第26話 科学

【第26話】科学



 扉の先へ入った瞬間、キギギと扉が自動で閉まりはじめる。セラフィーの魔法による目潰しから回復したのか。涼たちに攻撃を開始するが、それよりも早く扉が完全に閉まる。

 外からガリガリと扉を引っ掻く音や殴る音が聞こえるが、開く様子はなかった。ドラゴンの攻撃でもびくともしない。よほど頑丈な作りなのが分かる。

数分後には諦めたのか、扉を攻撃する音は消える。


「い、居なくなった?」

「みたいだな」

「た、助かりました……」


 自分たちは助かったのだと安堵し、肩を落とした。


「それにしても暗いねここ。よく見えないや。ん? なんだこれ?」


 ッパチ!


 イランは何かボタンのような物を見つけた。

そしてそれを押してみると、部屋中の電気が付き、明るくなる。


「わぁ~なんだここ」


 そこは、あるで何かを研究しているかのような場所だった。


「なんでしょうかこれ? 見たことありません……それとイランさん。先ほど何を押しました?」

「え? これだけど」


 イランはそう言うと、自分が押したボタンを指差す。

セラフィーはそこに近づくとそのボタンを押した。

すると部屋の電気が消える。


(これって電気のスイッチか? なんかファンタジーの世界とはかけ離れてるな……)


 現実でもこの技術が使われていることに少し落胆する涼だったが、セラフィーだけは少し違う反応を見せた。


「これってもしかしたらかもしれません」

「カガク?」

「かなり昔に滅んだとされている技術です。凄い……初めて見ました……何でこんなところに……」


 正直、涼はそこまで驚いてはなかった。何故ならこの技術は現実で嫌というほど見てきたからだ。

 折角、剣と魔法のファンタジーの世界に来たというのに、現実の科学を見せられて少し嫌な気持ちになってしまった。そんなことをおかまいなしにその辺の物を触りまくるセラフィーとイラン。何が起こるのかという緊張感はないらしい。


「でもおかしいですね……」

「何が?」

「科学を研究していたという人たちが居たんですけど、確か事故? とかで数年前に全員亡くなったらしいんですよ。でもここにはその名残がある……」

「まだ生き残りが居たんじゃないの?」

「そうでしょうか……」


 ガシャ……


 部屋の物を見ている時だった。何かの物音が聞こえている。その音に全員身構える。ここは、あのドラゴンたちが住んでいる山脈の中間にあった場所だ。何が居てもおかしくはない。


 ガシャン! ガシャン!


 足跡は機械のような歩行音。それががどんどん近づいてくる。


「何々! 何が来るのさ!」

「静かにしてろ」


 ガシャン……


 何かが奥から顔を出した。その見た目は、昔、玩具屋とかで売られていた人型のブリキの玩具に似ていた。

ロボットというやつだろうか。


「何あれ?」

「さ、さぁ……」

「………」

「とりあえず近づいてみよう。何か魔物って感じしないんだよね」


 イランはそう言うと、ロボットに近寄ろうとした。

そんな危機感の微塵も感じない行動するとは思っていなかった涼はすぐに【情報】でステータスを確認した。


 警備ロボット Lv35 種族:機械

スキル

・鋼鉄の身体

・無尽蔵


【鋼鉄の身体】

鉄の強度を持ち、防御力がかなり上昇する

【無尽蔵】

スタミナを消費しない


「待て! イラン!」

「へ?」


 ウィーン!


 イランが触ろうとした瞬間。ロボットの目が赤く光り、イランに殴りかかった。


「っ!?」


 風を切るかのようなスピードのパンチを身体にヒットし、イランをぶっ飛ばす。


「いつつ……」


 吹っ飛ばされるも大したダメージは負っていないらしい。すぐに立ち上がると、涼たちの方へ駆け寄る。


「いきなり失礼なやつだよね」

「いきなり触ろうとするお前の方が失礼だと思うぞ……」


 ガシャン! ガシャン!


 戦闘音を聞きつけたのかもう1体、同じ奴が奥から現れる。めんどくさいやつがもう1体増えてしまった。


「セラフィー。お前は魔法の詠唱に集中しろ」

「はい!」

「お前は……」


 自分は何をすればいいのかと、期待の眼差しを向けてくるイランだが、あいにく相手のスキルを確認する限りではイランの戦い方では役には立たない。


「殴れ」

「僕だけ適当すぎない!?」


 セラフィーが詠唱を始める。それが合図かのように涼が突っ込む。鞘から剣を抜き、ロボットの後頭部を切りつけた。


 ガキン!


 渾身の力で放った斬撃はダメージどころかかすり傷1つ付けられなかった。防御が上がるスキルとはいえここまで硬いとは思っていなかった。


「っく!」


 ブン!


 拳を突きだし攻撃を繰り出してくると同時に後ろに下がる。

自分が放った一撃でジーンと今でも痺れる腕。打撃、斬撃で倒すのは諦めた方がいいだろう。


「くらえ!」


 もう片方のロボットの相手はイランがしていた。右腕を通常の5倍以上に肥大化させ、拳を握ると、そのまま叩きつける。普通の魔物ならこれでペチャンコに潰れるが、ダメージを負ったのはイランだった。


「いてぇー! かてぇ! 拳が割れるー!」


 向こうも苦戦している様子だった。もう頼れるのは……


「2人とも離れてください」


『『ファイヤーボール』』


 ドドン!!


 セラフィーの上空に浮遊している大量の火の玉。

杖を前に出すと、それらは敵に向かって飛んでいった。

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