第7話 知能戦
【第7話】知能戦
今はまだかろうじて奴の攻撃を避けられているが、
相手のスキルもあいまって詰め将棋のように少しずつ追い詰められていく。
ッチ!
ついに額を奴の剣がかすめた。反撃をするも、涼の攻撃はかすりもしない。
ギィン!!
つばぜり合いにもっていけたが、力も技術も相手が上。今のままでは勝てない。どうするか。そう考えている時、奴は涼に問いかけてきた。
「結界を壊してどうする? あれを壊せば、ここに魔物が入ってくる。私は村の人達を守らなければならない。それが私の使命だからだ!」
それはまるで、自分が過去に人間だったかのような口振りだった。この世界では、死んだら魔物に変わるのだろうか? そんなことを考えてる時間なんて今の涼にはなかった。
「魔物? 何言ってんだ? それはお前だろ……村の奴らなんて居ない……」
結界を壊そうと壊さまいと結果はあまり変わらない。
それに村人なんてもうこの村には居ない。
「でたらめを言うな!」
「っく!」
涼の一言に怒ったのか押す力が増し、木刀がミシミシと悲鳴をあげている。
「まだ村の皆は生きている! 誰も死んでいない!!」
錯乱しているのか、意味が分からないことを言い出す。
だが、剣に込める力は増している。
(こいつ、力が!)
バキン!
その力に耐えきらなかったのか、木刀は真っ二つに折れ、涼は得物を失ってしまう。
(っち! こいつを倒すは無理だ。せめて結界だけでも壊さないと)
今のレベルと力では勝てないと判断した涼は、倒すことは諦め、結界だけに集中することにする。
だが、どうやって壊す? 隙なんてあるのだろうか。
ブォォォォン
何か考えがあるのだろうか。涼は両手に【波動】を溜めると目を閉じ集中する。
(このレベルで魔法を打てる回数は、多くて10回だ。それ以内で決める!)
目を開けると、奴に突っ込んだ。
「血迷ったか! それとも、もう諦めたのかぁぁ!!」
相手からすれば、ただ真っ正面から突っ込んできているように見えている。格好の餌食だろう。剣を振り上げ、涼の頭目掛けて振り下ろした。
その瞬間、左手を左に伸ばして放った。
『『波動』』
その衝撃波の反動で、一瞬だが通常倍以上の速度で、距離を離すことに成功した。
しかし、まだ終わっていない。ものすごい速度で接近してきているのがわかる。
それを見て、涼はニヤリと笑った。
(今だ!)
今度は【波動】を自分の真下に放ち、大ジャンプ。奴の頭上を越える。
さらに空中で両手を後ろに伸ばし、再度【波動】そのスピードで一気に結界の元まで駆け抜けた。
(よし。奴と結界を離すことができた。あとは結界のところまで行って壊すだけだ)
そう、涼の狙いは結界と奴を遠ざけることだった。
「っく! 待て!!」
今さら気づいても遅かった。涼はすでに仏壇の前に居たからだ。
(あいつには加速系のスキルはない。この距離なら、追いつくまでに壊せる。結界は……これか!)
手に取ったのは、黒い箱だった。それを開け、中を見た涼は絶句する。
箱を逆さにし、出てきたのは、大量の人の頭蓋骨だった。
(これは、こいつらの……)
頭のない白骨化した死体を見てそう確信する。
カランカラン!
その時、剣が地面に落ちる音が聞こえてくる。
「そうか。思い出した……村の人たちは私が……」
そこには、先ほどまで涼と戦っていた奴が、落ちている頭蓋骨を見たからだろうか。
地面に膝をつき、俯いていた。
「私は守れなかったのか……すまない。カーラ……イラン……」
そう言い残すと、そのまま動かなくなってしまった。
(なんだったんだ……まぁいい。結界ってのはどれだ……ん? これは……)
仏壇の真ん中に手紙のような物が置かれていた。
それは血のようなもので汚れていた。中身を開けると
そこにはガタガタな字でこう書かれていた。
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私は、この手で、村人全員を殺した。魔物に殺されるくらいならと
皆、私にお願いをしてきた。ここには結界があるから大丈夫と言い聞かせるが
それは村人に恐怖と不安を増大させるだけだった。私は震える手を黙らせると、剣を持つ。
1人、また1人と殺すたびに涙が溢れて止まらなかった。
そして今、全員をこの手で殺した。
血を流しすぎたのか。意識が朦朧としてきた。
私もすぐにそちらに向かう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その手紙の内容は悲痛なものだった。これを書いたのは……
涼は倒れている【スケルトンキング】を見る。
(もしかしたら生前は人間だったのかもな)
人が死後、骨になって復活するなんて普通はない。
そんなのはアニメなどの世界だけの話だ。
だが、ここは現実の世界じゃない。
(もし、そうだとしても俺には関係ない……それにしても結界は結局どれだ……)
涼の目的は結界の破壊だ。だが、それらしき物は見当たらない。
(あと残ってるのはこれか……まさかこれか?)
そこには小さな袋が置かれていた。結界と言えば巨大な何かを想像していたが……案外こういうのかもしれないと思った涼は、その袋を開けようとした。
「待って」
また頭の中で声が聞こえる。だが、先ほどとは違ったのは女の声だったこと。
「それを開けないで」
その言葉に、涼は怒り寸前だった。わけわからない町に閉じ込められ、その原因である結界を壊そうとすると誰かが邪魔してくるからだ。
「悪いが、俺はもう出たいんだ。お前らがどうなろうと俺の知ったこっちゃない」
「お願い……イランのために……私は……」
その言葉に、手が止まる。さっきの奴も言っていた
「時間……が……お願……い……イラ……ンを……彼……を……助けて……」
ぶつぶつと言葉が途切れ途切れになっていた。「何のことだ?」そう聞いたが、帰ってきたのは沈黙だった。それから、彼女の声が聞こえてくることはなかった。
涼は迷ったが手に持っていた袋を仏壇に戻すことにした。
(何だったんだ…………ん?)
帰る途中、地面に目をやると、銀色に輝く剣が落ちていることに気づいた。先ほど戦った奴のだろう。
それを拾い上げると腰に差した。
「悪いが、貰っていくぞ」
その時、村へと続く道からまた、冷たい風が吹いた気がした。
(イラン……もしかしてあいつ……)
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