始した。
初めに二手に分かれる。カオリがウサギの正面から。隠密を使った僕がウサギの後ろで待機だ。
そして伝えた通り、カオリが先に石を投げて注意を引きつけ、僕が後ろからぐさりとウサギに剣を突き立てる。
当たり前だけど、あっさりと倒すことが出来た。
「う。これをあと49回か。精神もつかな」
見た目可愛いウサギなだけに、少し良心が傷む。
でもその後もウサギを狩っていると、49匹を狩り終える頃には慣れてしまった。道徳的には考え物だろうけど、二人だとただ作業しているだけのようで慣れた。
それより、一度に大量に狩ることで問題が一つできた。
「これ、馬車にのりきるかな?」
「さぁ? 入れてみるしかないでしょ」
カオリの言うとおり一応入れてみたら何とかはなった。
ただ、他の魔物であれば絶対に積み込むことはできなかっただろう。
「今度からは馬車数台は必要かもね。カオリがいると狩る速度も速いし」
「っていうか、臭いもひどいし一緒に乗りたくないよ。あたし達専用の馬車も必要だよ」
というわけで、今回はカオリも歩いてかえることになった。疲れているためゆっくり目に羽目になり、町に戻る頃には既にあたりは暗くなっていた。
町に入るとそのままギルドへ換金しに行った。
三つ目ウサギ50匹の報酬から馬車代を引いて銀520枚で悪くない。
お金がたくさん入ったので、晩御飯をワンランク豪華にすることにした。
今までは硬いパンに味の薄いスープだった。でも今回は柔らかいパンに、味の濃い野菜スープと鶏肉のサラダ。それで一人銀10枚でおいしく食べてることができた。
残金銀500枚。
まだまだ余裕があってほっとしていると、カオリが鎧を買おうと言い出した。カオリは前衛に出ることが多いから、しかたないと割り切り防具屋に買いに行った。
残金銀108枚。一気に減った。一向にお金はたまる気配がない。
武具屋を出、僕が財布を眺めているとカオリが後ろから、明日また儲かるって! と言ってくる。
確かに今日一日で銀500枚だった。明日はそれ以上になるだろう。
僕はカオリの言葉を信じて、少し料金が高めの宿屋で泊まることにした。
残金銀82枚。……改めてみると今日の儲けのほとんどがなくなってるなと思った。
次の日もまた馬車を借りて森へ行く。スキルポイントのため、今度は角イノシシを狩ることにした。
角イノシシは角ウサギやガルと違ってこちらから攻撃を仕掛けなくても、向こうが気がつけば攻撃をしたり逃げたりする。こちらが気づかなくても戦うハメになる厄介な相手だ。
しかも角イノシシの換金額は銀12枚。角ウサギより銀1枚だけ多いだけと考えると割りに合わない。必要がなければ狩らなくても問題ない相手だ。
ただ、僕らはスキルポイントがほしいから最低限の狩りはしないといけない。
カオリがいるからすぐに狩れはする。けど、それでもウサギよりも体積が大きいため、馬車に乗せるために午前と午後の二回にわけてる必要があった。
夕方になってようやく50匹を借り上げた。非常に効率が悪い。
町に戻るとすぐに換金した。そして食費や、馬車代などを差し引いて銀556枚。
昨日よりも疲れたのに、昨日とほとんど変わらない金額にため息が出た。けど、またお金に余裕が出来てよかった。
と思ったら、カオリが今度は品質のいい武器を買いたいと言い出して武具屋へ直行。切れ味のいいだろう剣を買って、銀308枚。
あれ? これ、カオリと一緒にいたらたまんなくない? って後になって気づいた。
「ねぇ、アキは買い物いいの?」
「んー。前衛のカオリの武具のほうが重要だと思うから後でいいよ」
「そんなこと言わないで買いたいのあったら買ってよ。あたしばっかり使ってなんか悪いしさ」
「カオリがいいなら買うよ」
「じゃあ明日休日にしない? 今度は私が付き添ってあげる! っていうか、あたしも何があるか見て回りたいって思ってたんだよね。アキ探してたから、街の中はまだ散策してなくてさ。ゲームとの違いもあるかもしれないし」
「わかった。じゃあ明日は休日で」
僕はカオリに休日と言われるまで、明日も狩りに行こうと思っていた。
そのくらいゲームというかこの世界に僕自身、はまっていた。
まぁ、ただ魔物を狩るだけなら飽きてたかもしれないけど。スキルのために狩ると思えば、力の入れ方もまた違ってくる。
っというわけで武具屋を出たら、すぐに宿を取って部屋に入った。
そしてフェアリーにお目当てのスキルをポイントと交換してもらうことにした。
「フェアリー、スキルを覚えたいんだけど」
「はい! 2つのスキルポイント使っていいんですよね?」
「もちろん!」
「わかりました! では、ロープアクションと脅迫のスキルをお渡しします!」
前回同様、フェアリーとおでこをくっつけてスキルをもらい、一瞬で受け渡しは終わった。
ロープアクションのスキルは、結び方や投げ方などの使い方が、僕の記憶として処理され理解できるようになったみたいだ。さらには体がスキルについていけるよう、ある程度強化された感覚がある。
例えば、ロープを結んで木の枝に引っ掛ければ、あっという間に木登りできるだろう感覚だ。
脅迫のスキルは今のところよくわからない。
ただ、隠密と同じように言葉に出せば、ある程度の強制力を発生させることができると踏んでいる。
「ガルで少し試してみようか」
「これからですか? 疲れてませんか?」
「それよりも実験したくてしょうがないよ」
僕は部屋を出て町の外にでた。既にあたりは暗いが、月明かりに照らされ、草原は綺麗に見渡せることができた。丈の短い草が風に揺れている。
その草の上に、ガルが眠らずにこちらをじっと見つめている。
僕はロープで輪を作った。ただし、端を引っ張るだけでロープが締まる結び方だ。
僕は少し距離を置き、狙いを定めてガルの首めがけて投げつけた。その輪は見事に首にはまり、ガルはこちらを目がけて走ってきた。
少し距離を置いたのは、速攻されても攻撃をもらうことを防ぐためだ。まだ十分に距離はある。
僕はぐいっと、ロープを引っ張った。するとロープが締まり、ついでガルの首も絞まった。ガルは驚くと体が少し浮き、そのままロープに引きづられ、地面に伏すことになった。
ガルは首に巻きついたそれを外そうと、首あたりをかいている。
「このタイミングならいけるかな? 脅迫!」
スキル脅迫を使った瞬間、ガルは震えだした。そして子供が悪いことをしたあと、親の顔を確認するような様子で僕を見上げ、こちらの様子を伺っている。
一応スキルが成功したのだと思い、急いでガルの首を締めるロープを緩めた。ロープを緩めただけで外さないのは、成功した状況がわからないためだ。いつ襲われるかわからない。
その後もしばらくガルの近くにいて様子を見たけど、ガルは依然と同じ状態を続けている。
餌付けも悪くないだろうと、僕は念のため持ってきていた干し肉をガルに与えた。ガルがそれを食べ終えた後はまた同じように僕のそばにいる。
「……成功でいいのかな?」
「タブン?」
フェアリー自身、こんな脅迫の使い方はしたことないはずだから、返事は曖昧だった。
「ご主人は本当に不思議なスキルの使い方をしますね!」
「それより魔物が仲間になることって、前例としてあるのかな?」
「一応はありますよ! でもそれは、卵から返したとか、赤ん坊の状態の時に拾ったとかですね!」
フェアリーの話しを聞く限り、魔物も動物と同じと考えてよさそうだ。ガルは見た目も犬だし。
さらにスキルを使った際、震えていたところを見ると僕の予想は間違っていないだろう。脅迫スキルはある程度の強制力を伴ったスキルだ。つまり、魔物も仲間にできる!
……でも仲間にしても。今は意思疎通できないからどうにもならない。
――っとその時、変わらないガルの様子を見て、ふとあることに気が付いた。本当に仲間になっているのだろうか?
この状況……ガルが僕、僕が熊だったらと置き換えてみる。
熊が正面から威嚇として吠えたら僕は震えて動けないだろう。これがさっきスキルを使った僕達の状況。
そこからさらに、熊に餌をもらって食べても、なつくわけない。熊が何を考えてるかなんてわからないし。僕は相手の様子を伺い、逃げる準備をするだろう。
今がこの状況だとすると、ガルは今ロープで逃げれなくなってるから、あきらめているだけなんじゃないか。だから時が来るまで殺されないよう、機嫌をとるように僕のそばでじっとしているんじゃないだろうか。
「……やっぱり今のままじゃ無理かな。上級特性じゃないと」
「上級特性はあと二種類の魔物をそれぞれ50体狩らないと無理ですよ?」
「わかってるよ」
僕は警戒しながらガルの首に掛かったロープを取った。するとやはりガルは一目散に逃げ出した。
「やっぱりこうなるよね」
「ど、どうして逃がしたんですか?」
「逃がしたわけじゃないけど。……まぁ、今のままじゃ食費とかいろいろ考えないとだめだし。そこまでの余裕はないよ」
「そうじゃなくて、狩ればお金になりますよ?」
「逃がすのも実験だったんだよ。それよりフェアリー」
「はい?」
「簡単にスキルをあげたい。いい狩場を知らない?」
「森ではだめですか?」
「森だとガルの亜種か、アライグマでしょ? それだと時間が掛かりそうだからさ」
熊なんてそもそも相手にできそうにない。さらにガル亜種も油断ならないだろう。視界の悪い森で、数で襲ってこられたら今の僕達じゃ相手にできないと思う。
「んー。それだと、亜人はどうですか?」
「あじん?」
「はい! 人には分類されるんですけど、性格は交戦的で人間の肉が好物なんです。区別するために人肉が好物な者は亜人って呼ばれてます」
「な、なにそれ。怖いんだけど」
「捕まれば悲惨きわまりないかもしれないですけど、実際はそこまで強くないですよ。人間の半分くらいの大きさですし、力もあまりありませんから。この周辺の亜人は」
と、フェアリーは言うが数が多ければ馬鹿にできない。まして人であるなら武器も使うはず。毒なんか塗られてたら危険すぎる。
「熊と亜人か……どっちが簡単なんだろう」
「圧倒的に亜人かと。アライグマは気性が荒いので攻撃力も高いです。さらに逃げようとしても、足が速いので逃げ切れないかと」
「確かに」
「亜人は素材が取れないですが、人間の脅威ではあるのでギルドに討伐のクエストがいつも置いてあります。それにギルドに討伐証明すれば報奨金がもらえるので、駆け出しの冒険者には推奨されてますよ! ポーターも必要ないので!」
確かに素材が必要ないから、討伐証明部位だけで楽に運ぶことができる。
ただ、やはり人型だとそれなりに知能はあるだろうから毒が気になる。さらには集団戦にもなるかもしれない。
熊、亜人、どちらを相手にしてもリスクを負うことになりそうだ。
「フェアリー、他にはない?」
「他ですか? 他は……スキル上げには向きそうもないですよ?」
「それでもいいよ。しょうがない」
「でしたら森の近くの沼地に油蛙がいます。ただ場所が場所だけに、やはり狩りにくいですし、油蛙の表皮は刃物を通しにくいという性質もあります」
「それくらいなら問題ないよ。蛙なら基本単独行動でしょ?」
「そうですね!」
明日は買い物に行く予定だったからちょうどいい。魔法のスキルを買って覚えることができれば、多分簡単に討伐できるだろう。
「じゃあそろそろ戻ろうか。あんまり遅いと明日起きるのが面倒になるし」
「賛成です!」
あと少し……上級特性を取れば今回とはまた違った結果になるはずだ。
僕は逃げたガルのほうをもう一度見返してから町に向かって歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます