第6話 格上の相手

【第6話】格上の相手



 こうしてイランに自分の名前を打ち明けた涼だったが、早速後悔することになる。


「ねぇねぇ、涼はどこ生まれ?」

「言ってもお前にはわからない」

「はははは! 確かに! じゃあさ……」


 後悔した理由は、こんな感じで質問責めが止まらないからだ。よっぽど誰かと話せるのがうれしかったのだろう。

好きな食べ物や好きな季節など、誰得なのかわからない質問を涼にし続けていた。

 その全ての問いに対し、曖昧な返ししかしていないが、イランにとってはそれで十分だったのだろう。

だが、話すこと自体が苦手な涼にとってはただの地獄でしかなかった。


(安易に名前を教えるんじゃなかった……いつになったらこいつのお喋りは終わるんだ……)


 終わらないイランとの会話に、はぁ~と小さなため息をついた時、イランがこんな問いを投げた。


「あ、そうそう。涼ってさ。今大切な人居る?」


 一瞬言葉が詰まる。

何で今、そんなことを言われたのか分からなかった。

だが、さっきまでとは違うトーンで言われた涼は少し驚いたが、冷静に返す。


「なんだ急に……」

「いや、居るかな~って思っただけこんな所まで

旅しているわけだしもし居るなら心配にならない? 僕は居るよ。正確にはだけどね」


 その問いの答えは……「そんなのは居ない」だった。

そんなのが居れば今すぐにでも現実の世界に帰りたいと思うはずだ。

だが、今はそんなことを微塵も思っていない。

それどころか現実には帰りたくないという気持ちの方が強かった。


「そっか……あ、着いたよ」


 そんな話をしてると目的地らしき場所に着いた。

そこは神社にあるような木々が左右に並んでおり、その先に真っ暗な道が続いていた。


「ここだよ。それじゃあ気を付けて行ってきてね」

「………お前は?」

「ん? 僕はここで待ってるよ。ほら行っても意味ないし」


 少し小さめの声で言うその言葉に少し疑問を抱いたが、気にしないことにした。一緒に入る入らないなどどうでもよかったからだ。

 そして、奥に進もうとする涼にイランが言った。


「ねぇ、僕たちって似てるね」


 その的外れな言葉に足を止める。涼は、イランのように楽観的でもおしゃべりでもない。

それどころか、イランとは真逆な性格さえある。


「似てないだろ」


 涼は振り向かずにそう返す。だが、イランは……「ううん。似てるよ」と返した。

その言葉の意味は? 考えても仕方ないと、イランを無視し先を進んだ。その時、後ろから冷たい風が吹いた気がした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



 真っ暗な道をただまっすぐ進んだ。どこに続いているのか、どこまで続いているのかはわからない。

だが、ここから出るためと足を止めることはなかった。


(ん? あの光は……)


 歩き始めて数分、たどり着いたのは祭りなどで光と使われている提灯ちょうちんのような飾りが

無数に浮いている場所だった。それは紫色に不気味に輝いていた。


(あれか……)


 そんな提灯の先に見えたのは、イランが言っていた装置だろう。その形は日本でも置いてある仏壇のような形をしていた。


(これを壊せば……)


 ここから出られる。だが、そう簡単にはいかなそうだった。なぜなら………それが立っていたからだ。


 スケルトンキング Lv28 種族:魔物

スキル

・剣術中級者

・格闘中級者


【剣術中級者】

剣の扱いが上手くなり、頭の中で思い描いた動きができる

【格闘中級者】

武の扱いが上手くなり、頭の中で思い描いた動きができる


 異様な雰囲気を放っているの後ろには、無数の骨が転がっていた。

それはバラバラになっており村に入って来た時に襲い掛かってきた魔物とは一つ違う点があった。それは、頭だけが無かったことだ。


「去れ」

「っ!?」


 考えていると脳内に老人のような声が聞こえてくる。その不思議な現象に少し驚く。


「今から去ればお前に危害を加えない」


 この謎の声を発している原因は十中八九だろう。懐に差している木刀を取り出す。

戻ってもここから出られなきゃ意味がない。


「あんたには悪いが、俺はここから出なきゃならないんだ」

「そうか……なら容赦はしない」


 そういうと魔物は地面に落ちていた鉄製の剣を取り構えた。その時、涼に緊張が走る。

構えだけでわかる。今までの魔物の比じゃないと。


(なんだ……手が……震える)


「行くぞ」


 瞬間、魔物の姿が目の前から消えた。一瞬で涼の懐に潜り込んでいたのだ。


「っ!?」


 目にも止まらない速さで斬撃が飛んでくる。

涼は咄嵯の判断で横に飛び、避ける。


「っく!」


 体勢を整え足に力を入れると、思い切り地面を蹴る。

自前のスピードで今度は涼が距離を詰めると、おもいっきり木刀を振り下ろした。


 ガキィン!!


 だが、渾身の一撃は難なく受け止められる。


「ちぃ!」


 残った左手で【波動】を放つ。だが……


 トン


 その一撃もわかっていたかのように、左手を軽く右に押され【波動】の軌道が左にずれる。

そのせいで体制が崩れる。奴はそれを見逃さなかった。足を前に出し、涼の腹部を蹴る。

ドス! という鈍い音ともに背後に吹き飛ばされる。


「っが!」


 今の涼のレベルは18。レベルだけ見れば奴のほうが上だが、

森で戦った魔物は倍以上のレベル差でも勝てた。だから、今回も勝てると思っていたが。

だが、今回と前回では決定的な違いがある。それは知能の差だ。


 あの時の【キングキラーラビット】には、おそらく動物としての本能しかなかった。普通、人間と動物では身体能力に差がありすぎる。素手での戦いでは動物には勝てない。だが、それでも人間が生物として頂点に立てたのは、知能が他の生物と比べずば抜けて高かったからだ。


 しかし、今回は違った。目の前にいるあいつは、まるで人間のように考え、喋り、動いてくる。


(知能があるのとないのとじゃこうも違うか。あいつに小細工が通じない……)


 それに加えて剣術の腕、スピード、剣の性能面で負けている。


(まいったな……)

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