第5話 幽霊になった青年イラン
【第5話】幽霊になった青年イラン
(5体か……)
ヒュン!
魔物が放った矢が涼の目の前に飛んでくる。だが、動体視力がもはや常人離れしている涼には当たらない。
簡単に避けると、ダッシュする。
(そんな筋力の欠片もない身体でよく射てるな。まぁそんなのはどうだっていい)
目で追えないほどのスピードで一瞬で距離を詰めると1体、また1体と身体を真っ二つにする。
ザン!
最後の1体を倒し、顔を上げた瞬間、スケルトンとは違う何かが、涼の前に現れた。
「っ!?」
少し驚きながらも、涼はそれを斬ろうとした。
「わぁぁぁ!! 待って待って!」
そこには半透明の姿をした人間顔の魔物? なのか何なのかよくわからないのがフワフワと浮かんでいた。
「ふ~危ない……ていうか僕のこと見えるの?」
「………ああ」
見た目は、現実で例えるなら幽霊と言った方が分かりやすいだろう。
しかし、顔をよく見ると霊とは程遠い、爽やかな青年顔だった。年は20行くか行かないかくらいだ。
だいぶ若い。
「何もないところだけどゆっくりしていってよ。と言ってもここ一帯は魔物だらけだけどね。あ、自己紹介忘れてた。僕はイラン。ここ【ソリダス】出身なんだ」
「…………」
そんな緊張のカケラもない口調で喋りかけてくるそれを無視してその場を離れようと足を動かした瞬間、イランと名乗る正体不明の物体が口を開く。
「そういえば、ここって
「……外部から入れて内部から出られないなんて変だろ」
「あ、やっと喋った」
その話を聞いて結界というのがこの世界に存在するのは分かった。
だが、そういうのは普通外部から守るためにあるはずだ。それが、全く機能していないどころか内部から出られないという訳がわからない状態になっている。
「この村には1年ほど前に結界を作り出すための装置があったんだけど、魔物が襲来した時にその装置で何かが起こったらしいんだよね。多分だけど外部と内部が逆になったんだと思うんだ。知らないけど」
(なるほどな。それでここから出られなかったのか)
「それでお願いなんだけど……その装置を壊して欲しいんだけど。いい? 僕もここから出られなくてですね」
「お前が壊しに行けばいいだろ」
「え? この身体でどうやって? 君目ん玉ついてる?」
うざい返し方をされたが、確かにその通りだった。
【情報】で確認してもモヤがかかっていて上手く表示がされない。恐らくだが、戦力という概念が存在しないんだろう。
(こいつのお願いってのが癪だが、ここから出るためにはどっちみちって感じか……)
「それで……いいかな? お願いしても」
「ああ」
「本当! それじゃあ早速行こう!」
そう言うと涼の前に立つ。
「何でお前も着いてくるんだ」
「だって君、道わかんないでしょ?」
「……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「そういえば名前聞いてなかったね。何て名前なの?」
「答える義理はない」
「君って冷たいね……」
あれから一緒に目的地まで行くことになったが、イランがやたらと話しかけてくる。誰かと話すこと事態が苦手な涼にとってはそれが地獄だった。
(この世界で初めて会話した相手がこんなやつとはな……)
「あ、ちょっと待って」
進んでいると突然、涼を呼び止める。
「なんだ……」
「いや、ちょっとね。その先には行かないで欲しいんだ」
イランが目線を送る先にはおそらく家だったであろう建物の瓦礫だけがあった。正直、他の建物との違いが涼にはわからなかった。
「その先に僕が生きてた頃に住んでた家があるんだ。ほら一応さ……僕が使ってた物とかが残ってるかもだし、他人に見られるのは恥ずかしいんだよ。ほらこっちの道から行こうよ」
何だ。そんなことかと思った涼は素直にそれに従った。人の家なんて興味はないし、早くここから出たかったからだ。
(それにしてもこいつ……本当に霊だったんだな……)
「着くまでまだ時間あるからさ。何か君の事聞かせてよ」
「お前に聞かせる話なんてない。黙って案内しろ」
「え~いいじゃん別に」
まるで小さな子供のように駄々をこね始める。
めんどくさいやつに絡まれたと内心思っていた涼は、無視を貫くをした。
「……」
無言で歩く涼を見たイランは、諦めたかのように大きくため息をついた。
「ちぇ、せっかく話せる人に出会ったのにこれじゃあつまんないよ」
「…………」
「あ~あ暇だな~!」
耳元で叫ぶように話すイランに段々腹が立ってくる。
無視しても声のボリュームが上がるというくそみたいな事がわかった涼は、諦めて少しだけ話すことにした。
「話せる奴なんてその辺に居るだろ」
「居ないよ話せる奴なんて」
「は?」
(確かにこの村に来てから、こいつ以外で喋る奴とは出くわしてないな……あの魔物も一言も発っさなかったな。こいつだけが何で?)
「僕だけ特別みたいなんだよね。でもみんなは違う。人を襲う魔物になっちゃった。まぁ別にどうでもいいけど」
そう言うイランの顔はどこか悲しげだった。
「ただ、みんなみたいに何も考えずに動く者を襲う魔物になってればどれだけ楽だったか。なんてことを思うんだよね。心なんてあっても邪魔なだけなのに」
さっきまでの明るい雰囲気とは一変し、暗い表情を見せる。それに感化されたのか涼が口を開いた。
「涼」
「え?」
「水原涼。俺の名前だ」
(この村から出れば、もうこいつとは会うことなんてないだろ………少しだけ暇潰しができたと考えよう)
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