高速!



 きゅるきゅるきゅるきゅる。


 右手でハンドルを回して窓を閉めつつ、左足クラッチ、右足アクセル、左手でハンドル、忙しい。


「んでも、コレが楽しい!」


 高速道路に乗って、速度も上げる。


 高速道路とは言え、制限速度は八十。


「高井戸……中央道……こっちね」


 深夜とは言え、それなりに他の車も走っている。


「おいおい、やんちゃな子ばっかりなの?」


 ぴゅんぴゅん。


 追い越し車線を過ぎ去る車たち。


 追いかけてって、制限速度守れよ! って突っ込みたくなるけど、本末転倒。


 それこそ転倒クラッシュしたらまさに本末転倒。


 ここって、高速道路とは言いつつ、結構、カーブがあるのよね。


 しかも、結構アールのきついカーブ。


 制限速度が八十になってるのはそのせい?



「ん?」


 後ろ、ぴったりくっついてくる車。


「なんかヤな感じだなぁ……」


 追い越し車線は空いてるんだから、さっさと追い越していけばいいのに。


 こっちは、法定速度プラス二~三キロをキープ。


 多分、普通の人からしてみたら、何をちんたら走ってやがんだ! 状態。


「ん、もう。若葉マークが目に入らぬかっ!」


 バックサイドに貼り付けた黄色と緑の初心者マーク。


 ばっちり見えてるハズ、なのになぁ。


「初心者保護義務、知らんのかぁ!」


 ん。でも、よく見たら。


 車間距離もそんなに近い訳じゃない。少し後ろを着かず離れず。


「よーし、それなら……」


 直線に入ったところで、アクセルをすこし離して微妙に減速。


「うわ、やるなぁ」


 速度を合わせて、ぴったり距離を保ってやがる。


 あら、やだ。お下品? あはは。


「ん、なら」


 逆に、一速落としてからフル加速して一気に八十キロへ。


「あはは。これは、ある意味、あおりだよね!」


 分岐を左に。


 もう少し走れば、制限速度百キロの広い道路に出る。


 後ろの子は、わたしの後ろを追いかけて来る。


 カーブでミラーをちらっと見たら。


「なんだ、おんなじ子かぁ」


 色も同じ車種。なんか親近感。


 向こうも、もしかしたら、そのつもりで追いかけてるのかな?


 まあいいや。


 特に目的地も無い試運転。


 車の調子は今のところ問題なし。


 百キロ巡行で問題が出ないか?


 さて、お試し、お試しぃ~。




 分岐から少し走って、料金所。


 減速からのきゅるきゅる。窓を開けて。


「こんばんわ~」


 チケットを貰って、サンバイザーに差し込む。


 きゅるきゅる窓を閉めてつつ、発車。


「いってきま~す」


 と、ふと左を見ると……


「うぉっ!」


 後ろに居た車。となりの料金所を使って並びやがった!


 ぴったり横。


「にゃろぅ!」


 ウィンカーを出して合流車線から、右サイドミラーと、肉眼で後方確認。


 走行車線へ。


 クラッチとアクセルを忙しく。


 加速! 加速! 加速!


 一気に百キロ!


「ぐはっ!」


 遅れる事なく、追い越し車線側に並ばれた。


 いや、何これ?


 なんだか、鏡を見てるみたい。


 わたしが、 姿気分でなんか気持ち悪い。


 けど、なんか面白い!


 残念ながら。


 わたしの窓も、向こうの窓もうっすらスモーク。運転席まではっきりと見えない。


 ドライバー、どんな子?


「んふふっ、まあいいや」


 しばらく。


 そうやって並走ランデブー


 すこーしだけ加速する。


 鏡の中のわたしも同じように加速する。


 すこーしだけ減速する。


 鏡の中のわたしも同じように減速する。


 うぃーんうぃーん。


 ワイパーを動かしてみた。


 鏡の中のわたしも同じようにうぃーんうぃーん。


「あはははは。何、それ!」


 緑色も鮮やかな道路標示。パーキングエリアの案内。


「お顔、拝見と行きますかぁ」


 少し加速して、左ウィンカーを見せる。


 鏡の中のわたしも左ウィンカーを出して、左に寄って、わたしの後ろに着く。


 パーキングの分岐車線へ入りながら減速。


 エリアに入って、駐車場を探す。


 いや、探すまでも無いか。


「ここらへんでいいよね」


 トラックエリア以外の乗用車エリアはガラガラ。


 自動販売機のある正面の駐車スペースに愛車を滑り込ませる。


 も、隣のスペースに滑り込んだ。


 東屋もあって、トイレも近い。


「ふぅ」


 かちゃっ


 シートベルトを外して、一息。


 ここまで、一時間もかかっていない、か。


 さて、鏡の中のわたしに、ご挨拶しますか!


 がちゃっ


 わたしは、イグニッションからキーを外し、エンジンをカットしながら、おもむろにドアを開けた。




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