第25話 落雷
【第25話】落雷
休憩を初めて数時間。セラフィーの痺れはある程度回復していた。もう歩いたり走ったりはできるだろう。
それが分かればこんなところで立ち止まっているわけにはいかない。
焚火の火を消すと3人とも立ち上がり、出発の準備をする。
「この先の山に行くんだっけ?」
「そうだな」
「大丈夫なの? またドラゴンとか出てきたりしない?」
「さぁな」
この先の山を越えない限り、目的の【アルサンディア】までたどり着くのに何ヵ月かは掛かるだろう。涼とイランならそれでもいいかもしれないが、セラフィーはそうはいかない。
休んでいる時に聞いた話だが、どうやらここまで結構な苦難な旅をしてきたらしい。
セラフィーの手や足をよく見ると傷だらけになっており、疲れが顔に出ていた。今まで出なかったのは自分の身体なんてどうでもいいと思っていたからだろう。
「辛かったら言ってくれ」
「私は大丈夫です」
そんなことを言っているが、疲れが出ているのが分かるほど足取りが悪いのが見てわかる。十分に休みが取れていない証拠だ。
(こんな所じゃ疲れも取れないだろうな……)
今はもう少しだけ野宿に慣れた涼だが、初めての野宿の事を思い出していた。
(初めはきつかったな……)
やわらかい布団や枕があるわけではないし、外の気温や、いつ魔物に襲われるかわからない不安の中ではとてもじゃないが、良質は休息はとれない。
(今は進もう。少しでも早く、街に着くために)
「それじゃあ行きましょう」
勢いよく足を前に出すセラフィーだったが、行こうとしている先は目的地とは真逆の道。
涼はすぐさまセラフィーの手を引っ張る。
「こっちだ……」
セラフィーと一緒に居て1つ分かったことがある。それは方向音痴だということだ。
少し目を離すとあらぬ方向に行ってしまう。なお、本人には自覚がないということころがよりめんどくしている。
(あの洞窟に居たのも多分、迷ってたな……)
先行きは不安だが、ここで立ち止まっても仕方がない。
これからのために、涼たちは歩き出した。
ー-----------
目的地の山脈まではそう遠くなかった。ここまでは特に問題ないのだが……
「うわ~高いね~これ登りきるのに何日かかるんだろう」
「これが一番の近道なんだ。我慢しろ」
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これから登る山はナイフのような
見た目で分かるとおり足場が非常に悪く、少し気を抜いて転べば、取り返しのつかない大怪我をしてしまう。
(ここを登るのか……)
涼でも流石にきつい道なりかもしれない。だが、それでも何やかんやで登りきってしまうだろう。だが……セラフィーはそうはいかない。見ると少しだが息切れを起こしている。
このまま登らせては危険だと判断した涼は。
「乗れ」
「え?」
腰を落としている涼を見て少し戸惑うセラフィー。
「だ、大丈夫です! そこまでしていただけなくても……」
「こっちの方が早いと思っただけだ。いいからさっさと乗れ。置いてくぞ」
「ううう……」
少し唸った後に、セラフィーは諦めたのか涼の背中に乗ることを決めた。
「あの、重くないですか?」
「いや別に」
重いもなにも完全に子供の体重だった。体重は40もいってないだろう。
仮に100キロとかでも、今の涼のレベルでは軽い部類だ。
「ほらほら、二人とも早く!」
こうして登り始めた涼たち。天気が若干悪い以外は順調な滑り出しだ。
道中にも魔物の類は一切居なく、最初に登ろうとしていた山と違い、静かだった。
「お前、あんな魔法使えるのにスタミナ無いんだな」
「え……何で魔法にスタミナの話が出てくるんですか?」
「いや……魔法を撃つのに必要だろ」
「……いえ?」
登っている最中暇なので、涼がこんな問いをセラフィーに言った。
しかし、帰ってきた返答は涼が思っていたのとは違った。
「じゃあ魔法は何を消費して撃つんだ?」
「えーと……
「マナ?」
「はい。マナです。スタミナって運動で消費したカロリーが多くなって、疲れや息切れを起こしますよね? マナの場合は、魔法を使用した時だけ消費されるんですよ」
この世界の言語であろう
「消費し続けるとどうなるんだ?」
「疲れや息切れを起こしますね」
(それってスタミナと同じなんじゃ……)
「ですが、スタミナとマナには違いがあります」
まるで涼の心を読んでいるかのように話しを続ける。
「身体を鍛えて持久力がある人でも必ずしもマナは多くとは限りません」
「どういうことだ?」
「スタミナがあってもマナが少ない人は、魔法を使えばすぐに疲れてしまうということです」
「そうなのか……」
「本当に知らなかったんですね」
「まぁよく考えずに使っていたからな」
(なるほどな……つまり、RPGでいうHPとMPみたいなもんか……確かに攻撃力が高いキャラって知力が低いんだよな……)
「涼さんみたいな人は結構珍しいんですよ」
「両方使えることか?」
「そうですね。剣も魔法もある程度扱える人って少ないんですよ。人って生まれつきどっちかに偏ってることが多いですから」
そう言われ、涼はイランをチラッと見る。
(こいつの場合はセラフィーとは真逆だな……)
「話終わった? 何か難しい話で僕眠くなりそうだったよ」
(ああ、魔法が使えないのも納得だな)
ゴゴゴゴ!
歩き始めて、数分。空から唸っているような音が聞こえてくる。
上を向くと今にも雨が降ってきそうなほど雲が曇っている。
「さっさと進もう。この様子じゃあ雨が振ってくるぞ」
「あの……涼さん。そろそろ降ろしていただけると……」
ピシャア!!
「ひゃああ!」
突如、落雷が近くに落ちる音が鳴り響きセラフィーが悲鳴を上げる。
「あ、あの早く下ろしてください! 今、私が1番雷に当たる確率が!」
背が一番高いのは涼だが、セラフィーを背負っているせいで、今この中で一番頭が高い位置にあるのはセラフィーだ。それが分かったのか必死に涼に訴える。
(こいつ魔法で雷出すくせに雷怖いのか……)
「分かった……辛くなったらちゃんと言えよ」
「はい。ありがとうございます」
「うっわ……かなり近くに落ちたねって……何か聞こえない?」
グォォォ……
先程まで静寂に包まれていたが、落雷が落ちた数秒後に何がの咆哮? のような声が周囲から聞こえ始めたのだ。
「ねぇね。やばくない?」
「ああ、早く離れた方がいいな……っ!?」
ボァァァ!!
離れようとした瞬間、突如空から炎が降り注いでくる。
咄嗟に気づいた涼は、セラフィーの服のネックを掴むとそのまま後ろに引く。
急な攻撃。そして、この攻撃には見覚えがあった。
「グルルルルル!!」
【エンシェントドラゴン】もう片方の山脈で出会ったドラゴンだ。その回りにも、何体かの小型のドラゴンが何体か居る。
(まさか追ってきたのか!? いやそれならこの山に入る前に襲いかかってるはずだ……)
ドラゴンたちは今にも次の攻撃を繰り出そうとしている。
「走れ!」
こんな奴らと戦っていたら命がいくつあっても足りない。今、涼たちにできるのは逃げることだけだった。
「涼! あそこ! 扉があるよ!」
絶望的な状況で、イランが、岩壁に囲まれている扉を発見する。涼たちが助かる選択肢は……
「開けろ!」
「分かってるけど、ぐぎぎぎ! 何だこの扉開かないいい!」
扉はまるで中から巨大な力で押さえられているかのようにびくともしない。
ピシャア!!
その時、再度落雷が降り注いた。魔物たちの咆哮は更に活性化する。
「え? 扉が光始めたよ。なにこれ? あ、開いた」
「皆さん。目を瞑ってください!」
鬼気迫るドラゴンたち。その威圧的な風貌を持ったそれははすぐ目の前まで迫ってきている。
そんな、絶体絶命の状態でセラフィーが叫び、涼たちの前に立った。
『『フラッシュ!!』』
落雷の光にも負けないほどの輝きが辺りを照らした。
その光に、一瞬怯むドラゴン。
その隙に、何とか扉の奥に入ることができた。
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