第14話 決着

【第14話】決着



 現実は辛い……だけど前を向かないといけない? そんなのは綺麗事だ。辛いときに前なんて向けるわけない。

そんな状態で前なんて向いても、まっすぐ歩けるわけなんてない。

結局無理して、闇に呑まれた人間が辿る道は……

希望なんてない暗闇だ。


 でも、まだ光が見えるなら……あなたはまだ、もがきますか?



ーーーーーーーーーーーーーーーー



『『波動』』


【波動】の力をブースター代わりにし、イランに突っ込む。もう魔法はあまり使えない。使う度に身体が悲鳴を上げているのがわかる。だけど、今の涼にはそんなのは気にしていられなかった。


(狙いは変わらない。あの心臓だ!)


【波動】で爆発的なスピードを得た涼は、そのままイランに近づく。

だが、イランもそれを黙って見ているつもりはない。

当然、涼に向かって攻撃を仕掛けてくる。


「グオオオォォォ!!」


 ブン!! ブン!! ブン!!


 涼はイランの攻撃を掻い潜り、1度も被弾することなく近づくことができた。そのままジャンプしさらに近づく。ジャンプ前に溜めていた【波動】を握りつぶす。


(さっきは、装甲みたいので防がれた……だけど、新しい魔法なら、あれを剥がせる筈だ!)


 心臓まで、あと数メートルというところまで迫り、右手を前に出し新魔法を放とうとした。


 シュル! シュル!


 しかし、前に出そうにも出せなかった。何故なら、

触手のような長細い突起がイランの身体から生え、それが涼の両手に絡み付いていたからだ。


「っく!!」


 空中で身動きが取れず、イランが腕を上に上げ、涼目掛けて叩き潰そうとしている。


(早く逃げないと! 攻撃がっ!?)


 ドゴン!!!


 必死に離れようと暴れたが、逃れられず振り上げられた腕は、勢いよく振り下ろされ涼は地面に叩きつけられる。


「っぐは!」


 イランは再び腕を振り上げる。そして振り下ろす。

イランの猛打が涼を襲う。一撃一撃が人を粉々にする威力。少しでも軽減するため手をクロスさせ、それに耐える。


 ドン! ドン! ドン!


「い、いい加減に……しろ!」


『『波動(剛)』』


 放った魔法は、イランの顔面に直撃し、首から上を吹っ飛ばす。


「はぁ……はぁ……っブ!」


 何とかその場から離れることができたが、口と鼻から血が吹きでる。そして、そのまま地面に倒れ込んでしまう。原因は分かっていた。イランの攻撃のダメージの蓄積と、魔法の使いすぎによる疲労。涼の体力はわずかしか残されていない。


(まだ…………まだあいつを倒していない。動け……動け……)


 手足に力を入れても動く様子がない。


「ググ……」


 イランはまだ顔を再生しきれていない。だが、身体に生えている無数の触手は動いている。

それは、スピードを増しながら涼に向かって伸び始めていた。


 シュルルルルル!!


(攻撃が来る……動け……動け!)


 イランは涼の身体を貫こうと、上空に浮かんでいる無数の触手は勢いよく降下を初め……そのまま……


 ズン!



ーーーーーーーーーーーーーーーー



「この世界がゲームの世界ならよかったのにね」



ーーーーーーーーーーーーーーーー



「っぐ! があぁぁぁぁ!!!」


 寸前で触手をかわす、しかし完全には避けきれず涼の肩を貫く。

だが、そんなのは気にしなかった。

肩に突き刺さった触手を剣で切り裂くと同時に走り出す。


『『波動』』


 先ほどと同じように【波動】をブーストにし、突っ込む。


(もう、これ以上チャンスはない! これで……決めるんだ!)


 まだ再生は終わってない。今は無防備な状態だ。


 シュルルル!!


 だが、そう甘くはなかった。半分の触手を防御に、もう半分の触手を攻撃に使い、涼を襲う。


 ブシュ! ブシ!


 何度か攻撃を食らい、その度に出血するが、止まらない。そして最後の力を振り絞り左手に【波動】を作り出すと、それを握りつぶす。


(まだ……まだだ)


 確実に当たる距離まで走り続ける。イランの攻撃による出血、魔法の使いすぎによる過呼吸状態と吐血。これを外せば、負ける。


「ッガフ! ま……だ……だ! もう……少し!」


 血を吐こうが、疲れてようが足は止めない。チャンスを逃さないために。


(まだ……近づける……あと少……)


 ズン!


「っ!?」


 触手の1本が足を貫いた。その攻撃により、体勢が崩れ、地面にうつ伏せで倒れる。倒れた涼に止めを刺そうと触手が一斉に襲いかかる。

だけど、涼はまだ諦めてなかった。


(まだ……動く。まだ終わってない!)


 バシュ!


 地面に【波動】を放ち、その勢いで身体を空中へと打ち上げる。その出来事により触手は、イランは、一瞬だけ涼を見失った。

待ち続けたチャンスが訪れたのだ!


「これで……終わりだ!」


『『波動(剛)』』


 ドガーン!!


 溜めていた【波動】を放ち、その一撃は触手の防御、胸の装甲を貫通し、

胸が剥き出しになる。涼は持っていたナイフを持ち、さらに空中で【波動】を放つ。そしてその勢いのまま胸に到着する。


「これは、お前の大切な人からのプレゼントだ……受けとれ……」


 涼はナイフを突き刺した。その瞬間、刺した箇所から光が溢れだしイランを包みはじめる。


「グガァァァ!! コ、コレハ! カーラノ……」


 突き刺されたナイフを見た瞬間、先程まであった殺意が消えたような感じがした。


「ソウカ……ボクハ……マケタノカ」


 醜くでかくなった身体が、徐々に小さくなっていく。

そして、顔も元の爽やかな青年顔に戻っていった。


「ありがとう……涼。僕を殺してくれて……これでようやく……カーラに会いに……い……け……る……」


 イランの身体が光だすと、そのまま小さな光の玉に変化する。そしてそれは、上空へと登っていった。


(空が……)


 暗かった空が明るくなっていく。霧も晴れ、今までの出来事が嘘だったかのように静寂が訪れた。


 ッバタ!


 限界を向かえた涼は力尽きたのか。涼はそのまま倒れ目を閉じた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



 光の中で1人の青年が、透明な階段を昇ろうと足を踏み出している。この先に何があるのかは分からなかった。だけど昇れば、もう戻っては来れない事だけはわかった。

登ろうとした時、青年の足は止まる。


「カーラ……」


 1人の少女が青年の顔をじっと見つめていたからだ。


「僕は……結局弱いままだったよ……独りじゃ何もできないんだって思いしらされた……カーラもこんな僕は弱いって思うだろ?」


 少女は首を横に振り、小さく笑った。


「弱いさ……僕は罪を犯したんだ……人殺しっていう重い罪を……僕にはカーラ達と同じ場所に行く資格なんてない……」


 少女は青年の身体を抱きしめる。その瞬間、青年の瞳から涙が溢れ始める。


「ごめん……ごめん……こんな弱い僕で……僕は君を守れなかった……僕がもっと強ければ……母さんも父さんも村長もカーラも死ぬことなんてなかったんだ!」


 涙が止まらなかった。悔しかった。弱い自分が。

少女はそんな青年をもっと強く抱きしめる。


 ごめんなさい……


「え?」


 その時、少女の声が聞こえてくる。耳元ではなく、頭の中に。


 あなた1人に全てを背負わせてしまった……

私は、貴方を救ってあげられなかった……


「そんな……僕は……」


 その時、少女の身体が光始める。


「カーラ!」


 私には、もう時間が無い……元々この世にはもう居ないから……でもイラン。貴方はまだ生きている。だからお願い……私達の分まで……生きてほしい。


「そんな……無理だよ……僕独りじゃ……」


 独りじゃない。居るでしょ? 貴方を理解してくれる人が……まだ。


「っあ……」


 もう一度だけ私を信じほしい……そして、第2の人生を歩んでほしい……君は独りじゃ……な……い


 少女は光の中に消え、静寂だけが残った。


「ありがとうカーラ……僕を救ってくれて……

ありがとう、僕に命をくれて……」



ーーーーーーーーーーーーーーーー



「なーんでお前がまだ居るんだ……」


 丸3日くらい寝ていた涼が目を覚ました時、成仏したと思われていたイランが目の前に居た。最初こそ身構えたが、イランにそんな気がないのが分かった瞬間、気が抜けた。


「え? なんか幼馴染みに怒られちゃって……まだ生きなきゃ駄目だろ! だってさ」

「お前を殺すためのナイフ。そいつから貰ったんだが……」

「あ、あと君に付いていくから宜しくね!」

「ふざけんな。付いてくんな」

「まぁそんなこと言われても付いていくけどね!」


 どうやら、涼の旅に着いていくと勝手に決めたらしい。涼は嫌がったがイランはそれを聞く様子はなかった。それを見た涼はため息をつくと「勝手にしろ」と言った。


(カーラ。僕は生きて見せるよ。この世界をおもいっきり)


 その時、何かがイランの背中を叩いた気がした。後ろを振り向いても誰も居ない。だけど、イランは笑った。


「そもそもお前。この村から出れんのか?」

「あ~それなら大丈夫。なぜか知らないけど」


(宜しくね涼。それと今度は僕が君にお返しする番だ。恩返しするまで離れるつもりはないよ)


 この世界はゲームの世界かもしれない。だが、決められた行動をする魔物や、決められた台詞しか言わないNPCは居なかった。意思を、心を持っていた。

何で、この世界に来たのかは分からない。

ただ、俺はこの世界で生きることを決めた。

この世界で俺は、第2の人生を送る。


第1章 異世界転移~完~

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