第29話 脱出

【第29話】脱出



 セラフィーに、あの謎の少女が目が覚めたと伝えられた。すぐに部屋に入ると、ベッドの上でぼぉ~とどこかを見つめていた。


「誰?」


 しかし、すぐに涼たちに気づいたのか。少女は目を彼らに向け尋ねる。


「うわ~よく見ると、凄く奇麗だね。何か別の世界の住人みたいだよ」


 イランが突然。少女を見るとそう呟く。

確かによく見てみると、透き通ったような肌に、腰まであるサラサラな銀色のロングヘアー。

顔は幼さが残っているが、スラっとした体型。人形と言っても信じてしまうほどの見た目だった。


「あ、こちらは涼さんとイランさんですよ。大丈夫です、敵ではありません」

「へ~」


 興味無さそうに返事をする少女。その表情からは全く感情が読み取れなかった。

するとセラフィーが涼に近寄り耳打ちをする。


「あの……彼女記憶が無いみたいで……自分が何者なのかかがわかってないみたいなんです。涼さんって確か相手の名前分かるんですよね? それで見ていただけませんか?」

「無いぞ」

「え……それはどういう……」


 驚くセラフィー。実は、種族を確認すると同時に名前も確認していた。

そこに表示されていたのは種族・レベルとスキルだけだった。肝心の名前はというと。


??? Lv38 種族:竜神族

スキル

・飛行

・腕力強化

・ドラゴンの守護

・駿足


【飛行】

空を飛ぶことができる

【腕力強化】

自身の腕力を上昇させる

【ドラゴンの守護】

毒や、麻痺といった状態異常にかからない


【???】と表示されており、名前がそもそもあるのか無いのかわからなかったのだ。


「悪いが、名前はわからない」

「そうですか……」

「何の話してるの?」


 こそこそ話していると、少女がこちらに歩み寄ってくる。


「いや、なんでもないですよ」

「そんなことよりさ。ここって安全の場所じゃないの忘れてない? 何か、足音が聞こえてくるんだけど」

「そうだな。離れた方がよさそうだ」


 少女が目覚めたからか? さっきのロボットたちが戻ってきたのだろう。足音がどんどん近づいてくる。


「あ、あの!」


 ここから出る支度をしているとセラフィーが言った。


「この子ほっとけないですし、その……」

「連れてきたいなら勝手にしろ。早く行くぞ」

「はい! さぁ私たちと一緒に行きましょう」


 セラフィーの差し出す手に、少女は黙って取った。


 ピー! ピー!


 扉の前にでは、大量の警告音が鳴り響いていた。

どうやら涼たちがここに居ることがばれているようだ。


「扉を吹っ飛ばしたら左に走れ。いいな」

「わかりました」

「逃げるなら任せてよ!」


 ブーン!


 おもいっきり扉をふき飛ばせば少しは気をそらせる。

そんなことが機械に効くかは分からないが、出口がこの扉しかない以上少しでも生存率を高めることに越したことはない。

左手に【波動】を溜める。そしてそれを放った。


 ドーン!!


 豪快に吹き飛ぶ扉。それが合図かのようにみんな走り出す。

だが、ロボットたちがそれを黙って見ているはずはなかった。


「わわわ! 何か撃ってきたよ! って壁が溶けてる!」


 後ろからは見たことがない機種のロボットがビームような攻撃が涼たちを襲う。

当たった個所を見るとドロドロに溶けていた。

壁は恐らくコンクリート以上の強度でできている。その壁がああなっているのだ。人間の骨程度の強度なら……


「っう!」


 燃費が良いのかまるで弾幕のように放ってくる攻撃に、避けきれなかったセラフィーが肩をかすめ、その場に倒れる。


「っ!」


 すぐにカバーに入ろうとする涼だったが、間に合いそうになかった。

ロボットの追撃はもう始まっていたからだ。セラフィーは助からない。そう思った時だった。


『『アネーモス』』


 突如強烈な突風が巻き上がり、ロボットの攻撃の軌道を曲げた。

その攻撃の発生源は竜神族の少女だった。


「捕まれ!」


 今はそれよりも、セラフィーを助けることが先だ。

セラフィーの手を取った涼は、急いでその場から離れる。

少女が放った魔法のお陰で、ロボットたちはまだ体制を整えられていない。


「涼! あっちが多分出口だよ!」


 イランが指さす方からは、かすかだが外の空気の匂いがする。

その方へ走ると、この場所に入ってきた時と同じ種類の扉を発見した。

涼は【波動】を武器に付着させると、その扉を切り裂いた。


「外だ……」


 扉の向こうは、外に繋がっていた。ようやく、この施設のような場所から出ることができたのだ。


 バサッ! バサッ!


 だが、そこはまだ安全ではなかった。


「うわわ! またドラゴンだよ!」


 前方に高レベルなドラゴン。後方には多数なロボット。

この状況を一言で言うなら絶望だった。


「……?」


 涼、イラン、セラフィーは身構えるが、ドラゴンが攻撃をしてくる様子はなかった。

そろどころか、地面に降りてくるや否や、少女に頭を差し出す。少女は、そんなドラゴンの頭を触れる。


「これどういう状況?」

「さぁな……」

「竜神族は本来、ドラゴンを従えていた種族だと聞いてます。この周辺にドラゴンが活発化していたのは、この子が目覚めると思っていたからでしょうね」


(俺らはそんな時期に、この山に近づいたということか)


 つくづく運が悪いと感じる。

少女に触れたドラゴンは、満足したのか涼たちには何もせずに飛び去ってしまった。


「とりあえずここを離れるぞ」

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