第13話 苦戦
【第13話】苦戦
外では、イランが暴れ散らしている。おそらく涼を探しているのだろう。
自分の村を破壊するその姿に、かつての面影なんてない。ただ、本能で動くだけの魔物だ。
「なにしてんだ? 俺はここだ」
返事代わりに飛んできたのは拳だった。だが相変わらず直線的な攻撃だ。避けるのは簡単だった。
(これで……)
攻撃を避けたと同時に涼はナイフを取り出し、心臓目掛けてダッシュする。
(あの女は心臓にと言ってた。多分、他の箇所にこれで攻撃しても意味はないんだろう……なら!)
図体がでかい分、動きは遅かった。涼は、イランの攻撃を避けながら胸部に簡単に到着する。
そして、躊躇なくナイフを心臓に突き刺した。
ガキン!
「っな!」
だが、ナイフは突き刺さらなかった。鉄と鉄がぶつかる音がし、涼の一撃は、意図も簡単に返されたのだ。
胸の部分を確認すると、そこは銀色に変化していた。
突き刺したあの感触を思い出す。
(あいつ……もしかして、装甲を!)
胸を守るために無意識に出したのだろう。強度は、おそらく鉄以上。
「グオオオォォォ!!」
ブン!
瞬時にイランの身体から離れ、距離を取ろうとしたが、その隙を狙われ再び攻撃が飛んでくる。
涼はまた、冷静に攻撃を見て避けようとした。
(まだ、チャンスはある……それに向こうの攻撃は……!?)
ブシュ!
さっきと同じ速度で避けた筈だった。しかし、涼の頬から血が流れ始める。
(かすめた!? あいつスピードが……)
直線的な攻撃には変わりはない。しかし、放たれるスピードは上がってきていた。
(やっぱり……気のせいじゃない。あいつ速くなってやがる!)
1度目より2度目、2度目より3度目の方が、拳の速度が上がっている。まるで、イラン自身のレベルが上がってるかのように。
ブン! ブン! ブン!
がむしゃらに繰り出される攻撃。涼は、それを避けるのに精一杯だった。
(っくそ! こうも連続で攻撃をされちゃ、こっちの攻撃を仕掛けるタイミングがない!)
防戦一方。攻撃を仕掛ける隙を探すも見つからない。
考えているこの瞬間にも、イランの攻撃は飛んでくる。
さらにスピードを増して。
ドゴン!!
「っぐ!」『『波動』』
最初よりも数倍早い攻撃。ついに涼が動く速度よりも速くなったのだ。咄嗟に出した【波動】で軽減をするも、またしても吹っ飛ばされてしまう。
「っが!」
速度が速くなっているということはその分威力も上がっている。最初と威力が変わっていない【波動】での軽減量は微々たるものだった。壁に叩きつけられ一瞬息ができなくなる。視界がグワングワンと目が回ったように歪んでいた。
「グオオオォォォ!!」
雄叫びを上げ、こちらに向かって走ってきているが、まだ視界が回復していない涼は、立ち上がろうにもふらついてしまう。手を前に出し追撃をしないように構えた時だった。
魔法を獲得しました。
何かを獲得したらしい。頭の中でアナウンスのような声が聴こえてくる。
(何でもいい……今この状況を打開する魔法を……)
魔法【波動(
【波動】の衝撃波を1点にまとめた【波動】の集中型。
もうこれに掛けるしかなかった。
左手に【波動】を作り出すと、それを握りしめた。手の中で、作られた【波動】が小さくなっていくのが分かる。
涼は、それを視界が回復しきれていない両目で狙いを定めると、野球ボールを投げるように、放った。
キュイイイイイイン!!!
高速ドリルが放つような音が鳴り響き、球体型の【波動】は、イランの身体に一直線に向かっていった。
ドガーーーン!!
涼が放った新魔法は見事に命中した。小さい球の中に詰められた衝撃波は、命中と同時に破裂し、大爆発が起こる。その威力は凄まじく、【波動】ではびくともしなかったイランがその場に止まったのだ。
「ガガ、ググ!!」
その衝撃に左手は吹き飛び苦悶の声を上げたまま膝をつく。
今こそチャンス! 誰もがそう思う場面だが、膝をついたのはイランだけではなかった。
「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」
予想以上のスタミナ量に涼の息が荒れだし、過呼吸になっていた。
(息が……整わない………そもそも……今日……何回……魔法を……)
この世界に来て魔法に関して分かったことがある。大抵のゲームには【MP】というのを消費するのが一般的ではないだろうか? しかし、この世界では違う。
この世界で魔法を使用した場合に消費するのはスタミナだ。つまり、使えば使うほど体力が奪われていき、最終的には1歩も動かなくなってしまう。
スタミナは一定時間休憩すれば、当然回復するのだが、それは今すぐではない。現実の世界でも、
激しい運動をした後に完全に回復するのは次の日とかだろう。
しかも、この前の戦闘で魔法を数回使用した後、すぐにイランとの連戦している。元々万全の状態ではなかったのだ。
「ふぅ……ふぅ……」
呼吸がある程度落ち着き、視界も回復してきた。
しかしそれは、イランも同じだった。吹き飛んだ左腕はすでに再生しており元通りになっていた。
(この魔法はそう連発はできない……でも、全てを出しきらないと勝てない……覚悟を決めるか)
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