第28話 竜神族

【第28話】竜神族



(これは……)


 涼は床に落ちている本を拾った。その表紙には、【森に住んでいた妖精】というタイトルだった。

ページをめくってみる。パッと見た感じの内容は、たった一人になってしまった妖精が

ある人間によって新たな人生を歩みだすという話だった。


(この世界の絵本もこんな感じなんだな……)


 よくある童話に似た内容。現実と少し違うのは本の中でもファンタジックだというところだけだろう。

パラパラと飛ばし飛ばしで読み終わると本を元の場所に戻すし探索を再開した。


(なんだ? この扉……)


 今居る部屋とは別に部屋があった。その奥に進むと、鉄製の扉がまるで何かを守るかのように立っていた。

ドアノブを回すが、鍵が掛かっているのか開く様子はない。


『『波動(纏い)』』


 鍵が掛かっていると分かった涼は、波動を武器に宿す。


(機械の強度も切り裂いたこの魔法なら)


 剣を持った右手を振り下ろした。その一撃に扉はいとも簡単に真っ二つになる。

武器を鞘に納めると、奥へと足を動かした。



ー--------------------



 ゴボッゴボッ


(暗いな……それに何だこの音は……えっと、電気のスイッチは……これか?)


 壁に沿って手を動かしているとスイッチのようなものに触れた。涼は、それをパチっと押した。


「!?」


 徐々に明るくなる中で、涼の目に映ったのは、巨大なカプセルのような入れ物の中に、女の子? が入っている謎の装置だった。

眠っているのか。死んでいるのかは分からないが、口にはチューブのような物が口に繋がれており、額には角が二本生えている。初めて見る種族に身体をカプセルに近づけた。


 バチバチ!!


(なんだ!)


 カプセルに触れようとした瞬間、周囲の装置が暴走しショートを起こしたのか煙が立ち込め始める。

それは徐々に激しくなっていき、部屋全体がピカッと光りだした。


 ピシャーン!!!


 その時、まるで狙ったかのように天井を突き破るほどの落雷が、カプセルの頭上に降り注いだ。


 バキバキ! バキン!


 落雷の衝撃でカプセルにヒビが入り、割れる。

そして支えが無くなった少女は、そのまま涼に向かって倒れる。


「涼~何か大きな音がしたけど大丈……えっと、どういう状況?」


 ここが日本なら即警察を呼ばれていたことだろう。なぜなら、異性同士が抱き合っているのだから。



ー--------------------



「びっくりしましたよ」

「それは俺もだ」


 あのあとセラフィーが駆けつけ、事情を説明した。

今、少女はベッドのある部屋で眠っている。


「ねぇねぇあの子、頭に角が生えてたけど何の種族?」

「わかりません……あ、でも涼さんなら分かるんじゃないですか?」


 涼には【情報】がある。相手がどんな種族なのかがわかる。早速確認すると【竜神族】という中二病みたいな名前が表示される


「竜神族。そう表示されたぞ」

「竜神族……ってまさか!」


 その言葉を聞いた瞬間、セラフィーが考え始める。よほど珍しい種族なのだろうか。


「知ってるの?」

「歴史の本読んだことないんですか?」

「うん。無い」


 イランの即答。まぁあの様子を見る感じ、本当にないのだろう。


「おとぎ話とかに出てくる種族ですよ。確かもうかなり昔に滅んだ種族だとか」

「へ~」


 興味が無さそうに返事をするイラン。


「この施設、なんか変ですね……滅んだとされる科学や種族がこんなところに……」


 何かを考えているセラフィー。……が、考えがまとまわないのか唸り始める。


「少しあの子のところに行ってきます」


 そして、そのまま少女が寝ている部屋に行ってしまった。


「何か僕ら凄い発見したらしいけど、興味ないな~」

「そうだな」


 珍しくイランと考えが一致する。


(正直、この世界の歴史なんてどうでもいい……)


 そもそも、涼にとっては、この世界のこと自体どうでもよかった。

この世界で望んでいること。それは自由。ただそれだけだったから。それ以外のことに興味なんてなかった。


「それにしても変わったよね」

「セラフィーのことか?」

「うん。最初はあんな表情豊かな人だったとは思わなかったよ」


 あの沼地での一件以来、セラフィーは表情を表に出すようになった。

初めて会った時は、それこそほとんど感情を表に出していなかった。


「それにわかったことがあるんだけど、多分彼女子供じゃないよ」

「かもな」


 言葉選びや知識、それに加え魔法の威力に戦闘スタイル。明らかに子供の域を超えている。

おそらく背が小さいのは生まれつきなのだろう。


「でもそうすると変なんだよね」

「なにがだ?」

「前にも言ったんだけど、僕の村にちょくちょく来ていた商人に聞いたんだけど、大人のエルフって最低でも身長165以上あるんだって」

「それ、所詮商人の話だろ」

「聞いてみよっか?」

「やめとけ……」


 イランはセラフィーにエルフの平均身長を聞こうとしたが、それを涼は止める。確かに、涼がイメージしていたエルフは、背が高いイメージだが、そこは人によってはデリケートな部分だ。


(小さいの気にしてるかもしれないしな……)


 なんて他愛もない話をしていると慌てた様子でセラフィーが息を切らしながらこっちに走ってくる。


「あの子目を覚ましました。はやくこっちに来てください」

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