第5話


 琴実ブチギレ事件から数分経ち、ひとまずメンバー全員から改めて自己紹介をしてもらう事に。

 

「えーっと、改めて……私が二年生で部長の服部正子で、こちらのさっき気功をぶっ放した人が三年生で副部長の風魔琴実(ふうま ことみ)」

「誰のせいだと思ってるんですか?」

「あーもうそういうの良いから早くして」

「あ、すみません……。副部長の風魔琴実です。主に皆のお手伝いをしています」

 

 協力して何か作る系の部活でいる何でも屋枠ね。

 なるほど。

 まあ……さっきの見てるとこいつがただの何でも屋で良いのかという気はするけど。

 アイドルよりストーカー撃退係の方が向いてる気がする。

 こいつらをストーカーする奴……というかこいつらにファンがいるのか分かんないけど。

 

「普段は実家の武道寺のお手伝いをしています」

「あのこれだけ聞いて良い?」

「はい」

「さっきの気功って、アンタの寺にいる人間皆使えんの?」

「個人差はありますが、修行を積めば誰でも使える可能性があります」

「私でも?」

「ええ」

 

 ここはドラゴン〇ールの世界だったのか……?

 

「まあ私の事より、次は優さんと道女さんの番ですよ」

 

 もう変態女と琴実パイセンでお腹いっぱいだよ。

 

「じゃあ俺から……俺は百道優(ももち ゆう)。正子と一緒にダンスの振り付けを考えてる。よろしくな」

「よろっす」

「……」

 

 私は会釈がすると、優が道女に目を向ける。

 

「……」

「お前の番だぞ」

「ゆ、優ちゃん……わ、私緊張しちゃって……」

「何も緊張する事なんてねえから、落ち着いていこうぜ」

「う、うん」

 

 ホントにアイドルなのか? この眼鏡……。

 

「そ、その……いい伊賀崎道女(いがさき みちめ)ですすす。よ、よろしくおねねがががいしまます」

「うん、よろしく」

 

 そのまま今度は優の後ろに。

 

「しょうがねぇなぁ……」

 

 頭を掻く優。

 全員が自己紹介したのを確認してから、今度は正子が私の事を紹介する。

 

「で、皆もう知ってると思うけど……新入部員

「は?」

「じゃなくて、アクロバットの講師として来てくれた杉谷寿奈。一応自己紹介頼んで良い?」

「へいへい」

 

 私もそんなに自己紹介は得意じゃない。

 むしろ苦手だ。

 まあ簡潔に言えば良いか。

 

「一年の杉谷寿奈っす。よろしく」

「よろしくお願いします」

 

 琴実が丁寧にお辞儀し、正子は拍手。

 優は無反応、道女は隠れてて分からん。

 

「さて。じゃあ前にも言ったけど、私達に足りないものを取り入れようという事で、ここにいる寿奈にアクロバットを教わる事になったから、皆気を引き締めていくわよ」

 

 自己紹介終了してすぐに、正子はマシンガンの如く話題を撃ちこんでいく。

 

「で、確かまずは私達が踊る所を見たいんだっけ?」

「まあ、そうしないとアンタらがどれだけ出来るのかとか分からないからね。なんか今から出来そうな奴はある?」

「そうね……二月の冬季大会で踊った奴とかで良い?」

「それで良い。今から出来る?」

「勿論よ。見てなさい、私達の踊りを」

 

 自信満々な正子の笑顔。

 アクロバットを教わりたいと言ってきたのだ。

 そんな酷い踊りはするまい……。

 

※※※

 

 少し待っててと告げた正子。

 何やら打ち合せをしてから、四人で机や荷物を動かし、何とか狭い部室にライブステージ並みの空間を準備。

 照明もマイクもなく、音源もスマホ。

 衣装も着ていない……が、準備を終えて四人で立つ姿は、一人前という感じだ。

 イメージとしては、そこそこの人に認知されてる感じのアイドルってとこだろうか。

 超人気というわけでもないが、売れていないというわけでもない感じの。

 

「……」

 

 ステージ……を模した空間に立つ正子の自信に満ちた表情。

 その表情は、私の親友を彷彿とさせた。

 

 親友は私のような紛い物と違う、本物の天才だった。

 天才集団が揃う私の出身中学で常に一位を取り続ける程の学力、スポーツに芸術……何をやらせても人並み以上に出来る程の万能さと器用さ、そして常に人の目を惹く魅力と容姿。

 私も顔は人並み以上に整っていると何度も言われた事があるが、私は逆にそれが人を遠ざけてしまう理由になったのに対して、彼女は自分の魅力を、人を惹きつけるのに上手く利用していた。

 ただ何かが出来たり、見た目が美しかったりというだけでなく、それを使って人に尊敬される術を知っていたし、仮に嫉妬されたとしても、彼女が常に持っていた絶対的な自信の前ではその感情は塵にもならない。

 私と違って、ちゃんと自分が尊敬される方法を知っていた。

 

 今ステージに立つ、正子もそうだ。

 どうしようもないくらいの馬鹿だし、容姿も別に取り立てて良いわけでもないが、今の彼女の姿はとても美しく見えるし、思わず憧れてしまいそうだ。

私から見れば彼女の立ち姿は一流のアイドルだ。

 それこそ……ホントにテレビの中にいるような。

 今から、それが動き出す。

 

『~♪』

 

 タイマーで設定していたスマホから、音源が勢いよく再生される。

 そしてセンターの琴実が、カッコよくポーズを決めてワンフレーズ目を歌う。

 

「~♪」

 

 凄い……。

 だが、そう思ったのも束の間だった。

 

「わっ!」

 

 道女がダンスすら出来ずに転んでしまう。

 緊張が原因で上手く動けなかったのだろう。

 

「道女さん!」

 

 思わず琴実が助けに。

 プロのアイドルなら、多少のアクシデントなら何とか誤魔化すパターンもあるが、彼女らはあくまでアマチュア。

 そんな事が出来る筈も……。

 

「!!」

 

 と、そんな事を考えている隙に耳を突き刺すような不快な歌声。

 犯人は優。

 音程も何もかもが無茶苦茶で、黒板を爪で引っかいた時の音並みに不快だ。

 吐き気がする。

 そんな状態でも正子は、歌い続け、踊り続ける。

 後ろの惨状に気付いていないかのように。

 恐らく気付いている……が、自分がダンスを続ける事でカバーしようとしているのだろう。

 だがとても誤魔化しきれていない。

 それどころか、正子は踊り続けられてはいるが、お世辞にも物凄く上手いとは言えない。

 何というか……下手とも言えないが、褒められる点がない。

 あの程度のダンス力で、アクロバットを教わろうとしているのだろうか。

 

「……」

 

 この模擬ライブが終わる前に、私は気付いた。

 このグループはプロのアイドルどころか、そもそもアイドルを名乗るにはお粗末過ぎる者達の集まり。

 この酷い踊りや歌の中でアクロバットを入れたところで、とても人気になるとは思えない。

 私は……正子の話を引き受けた事をもう一度後悔した。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る