第31話 到着

【第31話】到着



 夜が明け、空に日が昇る。気持ちがいい朝を迎えたと思った矢先、聞こえてきたのは、スミレの腹の音だった。


 グゥゥ~~


 まるで、何日も食べていないような下品な音が、涼とイランが眠っているもう一つのテントまで聞こえてきた。


「なんだなんだ! 敵襲か!」


 その音に若干寝ぼけた様子のイランが、敵が来たと勘違いし意気揚々とテントを飛び出した。

だが、その正体がスミレの腹の音だと分かった瞬間、その場に崩れるように倒れる。


「もう僕……今日動けません……」

「そうか。じゃあここに置いてくぞ」

「止めてよ!」

「涼。お腹減った」

「昨日散々食っただろう……」


 竜神族なのか、単に食いしん坊なのかは分からないが、昨日5人前以上の量を1人で食べたスミレがそんなことを言い出した。


「食いたいなら何か取ってこい」

「わかった」


 スミレは案外あっさりとそう返事すると食料を探しにどこかに行ってしまった。


「あれ? スミレちゃんはどこに行きました?」

「食べるもの取りに行ったぞ」

「1人でですか……」

「言っとくけど探しに行かなくていいぞ。それに今ここで余計な体力を……」


 スミレが凄く心配だったのだろう。寝起きで服が乱れているにも関わらず飛び出していってしまった。


「あれ? 皆はどこに行ったの?」

「さぁな」

「さぁなって……はぁ、それより朝から疲れたよ」

「お前が勝手に勘違いしただけだろ」

「あんなでかい音が隣から聞こえてきたら誰だって驚くよ!」


 スミレが何かを取ってくると信じて、料理の準備を始める。薪を切り、それに火を付ける。


「取ってきたよ」


 そうしていると、スミレが牛のような見た目の魔物を涼に渡した。


「朝から凄いの取ってきたな……それよりセラフィーは? 一緒じゃないのか?」

「わからない」


 そこでハッとする。セラフィーは極度の方向音痴だ。

少し目を離すとどこかに行ってしまうことを忘れていた。


「おいイラン。今すぐセラフィーを探してこい」

「また人使いが荒いな~」

「いいから早く」

「はいはい」



ー--------------------



 あの後、セラフィーは見つかったが案の定、涼たちが居る場所から真逆の方へ行こうとしていた。

すぐに、セラフィーが方向音痴だと思い出したおかげで、最悪な事態は防げた。


「すいません……」

「まぁ心配な気持ちは分かるが、ここの魔物は弱い。

なんならスミレはお前より力もスピードもある」


 ここ最近の魔物の強さは異常だったが、それは運が悪かっただけで

本来この周辺の魔物は大体10前後ばかりだ。

今の涼たちの敵ではない。


「でも、まだ子供ですよ。それに外に初めて出たみたいですし。私は心配です……」


 セラフィーによると、スミレはまだ、15にも満たない年齢とのこと。

どこでそれを知ったのかは分からないが、それが本当なら、

まだ中学生くらいの年齢だ。もし自分がそんな年なら魔物と戦う姿は想像できない。


「はぁ……そうだな。そこは俺も配慮が足りてなかった。

今度からはイランでも頼むとする」

「一応聞くけど僕に拒否権は?」


 なんだかんだあったが、無事に朝食を終えることができた。

そして、街に向けての出発の準備をする。


「調子良く行けば今日中に着くかもな」

「本当!? いや~ようやくだね~楽しみでしょうがないよ」


 地図を開く涼。目的地の【アルサンディア】までに通らなければいけないのは1つ。


「森ですか?」

「俺らが今いる場所は多分ここらへんだ。街まで行くなら、ここを通らないといけない」

「こっちの方が安全そうじゃありません?」

「いや、こっちを通る」


 森の中を通ることが街に行く最短の道だ。

だが、これまでの経験上、森や山脈といった人があまり通らない。もしくは行くこと自体が厳しい場所の魔物は強敵の可能性がある。

そうなれば勿論、そういった場所を避けるのが得策ではあるのだが。


(セラフィーの身体はもう限界に近い……これは賭けだ)


 余裕を装っているセラフィーだが、疲労が限界突破している。

その証拠に、すでに息が上がっている。それに……


(顔が少し赤いか?)


 セラフィーの顔がいつもよりも赤かったのだ。


「セラフィーお前顔が……」

「大丈夫です。まだ行けます……」


(これは……すぐに街に着かないとか……)


 セラフィーの額には汗が微量だが、吹き出ている。

急遽、しっかりとした休みが必要な状態。

そしてその症状は涼にも現れ始めていた。


(流石に、俺も限界か……ここ最近、疲労が取れない……今思えば、よく持った方だろう)


 初めての異世界での旅。それに、涼は元々ニート。

運動不足な状態だった。それに加え、やったことがないことが多すぎたのだ。

器具の作成、野宿。長時間歩く。今日までは自由になったというテンションだけで乗り切っていたのだ。

しかし、そのアドレナリンも切れ始めている。



ー--------------------



 涼が言った通り、目的地の森までは空が明るいうちに到着した。


「僕の勘が言っている。この森は危険だと」

「そんなこといいから通るぞ」

「まぁそれしかないよね……」


 イランはそう言うと、涼の背中を見る。

そこには顔を真っ赤にしたセラフィーの姿があった。

その口からは、ぜぇぜぇと、苦しそうな声をあげていた。


「無理してたんだね」

「ああ、少しだが熱がある。早いところここを抜けるぞ」


 出発早々にセラフィーがタウン。

今はまだ微熱程度だが、ここから悪化する可能性がある。


「そうはいってもね~この先何があるかなんて分からないし」

「見てくる」

「え?」


 スミレはそう告げると、上空に飛び去って行ってしまった。


「え? え? どっか行っちゃったよ!」

「落ち着け……」


 言葉からするに、この森が安全なのかどうかを確かめるために行ったのだろう。

イランは慌てふためいているが、数分後にはスミレが戻ってくる。


「何も居なかった」

「何が?」

「強そうな魔物が」

「うっそだ~そんなわけないよね涼?」

「さぁな。行ってみないとそれは分からないぞ」


 どのみち魔物が居ようがここを抜ければ、目的の街まではすぐ。


「魔物が居たら頼む」

「任せてよ」


 気合いを入れて、森の中に入ったが、その心配は杞憂に終わる。

小動物みたいな魔物や、こちらに無害な魔物は居るものの、襲いかかってくる魔物は居なかったのだ。

そして森は数十分という短い時間で抜けることができた。正直拍子抜けだが今はそれがありがたかった。


(まぁ、でも、これで遂に……)


 森を抜け、最初に目に映ったのは、探し求めていた街【アルサンディア】だった。

その巨大な見た目は、聞いていた通りの大きさだった。


「でかいね~流石大都市」

「おい、着いたぞ。もう少し粘れよ」

「は、はい。頑張り……ます」


 こうして、涼たちは【アルサンディア】に着くことができた。この先、どんな苦難が待ち受けているのか。

まだ、涼たちは知らない。


第2章 冒険の続き~完~

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