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 サンダーホーク公爵家の穏やかな食事のあと、父ジョシュアと兄リチャードは執務室で今後の対応を相談していた。


「王宮を辞するのは確定だがさて・・・陛下の治世に文句はないのだが」

「王妃と息子を放置して来ただけでもボンクラだと思いますけどね」


 リチャードの辛辣な物言いに苦笑するしかない。

 

 王妃マルグリットのロザンナへの執着は彼女の茶会デビューから始まったのそうだ。


 近寄ってくることはないが必ずよく見えるところからロザンナを凝視していた。

 ロザンナは自身が話題になったり、見つめられたりすることには慣れていたから気にしていなかったようだが、ロザンナの母やその友人は少し不気味に感じたとその後の茶会で鉢合わせないよう招待客の確認を念入りにしていたとのちに聞いた。


 ジョシュアとロザンナが婚約し、街にデートに出掛けるようになってから、街で隠れて自分たちの行動を覗き見ているマルグリットとそれを必死に諌めている従者を頻繁に見かけるようになった。

 最初の頃、ジョシュアはマルグリットが自分に興味を持っているのかと誤解していた。

 公爵家嫡男で周りからは評判も良く見た目も褒められ慣れていたジョシュアは年頃の令嬢からの誘いを多く受けて断るのに難儀していたため、自惚れていたとは思いたくないがそれでも自惚れていたことになるのであろう。


 勘違いに気がついた後に、公爵家護衛や影がマルグリットの奇行について調べ上げた内容に予想の範囲外過ぎて唖然とした。


 嫉妬や羨望でアラを探していたり、嫌がらせ目的だとおもいこんでいたら、ただただロザンナが好き過ぎてストーカー化していると結論付けられたからだ。


 ロザンナが出かけたカフェで、ロザンナが座った席に座り、ロザンナが頼んだ物を頼み。

 ロザンナが公園に行けば、ロザンナと同じ行動をして、休んだベンチで休む。

 ロザンナが友人たちとドレスショップで買い物をすれば、同じものを買い。

 ロザンナが身につけていたドレス、宝石、化粧品、香水に至るまで全て同じものを買っていたらしい。


 彼女の実家のコンラード侯爵家が資産家でなければ、いくら望んでも公爵家のロザンナと同じような買い物は難しかっただろうが、侯爵家ではお金で済むなら娘の好きにさせる方針だった。


 ロザンナ自身は特別な浪費家でなかったこともマルグリットが際限なく真似られる状況を作り出してしまった。


 学園でも茶会でも壁越しにちらりと覗くと言った具合で、ロザンナの周り以外にもマルグリットの奇行は知られ始めた頃、マルグリットが国王の婚約者に内定した。

 ロザンナ以外に害がなかったこと、マルグリットの実家に重大な問題がなかったこともあって、当時王太子だった王の希望を叶えるということで婚約が成立した。


 ロザンナのアースフィア公爵家もジョシュアのサンダーホーク公爵家もこれでマルグリットの奇行が収まるだろうと婚約に賛成した。


 前王妃の茶会に顔を出した時や式典に参加した時にマルグリットは変わらずロザンナに執着していたので両公爵家から前王妃に相談してロザンナの夜会参加や式典などの出席義務についてかなり譲歩してもらった。

 やむを得ず参加した時はマルグリットの行動が前王妃に制限されていたため、ロザンナに直接接触することはなかった。

 王太子妃となって外出が制限され、ロザンナの真似が難しくなったが、ロザンナより高位になったことで自分の持ち物がロザンナの持ち物より良いもののはずで今度はロザンナが自分の真似するはずだと思い込んだ。


 レインティアが産まれたことを知ったマルグリットから早々にマルグリットの産んだ王子との婚約がコンラード侯爵家経由で打診されたりしたが当然だが断っていた。

  

 前王妃から、マルグリットのロザンナへの想いは信仰や崇拝が混ざって、ロザンナが幸せの象徴のようなことを言っていたと報告されて、気をつけなさいと忠告をされた。

 直接危害加えられるような場面はなかったが十分恐怖を感じる執着心だった。


 その数年後、前国王が崩御され、また年を開けずに前王妃が亡くなった。

 ストッパーが外されてしまったのだ。


 王太子となったフリードリヒ王子の凡庸さは幼いころから噂されていた。

 凡庸なだけなら努力している姿があれば、皆の目も彼に優しくあっただろうが王子は勤勉さがなかった。

 教師から逃げ、机についたと思えばすぐに飽きて。そして成果が出ない。

 第二王子が生まれるまでこの王子だけで王家は、国はどうなるのかと侍従や官吏たちは未来が見通せなかった。


 王妃からのロザンナの哀願、側近たちの王子の不出来さによる懇願に負けて国王がサンダーホーク家に婚約の申し込みを打診すること数年。

 母である前王妃から、忠臣を失いたくないならばマルグリットをサンダーホーク家に関わらせるなと言う言葉を覚えていながらも、この煩わしさから解放されたいと国王はついに王命に近い書簡をサンダーホーク家に渡した。


 その後、サンダーホークとアースフィア、他王家の血筋を引く家門と幾度かの会談を交え、念入りに通常より細かく隙のない約定を取り込み、違約事項が多く厳しくされた誓約書をもって婚約を成立させた。


 王子には婚約についてかなり厳命し、レインティア、サンダーホーク家を尊重するようにいい含めたと言うがすぐに忘れたのだろう。


 教育のため早々にレインティアを王宮に上げるようにとマルグリットが言い出し、娘の教育にロザンナも付き添いでと呼ばれた時はジョシュアもサンダーホーク、アースフィア両家も他公爵家も王家にかなり強く抗議を入れた。


 マルグリットはなぜ嫌がられるのか分からなかったようだったが、レインティアを手の内に入れられることで溜飲を下げたようだった。



 レインティアは王妃と我が家の確執について早々に把握し、母の防波堤になれるだろうし、公爵家より高等な教育を受けられるかもと王家入りを前向きに考えていた。

 

 王子の噂は耳に入っていたが当時のレインティアは恋愛に興味がなく、婚姻は貴族の義務で漠然と両親の選んだ相手と結婚するのだろうと思っていたので、その相手が王子だったくらいの認識だった。


 ロザンナがレインティアがに付き添うと言うのを宥めて止めてと言う日が続き、父も兄も不機嫌さが日に日に増していった。



 学園で成績を争っていた仲の良い令嬢たちが揃って心配してくれて「レインティアが王妃になるなら私は側で支える女官になるわ」と「私たちの婚約者も王宮に仕えてあなたの側にずっといられるように頑張るから」と一緒に王宮で過ごせるように考えてくれた。


 王宮に上がって教育が始まれば、常に王妃が付き纏い、なぜか衣装も化粧もどんどん王妃に寄せられていき。

 ただ教育が難しくなっていけば王妃の張り付きは激減したのでレインティアはますます教師を増やし、講義も増やした。


 ただしばらくして王子から仕事を丸投げされるようになった。それもまた王妃が倦厭すると気がついて、国王にお願いして友人たちを女官候補として招き入れ、教育も共に受けられるようにした。


 そんな彼女たちと婚約者たちは王太子の暴走を予測した時点で退職に向けて行動していた。将来有望な部下たちの動向に各部署の上層部は目を剥いて引き留めたが誰も首を縦に振らなかった。


 彼女たち、彼らたちの家もサンダーホーク家もおそらくアースフィア家の面々も領地に帰還するだろう。


 現国王の統治には問題はないが妻と息子を放置し過ぎた。

 レインティアと言う希望が無くなった今、多くの離反者が出るだろう。


 王太子を廃し、第二王子を立てる方向に行くだろうが、サンダーホーク家アースフィア家は再び王家に尽くすことはない。


 現在王宮で重鎮と呼ばれる人物の家は、領地経営や投資、事業で十分暮らせて領民守れるだけの余力もある。

 有象無象が跋扈し、ストレスの溜まる環境で仕事をしなくても十分仕事を抱えているのでいつだって投げ出したかったのだ。


 今までは前王、前王妃に忠義、恩義を感じ息子である王を支えて来たに過ぎない。


 自分の安寧のために忠臣の家族を犠牲にしたツケは大きい。



「しかし王妃は母上の何がそんなに良いんだ?」

 ロザンナは確かに美しく華やかだが、ロザンナと同じように美しい夫人は他にもいるのだ。

「さぁなぁ。私にとってロザンナは女神だがリチャードにとってはフレイアが女神だろう?」


 昨年迎えたばかりの妻の名を出されれば、そうだと言うしかない。

 好みはそれぞれだが、やはりマルグリットの気持ちは理解できなかった。



__________


おかしい。マルグリットが暴走して話が少し伸びちゃうかもしれない・・・





 





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